ハインリッヒ ヘルマン ロベルト コッホ (Heinrich Hermann Robert Koch)
ドイツ,1843-1910
科学者人物誌―生物
東京書籍2002年10月作成
ロベルト・コッホは,不撓不屈の生涯を生き抜いた細菌学の始祖である。ゲッチンゲン大学を卒業して医師となった若き日のコッホは,東プロシャの片田舎を転々と移住するあまり栄えない一開業医であった。しかしパスツールの病原体説を実地に応用した英国のリスターの無菌的外科治療の成功を伝聞し,彼は鬱勃たる研究心に駆られ,夫人から28回の誕生祝に贈られた顕微鏡を使って細菌の写真撮影に情熱を燃やした。当時,欧州の農家では緬羊や山羊の間に炭疽が大流行し非常な打撃であった。屍体の血液中に桿状体が長糸状に連なっているのが認められ,フランスの学者で,これを病原に擬したものもいたが,運動がないので生物と断定することができなかった。
東京大学大学院総合文化研究科 岡本拓司