教科書の単元から資料を探すページです。
本稿では、「酵素として働くタンパク質」単元の教員相互による授業評価指導案ならびに授業プリント・ワークシート、事後問題を紹介する。
北海道函館稜北高等学校 岡田敏嗣
パウル エールリヒ (Paul Ehrlich )ドイツ,1854-1915科学者人物誌―生物現代治療医学の基幹をなす化学療法の創始者パウル・エールリヒは,幼時から独創的なひらめきを示した天才的学者であった。ブレスラウ中学時代,人生は夢であるという課題の作文に,生活は酸化作用によって営まれ,夢は脳の酸化作用の変調によって現われると書き,“不可”の評点を与えられたという逸話がある。医学生となってからも無味乾燥な解剖名の暗記などは好まず,解剖の時間には組織切片を染色して細胞の構造を調べた。彼が最も興味をもった学科は化学で,学生としてすでに深い造詣をもっていたので,専門教授も讃歎したという。
東京大学大学院総合文化研究科 岡本拓司
フレデリック キャンピオン スチュワード (Frederick Steward )英国,1904-1993科学者人物誌―生物スチュワードは1904年ロンドンで生まれ,リーズ大学で化学の学士号を,植物学で博士号を取得している。彼の関心は,植物学の諸問題の解決に化学的手法を導入することにあった。彼は,はじめサトウダイコンやジャガイモ貯蔵組織のスライスを用いて,生体膜の半透性を調べていた。これらの組織は生理的に不活発で,カリウムや塩素などのイオンを蓄積している。彼はイオンの蓄積を誘導する条件を調べるうちに,温度,スライスの厚さとともに,特に酸素供給が重要であることに気がついた。これらの条件は,同時に細胞の代謝活性に大きく影響した。
東京大学大学院総合文化研究科 岡本拓司
ニューサポート高校「理科」vol.35(2021年春号)より。最近,研究室のホームページ(http://www.serizawa.polymer.titech.ac.jp/)に高校生向けの研究紹介動画を掲載しました。それをたまたま視聴された東京書籍の方から本特集への執筆依頼をいただきました。高等学校で教鞭を執られている先生方に研究紹介できる機会はそうそうありませんので,喜んでお引き受けすることにしました。
東京工業大学物質理工学院応用化学系 芹澤 武
平成16~21(2004-2009)年度版「生物II」教科書準拠。第1編 生命活動を支える物質 1章 タンパク質の構造とはたらき 1-B 生物体内の化学反応と酵素。※授業プリントとして,自由に加工・編集してご利用いただけます。
東京書籍(株) 理科編集部
平成16~21(2004-2009)年度版「生物II」教科書準拠。第1編 生命活動を支える物質 1章 タンパク質の構造とはたらき 1-A タンパク質の重要性と構造。※授業プリントとして,自由に加工・編集してご利用いただけます。
東京書籍(株) 理科編集部
平成16~21(2004-2009)年度版「生物II」教科書準拠。第1編 生命活動を支える物質 3章 生物の機能とタンパク質のはたらき 3-A 細胞膜のはたらきとタンパク質。※授業プリントとして,自由に加工・編集してご利用いただけます。
東京書籍(株) 理科編集部
タンパク質は固有の立体構造を形成して働く。立体構造が壊れると活性を失ってしまうので,タンパク質の安定性は古くから興味が持たれているが,最近あらためて注目を集める分野になってきている。簡潔に網羅してみると面白いと思うので,ここで紹介したい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質の溶液を加熱すると凝集する。これは生卵がゆで卵になるようなもので,いわばありふれた現象である。科学はこのような当たり前の現象に分け入るものだというイメージがある。次のような感じである。溶液中のタンパク質を「加熱」すれば「凝集」する,それはなぜか? というふうに,一体になっていた両者を分けて,分けた関係を科学の言葉でつなぐ。この手順で理解が進むのが本来であって,一足飛びに何かが現れるというものではないなと,最近よく思う。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
加齢とともに増えるアルツハイマー病とパーキンソン病は,いずれもタンパク質の凝集が原因とされる疾患である。研究の進展が著しく論争も多い分野だが,ここ数年でかなり整理された印象がある。今月のサイエンス誌にも,この分野を牽引するケンブリッジ大学のミシェル・ゴーダートが,かなり長い総説を報告している(1)。今回は,このふたつの疾患とタンパク質凝集との関連について簡潔にまとめておきたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
