[本文より] 森鴎外の作品「舞姫」は,多くの先生たちが考えていますように,今の高校生にとっては全くの古典です。ですから初めて教科書でお目見えする時の,「これやるのかよ」といった,教室からの湧きあがるため息や「エーッー」と言う叫び声は,聞き慣れたとはいえ,導入の段階から,相当のエネルギーを割くことになります。
漫画やテレビの映像世代における活字離れは,今更言うまでもありませんが,近年更に加速している現状があります。特別の進学校ならいざ知らず,このような生徒たちにとっては先ず,読めない,たとえルビを頼りに読みこなしたとしても,今度はあの言い回しが理解できない,したがって作品のテーマなど遠く及ばない世界になる,というのも無理からぬ話です。
加えて「『舞姫』は教材としてもう時代にそぐわない」という,先生たちの声も耳にします。しかし私は,国語の世界にも「効率」を求められようとしている今だからこそ,逆に『舞姫』は苦労しても,生徒と共に取り組みたい教材だと思っています。今までの経験でも,取り組みが終わった後の感想で,多くの生徒が「国語の勉強をした!という気がした」と述べています。
東京都立野津田高等学校国語科 藤森由美子