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アルバート フォン セント・ジェルジチェコスロバキア,1893-1986科学者人物誌―生物東京書籍2002年10月作成生物科学者は,魅力的な新しい物質を発見し,その作用機序を解明して新しい研究分野を開拓したいと願う。アルバート・セント・ジェルジは,ビタミンCの発見,細胞呼吸経路の提唱,筋収縮のしくみ解明と,三つのホームラン級の業績を挙げた20世紀最高の生化学者の一人である。第二次世界大戦中は平和のためスパイ活動をしたり,戦後はハンガリー大統領候補に推されたが,ソビエト共産主義に反抗してアメリカに亡命した。ベトナム戦争反対運動をしたり,4回も結婚した波瀾万丈の生涯を送ったロマンの人である。セント・ジェルジは,1893年9月16日,3代基礎医学教授が続いたブダペストの名門に生を受けた。ブダペスト大学医学部に進学,伯父(解剖学教授)の指導下で20歳にして組織学の学術論文を発表した。生命現象の解明をめざして,彼は,生理学,薬理学,細菌学,物理化学を学んだ。第一次世界大戦に軍医として出征したセント・ジェルジは,わざと自らの左腕を銃撃して負傷し,除隊した。以来,彼の平和を願う信念はゆるがぬものとなった。
東京大学大学院総合文化研究科 岡本拓司