卵白はゆでると固まる。誰もが知っているありふれた現象だが,はたして固まらないようにできるのだろうか? そんな研究提案を受けたことがある。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質のデザイン技術が進歩し,巨大で安定な人工的な構造物が作製できるようになっている。ワシントン大学のデビッド・ベイカー博士らのグループは2016年7月,正二十面体構造を持つ人工タンパク質をネイチャー誌とサイエンス誌に続けて報告している。分子量100万もの構造物は,ウイルスのカプシドのように物質を運ぶことができ,加熱や化学物質に対する耐性も高く,蛍光タンパク質を結合させても構造が壊れない。これらの人工タンパク質は,タンパク質の既存のデータベースを活用せず,物理学の第一原理から計算して作られたものである。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
天然変性タンパク質とは固有の構造を持たないタンパク質のことをいう。遺伝子の転写や翻訳,シグナル伝達などの役割は,天然変性タンパク質が担っていることが多い。最近では,天然変性タンパク質は「膜のないオルガネラ」の形成に役立つという仮説も飛び出している。今回は,天然変性タンパク質の最近の研究成果と新しい仮説を紹介したい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質を水に溶かせばタンパク質の溶液になる。「タンパク質溶液」と聞いて想像するのは,ふつうこの水溶液のことである。しかし,実は,タンパク質そのものが液体になるのである。今回はこの「タンパク質液体」について紹介したい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
蛋白質の溶液を加熱すると白濁する。これを凝集という。加熱することで蛋白質の構造が壊され,分子間で集まって固まる過程のことである。一方,2種類以上の溶質によってできる液-液相分離がある。この現象は本コーナーでも何度か取り上げてきたように最近の生命科学のホットな話題になっている。細胞内に相分離してできた液滴は,蛋白質の機能の切り替えや区画化,安定化やなど動的な制御に役立っているという魅力のある仮説だ。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
なじみにくい2種類の分子が入っている水溶液は,2相に分離することがある。下の写真は研究室の学生に作ってもらった液-液相分離の例で,1ミリリットルほどの溶液が2相に分かれているのが見て取れる。高濃度のポリエチレングリコールやデキストランなどのポリマー,塩や色素などの低分子,タンパク質などを加えると,組み合わせによって液-液相分離する。実験的な再現は実に簡単である。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
最近は液-液相分離が面白くてしょうがない。ご存知のとおり「かがくのおと」のネタもこればかりである。論文もエッセイも液-液相分離,大学院の授業も集中講義も液-液相分離。先週も液-液相分離のフルコースだった。1万3千字の解説をひとつ仕上げて『現代化学』誌に寄稿し,金曜日には産総研で「相分離生物学」と題したセミナーで満員の聴衆を前に話をし,土曜日には新たな研究グループで予算を獲得するために東京に出て,タンパク質科学のニューフェーズをどう展開するのか話し込んできた。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
細胞内にはタンパク質やRNAが液-液相分離してドロプレット(液滴)を形成し,機能の区画化や物質の局在化に役立っているという報告が今もなお相次いでいる。シンプルながら実に魅力的な仮説で,このコーナー「かがくのおと」でも『ATPはハイドロトロープである』(1)というトニー・ハイマンらによる大胆な論文を紹介したのを皮切りに,2年ほどで10回以上は取り上げてきた話題だ。ではこの魅力の元になる原理は,いったいどういうものなのだろうか? 今回は生物学的相分離を理解するための古典的な見方を整理し,それを細胞内のタンパク質に適用すると何が不足しているのかを考えてみたい。熱力学や溶液化学などの既存の体系のどれを選びどのようにリバイバルさせるのかが鍵になる。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
今年は「相分離生物学」に関する講演の依頼が相次いでおり,質的にも量的にも経験したことのない状況になっている。新しい学問分野の誕生前夜の顛末を記録しておくときっと価値が出ると思うので(そういう価値が出てくることを期待しつつ),整理しておきたい。後半は,新しい分野がどこに潜んでいたのかを改めて歴史を振り返ってみたい。ある分野が深まるにつれて説明できない現象が増えていき,必然的に新しい分野が生まれてくる形が見えていると思う。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
相分離生物学の招待講演が引きも切らず,まるで「夏の全国ツアー」のような状況であることを以前に紹介した(1)。あれから2ヶ月前が過ぎてちょうど今がツアーの真っ最中だ。今この原稿を書いているのは土曜日の深夜だが,昨日は遠方からやってきてくれた人と脂質ラフトの議論をして,そして月曜日からは神戸で生物物理若手の会の夏の学校での講演があるので,日曜日の午前中には原稿を書き終えて編集部に送り,午後から夜の遅くならない時間までに100分間の講演内容を組み立てる必要がある。生物物理の夏の学校が終われば1日だけ大学で仕事をして,翌日は生命科学夏の学校のために北海道に行く。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
