[本文より]芥川龍之介の『羅生門』は,高校教科書の定番として永年に渡って授業で扱われてきました。指導書の参考資料の部分では必ず,『今昔物語集』巻二十九「羅城門登上層見死人盗人語第十八」や巻三十一を主要な典拠として挙げています。それでは,この『今昔物語集』を先生方はどのように利用なさっているでしょうか。単なる典拠として紹介されるだけでしょうか。それとも何か一工夫加えられているでしょうか。小説教材を扱う際には,よく主人公を始めとして,登場人物の設定を生徒に考えさせたり,生徒と一緒に考えたりされると思います。そのようなときに是非参考にしていただきたい論文があります。それは,『テクストのユートピア』(『前田愛著作集第六巻』)「文学テクスト入門」第五章百七十六項~百八十六項の部分です。この文章は,残念ながら未完に終わっていますが,大変示唆に富んだ内容です。この文章をヒントとして,生徒に作品の成立の一部分を考えさせる導入を提案したいと思います。
福岡県立大川樟風高等学校 松岡浩也