[本文より]白熱電球は,いまどきの複雑な電気機器と比べると,極めてシンプルな電気器具である。1879年のエジソンによる実用炭素電球の発明以来,長きにわたって愛用されてきたこのロングセラー電気器具は,極めて熟成された器具で,単純そうだが幾多の工夫がそこここに生かされている。最大の特長は,フィラメントであろう。人工の明かりを太陽光に近づけるためには,フィラメントを太陽表面温度の6000Kに近づければよい。しかし,そんな高温で溶融しない物質は,地球上にはない。そんな中でも,電流が流れて,しかも融点の高い物質としては,エジソンが選んだ炭素であり,現在のフィラメントに使われているタングステンがある。いずれも1気圧下での融点は,3000Kを越す。それでも,黒体輻射の理論からすれば,赤外線領域の光の割合が太陽光より多いが,太陽光に近い分光分布が得られている。
東京学芸大学附属高等学校 川角博