今回のかがくのおとは,大阪大学・蛋白研セミナーに参加したときの話をまとめてみたい。夏の全国ツアーはもちろん壇上で歌って踊るのだが,今回は観客として最前列に座り,22名もの講演者の話を聞いてきた。この分野の動きを生で感じられた貴重な2日間になった。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
神経変性疾患は脳や神経にある細胞が障害を受けて機能しなくなっていく疾患で,アルツハイマー病やパーキンソン病,プリオン病,筋萎縮性側索硬化症(ALS)などが知られている。いずれも生体内にアミロイドと呼ばれるタンパク質凝集体の沈着がみられるのが特徴である。しかし,アルツハイマー病の原因とされるAβの凝集体やその元になるペプチドをターゲットにした薬が臨床試験で頓挫する事例が相次いでおり,ALSに対しても似たような状況が続いている。そのため,脳に沈着したタンパク質凝集体は,疾患の原因ではないと考える研究者も増えてきていることを半年ほど前に紹介した。今回は,凝集体やドロプレットと毒性との関連を考えてみたい。タンパク質凝集と疾患の関係も,相分離生物学によってこれまでにない見方が可能になる。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
今回は,相分離生物学の分野から出ている新しい論文をいくつか紹介したい。「相分離」というキーワードはどこまでも広がっていくようである。まず,細胞外にある細胞接着にも相分離が関連するという大きな報告があった。シグナル伝達物質が核内のドロプレットの形成に関連するという発見や,ドロプレットが生体膜に結合されて運ばれるという発見もあった。しかし,あらためて色々な現象が関係するのだなと感心する。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
最近はアミロイドの形成プロセスに関する新しい発見が目立っている。ここ『かがくのおと』でも,今年に入ってから,「難航するアルツハイマー病の治療薬の開発」や「柔らかい凝集体と毒性」などの見方で整理してきたが,今回は拡張されるアミロイド仮説のモデルを考えてみたい。変化してきた理由には,もちろん相分離生物学の台頭があるが,もうひとつ忘れてはならないのはクライオ電子顕微鏡やイオンモビリティ質量分析装置などの新しい計測技術の著しい進歩が関係する。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
細胞内には数百g/Lもの高濃度のタンパク質が含まれている。試験管内でこの状況を再現すれば,おそらく天下一品のこってりスープくらい濃厚な状態になるだろう。このような状態で機能しているのが不思議なものだが,タンパク質は必要に応じて集まったり分散したりしながら働き,生きた状態を作り出しているのである。今回は,タンパク質の溶解度と生命の関係について,鍵となる論文をもとに考えてみたい。結論を先に述べると,多くのタンパク質は溶解度の限界まで発現して機能している。つまり,ある働きがたくさん必要だからそのタンパク質が多量に存在しているのではなく,規定しているのはそれぞれのタンパク質の溶解度なのである。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質は,溶液条件を工夫すればアミロイドと呼ばれる凝集体を形成するものが多い。知っている人は意外に少ないかもしれないが,ミオグロビンや血清アルブミン,リゾチーム,オボアルブミン,ヒストンなどタンパク質でも例外ではなく,酸性や弱アルカリにして加温するとアミロイドになる。アミロイドの形成はタンパク質に普遍的な性質のひとつなのである。今日はアミロイドについて整理してみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
酵素は化学反応の触媒として働き,細胞内に存在するあらゆる有機物の代謝にかかわっている。このことは高校生でも学ぶ基本的な内容だが,かつて私が学生のころ学んださまざまな現象の中でもとりわけ最も腑に落ちなかったのが,酵素と代謝の関係だった。それぞれの酵素の働きや,細胞全体として見たときの代謝はよく理解できるが,両者のつながりが具体的にイメージできなかったのである。例えば,糖の分解やアミノ酸の合成などを行うとき,酵素はいくつも順番に働く必要があるが,どのような仕組みで連続的に反応が進むのだろうか? 細胞内には酵素が何百種類も何千種類もあるが,なぜ混線せずにうまく働いているのだろうか? 相分離生物学が本格化するなか,この問いの重要性について考えてみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
