大学2年生のころの化学系の講義だったと思う。教室に現れた教授が,先週号のNatureにすばらしい論文が出ていたんだと言った。いつもは教える気がなさそうに教科書を淡々と読んでいるだけなのに,意外にもきれいな絵を黒板に描いて,楽しげに解説をはじめた。教授の頭は目下そのことで一杯になっており,溢れたものが体中から出ているようだった。今から思うとあの話はカーボン・ナノチューブの発見の論文で,具体的な内容はほとんど理解できなかったが,いい大人が科学的な発見に驚き,心から面白がっている,そんなことがいっぱい分かるようになれば気持ちいいんだろうなと思った。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