酵素の研究は,薄い緩衝液のなかに基質をたくさん入れ,そこに少量の酵素を加え他条件で行われてきた。なぜかというと酵素の反応が分光光度計などの汎用的な装置でも測定でき,また,反応速度論で分析できるからである。このようないわば実験にとっての理想的な条件は,細胞内のものとは当然ながらいろいろな違いがある。細胞内にある酵素をどう理解したらいいのか,1年ほど前に「細胞内の酵素学へ」で整理し(1),前回は「解糖系の酵素群とメタボロンの理解」で解糖系の酵素を考えてみたが(2),今回,具体的な実験系について考えてみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
AlphaFoldはタンパク質のアミノ酸配列から立体構造を予測する人工知能である。予測した立体構造は実験で求めたものと1原子分もズレないほど精度が高い。昨年秋にコンテストで圧倒的なスコアで優勝して話題になっていたが,最近アルゴリズムが公開され,WEBベースでもプログラムが利用可能になっている。研究の世界でも人工知能(AI)が本格的に活用される時代になっている。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
線虫の研究で寿命を伸ばす新しい方法が報告されているので紹介したい。タンパク質はユビキチンのタグがつけられたあと,タンパク質の分解系に認識されるが,線虫にはユビキチンのタグ付けを逃れるタンパク質があり,それが寿命と関係するのだという。このタンパク質の発現を抑制すると線虫の寿命が2割ほど伸びる。新しい創薬のターゲットとしても,進化の仕組みから見ても面白い発見である。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質凝集の研究に取り組んで20年になる。あっという間の半生である。なかでもアルギニンはお気に入りの凝集抑制剤で,これまで出した論文を調べてみると,題名や要旨に「Arginine」と入ったものは48本もあるようだ。このテーマについて,かがくのおとでも取りあげてみようと思う。ざっくばらんに書いていくと何か面白いアイデアが浮かんでくるかもしれない,という期待もある。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
プリオンのメタファーとして「アイスナイン」という言葉が使われているのをときどきみかける。最初に用いたのはピーター・ランスベリーとバイロン・コーイーによる1995年の解説「スクレイピー感染の化学:アイスナインのメタファーからの示唆」になるだろう(1)。アイスナインとは,米国の小説家カート・ヴォネガットのSF小説『猫のゆりかご』の中に登場した特別な氷の名前である。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
ポリリン酸が面白いと研究室の学生に教わり,原著論文や総説を研究室メンバーと輪読してきた。ポリリン酸は,リン酸が連なった単純な構造を持つポリマーだが,飢餓などのストレスへの応答や遺伝子の発現制御などの役割がわかりつつあり,産業的には食品や肥料などに応用されている。最近では相分離生物学に関する発見もあって確かに面白い。今回はこの多芸な分子について少し整理しておきたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質を水溶液中でどのくらい安定に保てるのだろうか。これは特に,バイオ医薬品を扱う研究者に興味のある課題である。アミノ酸や糖などをタンパク質溶液に入れるだけでは限界があるが,それでも多少は安定化される。今でも私たちと最も共同研究の接点が多いこのテーマについて,情報を整理しながらあらためて考えてみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
牛乳のタンパク質の8割はカゼインと呼ばれるタンパク質である。牛乳が白く見えるのはカゼインが集まって粒子を作り,光を乱反射させているからである。このカゼインの構造についてさまざまなモデルが提案されてきたが,最近,カゼインの状態が液-液相分離の典型的な性質を持つという研究成果が報告されている。相分離メガネは食品の製造にも役立つようである。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質やRNAは,細胞内では集合してドロプレットの状態になっており,物質の集積や機能の区画化に役立っているという話題は,本コーナーでも2017年以降にさまざまな切り口で幾度となく取り上げてきた。今回は,細胞内に取り込まれた抗がん剤がドロプレットに選択的に取り込まれる様子が報告されているので紹介したい。細胞内にある分子は,投与された低分子薬でも例外ではなく,生物学的相分離の影響を受けているのだ。この論文が示唆するように,低分子薬の効果を理解するためには,体内での安定性や,ターゲットタンパク質への結合能のほか,細胞内のどのドロプレットに取り込まれるのかという相分離性も考える必要がある。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
有機酸や糖を混ぜると深共晶溶媒という液体ができるという面白い現象を前回紹介した。今回,深共晶溶媒中での酵素の研究がどのくらい進んでいるのかを紹介したい。今のところ論文数はそれほど多くはないが,細胞内で働く酵素の理解から産業への応用まで,これから大きく発展しそうなテーマである。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
人工知能がさまざまな分野に進出してきている。タンパク質の研究分野では,立体構造を実験データと同じクオリティの結果を推測するAlphaFoldや,ファミリーに属するタンパク質配列を創造するProGenなどがあるが,この研究がどこまで進むだろうか。タンパク質の研究分野への人工知能の進展と実験科学との関連を整理してみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
コロナ禍への対応が緩和された影響だと思うが、講演の依頼が再び増えてきた。最近は相分離生物学に関する依頼ではなくタンパク質溶液の研究の依頼が続いている。そこで久しぶりに、1時間程度の講演用のスライドを作り直しているところである。今回はこの講演を文章化しながら、蛋白質溶液学はどういうものなのか、2023年5月時点での考えを整理してみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質の立体構造を予測する人工知能AlphaFoldを使い,既知の全てのタンパク質の立体構造を読解し,データベースサイトに公開したとDeepMind社が報告している(1)。ここには実に2億個以上ものタンパク質立体構造のデータが入っており,グーグル検索をするくらい簡単に情報が入手できる。AIから人類への贈り物だというこのデータベースの意味を考えてみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質の安定性や活性などの性質は,溶液のpHに影響を受ける。そのため,タンパク質は水ではなく緩衝液に溶かして使うことが多い。例えば,リン酸緩衝液などは広く用いられている。では素朴な疑問として,緩衝液の分子そのものはタンパク質の性質に影響しないのだろうか?今回,緩衝液の分子の影響について,タンパク質の安定性に絞って整理してみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質の凝集抑制剤として,アミノ酸の一種であるアルギニンが広く用いられてきた(1)。これまで,アルギニンなどの凝集抑制剤がタンパク質をどのくらい安定化できるのか(2),タンパク質溶液に用いられる緩衝液はタンパク質の安定化剤として使えるか(3)などを本コーナーで紹介してきた。今回はタンパク質凝集抑制剤を分類してみたい。講義やセミナーなどで最も質問が多い論点である。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
生物を構成するアミノ酸は20種類である。ではなぜこの20種類のアミノ酸セットが選ばれ、現在まで変わる必要がなかったのだろうか? さまざまな理由が考えられてきたが、今回、タンパク質フォールディングの見方からこの標準アミノ酸の性質を考えてみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質の研究分野で人工知能(AI)が目立ちはじめたのは2020年頃だろうか。それから3年ほどでAIが構造生物学の分野を席巻したかのような印象がある。最近は「かがくのおと」でもこの話題を取り上げることが増えており,衝撃的な登場をしたAlphaFoldの話題や(1),ほぼ全ての既存のタンパク質構造がデータベース化された話(2),さらには汎用AIの応用や溶液系への展開(3)などを紹介してきた。それから1年足らずの間に,タンパク質の逆フォールディング問題やRNA構造までAIが急速に広がってきたので,この面白い時代の流れをあらためて取り上げてみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
ナノ粒子とタンパク質の複合体をタンパク質コロナという。この用語は2007年に提唱されたものだが,近年の質量分析計などの計測技術と機械学習による解析技術の進歩にともない,概念の広がりを見せている。最近の総説を参考に,この分野の見方や課題を整理してみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
アルツハイマー病は,加齢とともに誰もが発症する可能性がある認知症の一種である。この疾患が生化学や遺伝学と結びつき,アミロイド仮説が誕生したのは1992年のことであった。モデル研究から導かれた科学の仮説として完成度が極めて高く,それ以降,多くの研究者がこの仮説に基づいて治療薬の開発を試みてきたが,期待通りの結果は得られていないのが現状である(1)。今回,重要な論文を再読しながら,この魅力ある仮説が誕生した経緯を追ってみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
生命現象とタンパク質相分離の関連は,2017年から何度となく取り上げてきた話題で,いま最も興味を持っている研究テーマである。タンパク質の液-液相分離は,多価相互作用をしやすい特別なアミノ酸配列が重要な役割を担っているが,それだけではなくもっと普遍的に起こるものである。今回は,フォールドしたタンパク質の相分離性について,機械学習による予測と,細胞内にある見えないサイズのドロプレットの実測に関する最近の論文を読みながら,2024年時点でのタンパク質相分離の見方を整理する。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質の立体構造を推測する人工知能AlphaFold2が開発されて4年がすぎる。このAIが構造生物学の世界を一変させたが,2024年5月8日に出版されたNature誌に,タンパク質複合体の構造まで読解できるAlphaFold3が報告されているので紹介したい。予測精度も極めて高く,タンパク質構造の予測AIとしてはほぼ最終バージョンと考えてよい大型アップデートになる。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
シャペロンとは,タンパク質の凝集をふせいで構造形成を助けるタンパク質の総称である。このような働きは,タンパク質の物理現象だけでなく,高次の生命現象にも関連することが興味深い。今回は,細胞内に豊富に存在しているシャペロンHSP90の働きと,生物の進化やヒトの疾患との関わりを紹介したい。HSP90から見れば,タンパク質の構造が不安定で凝集しやすいために,生物は進化できたのだと言うことができる。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質溶液の粘度の研究は,バイオ医薬品の登場以降,産業的にも注目されるテーマになっている。今回は,一見小さいテーマながら深みのある,高濃度タンパク質溶液の粘度の研究を紹介したい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
代謝は複雑な反応である。いくつもの酵素反応が働き何千種類もの代謝中間体を経ながらATPが合成されたり,タンパク質が合成されたりする。なぜ,こういったさまざまな連続反応が混線せず進むのだろうか? 今回は酵素連続反応について考えてみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
今回はタンパク質の集合状態の話題を紹介したい。タンパク質の集合状態というと,現在では液-液相分離したドロプレットに注目が集まっており,本コーナーでもここ3年ほどは主題であった。一方,機能性アミロイドや回転対称性のあるタンパク質などはもっと古くから研究されており,最近では長期記憶に関わるという面白い仮説が登場している。また,アロステリック阻害も新しいメカニズムで説明されようとしている。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質の精製は大変である。精製が終わってようやく研究のスタートラインに立てるというのに,むしろそこまでが大変なのである。大学院生の頃を思い出すと,10日かかって10ミリグラムも精製できれば大成功だった。その後,ポスドクになって超好熱菌のタンパク質を精製するための特別な技を教わったときには感動したものだった。それらの経験が現在の研究テーマの原点になっている。今日はこの思い出を記録しておきたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
細胞の中はタンパク質やRNAなどの高分子が豊富に含まれており,およそ300 mg/mLにもなるとされる。このような高分子がたくさん含まれた状態を「高分子クラウディング」や,単に「クラウディング」という。クラウディングによってタンパク質分子は,立体構造や活性など広く影響を受ける。今回はクラウディングの研究成果を元に,細胞内の様子を考えてみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
いま生物学を席巻しているのがCRISPRだ。クリスパーと呼ぶ。原核生物が持つ感染防御の仕組みが理解され,これがゲノム操作に応用されている。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
酵素は基質があるとなぜか拡散が速くなる。最初にこのふしぎな現象が報告されたのは2010年である。ウレアーゼという酵素は,基質になる尿素があると拡散が速くなったのだ(1)。放牧中の羊が牧草を求めて散らばっていくようなイメージで,とても面白いなと思っていた。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
生命科学の分野では今,液-液相分離がホットな研究テーマになっている。これまで,「かがくのおと」でもこの話題をいくつか取り上げてきたが,今回,プリオンタンパク質も細胞内で液-液相分離をするという論文を紹介したい(1)。プリオンタンパク質は強固な凝集体を形成して感染因子になることが知られていたが,このたび,ストレスに応じてゲル化し,ストレスから守る働きもあるようだ。そのために,この危険なタンパク質が進化的に保存されてきたのかもしれない。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
細胞内には液-液相分離してできたさまざまな種類の液滴がある。この液滴は「膜のないオルガネラ」とも呼ばれ,細胞内のさまざまな機能をパッケージしたり,温度やpHなどの環境変化に対するストレス耐性を持たせたり,転写や翻訳やシグナル伝達などの細胞内情報伝達のあちこちに関係するなど,細胞内の機能に関する新しい発見が毎週のようにトップジャーナルを賑わしている。ここ「かがくのおと」でも,この1年で6回も取り上げてきたテーマである(1-6)。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
DNAに書き込まれている遺伝情報は,メッセンジャーRNA(mRNA)へと転写されてタンパク質へと翻訳される。そしてタンパク質が働きを担って生命現象を作り出している。このような分子生物学の「セントラルドグマ」から見れば,mRNAは完全に脇役である。しかし最近の研究によると,mRNAは遺伝情報の単なるコピーではなく,遺伝子の発現や局在化を制御する働きも合わせ持つことがわかりつつある(1-4)。mRNAは,遺伝情報をいつどこで発現するのか,自身の配列にコードしているということになるのだ。そこにはもちろん,本コーナーで何度も取り上げてきた「膜のないオルガネラ」が関係する(5,6)。今回は,液-液相分離とともに理解されつつあるmRNAについて整理してみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
ほ乳類の細胞内に「膜のないオルガネラ」を作らせた論文がサイエンス誌に報告されている(1)。非標準アミノ酸を持ったタンパク質の合成を試みたものだ。今回は,相分離生物工学の時代の幕開けとなる成果を見ていきたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質は細胞内で液-液相分離して集合して働くという仮説が登場し,相分離生物学と呼べる新しい分野が急成長してきた。同時に,実験的な取り扱いや考察に難のある論文も目につくようになり,「ずさんなサイエンスか,それとも画期的なアイデアか? 細胞内の組織化に関する理論は生物学者を分断させる」というちょっぴり過激な題名をつけた解説がサイエンス誌に出たりもしている(1)。今回は,論争が起こっている現在の論点をざっとあげてみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
細胞には高濃度の物質が含まれているが,高濃度であることは,細胞を生きた状態にするために必要なのだろうか? 今回はこの視点について,これまで書いてきた「かがくのおと」のテーマ,クラウディングや液-液相分離,凝集,溶解度,深共晶溶媒などの視点からあらためて整理してみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
タンパク質は固有の構造を形成して働く。これはタンパク質の基本的なドグマだが,最近,構造を形成せずに働くタンパク質が話題になっている。日本語では「天然変性タンパク質」,英語では「Natively Unfolded Protein」や「Intrinsically Disordered Protein」という。タンパク質のことを知っている人に「おや?」と思わせる,インパクトのある名前だ。
筑波大学大学院数理物質科学研究科准教授 白木賢太郎
新型コロナ感染症のため,これまで経験したことのない日々が続いている。最近では「コロナ禍」という用語が広く使われはじめたように,大学での日々も,感染症そのものよりもむしろその対策による影響が大きい。私たちの行動が制限されたことで地球全体の二酸化炭素の排出量が17%も減少し,10年かかるとされていた削減量の大目標をあっという間に達成したのは皮肉な話である。コロナ禍のなかでもウイルスの研究はものすごい勢いで進んでおり,論文データベースサイトのPubMedに登録されているだけでも約4万本の論文がすでに報告されているようだ。今回は相分離生物学から見えてきた新型コロナウイルスのメカニズムについて整理してみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
ウィキペディアの項目の一つ「タンパク質」を,院生たちと共読したことがある。卒業研究の学生が配属になったころ,新人研修の資料に使ってみたのである。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎
これまで15年間ほど,タンパク質しか研究していない。つまり私に書けるものは,タンパク質しかない。そんなことで,何かは書けるはずだと高をくくっていたのだが,さいしょに会った編集者に「先生にとってタンパク質って何ですか」といわれて,はたと答えに窮した。タンパク質とは何か。
筑波大学大学院数理物質科学研究科准教授 白木賢太郎