ニューサポート高校「社会」vol.32(2019年秋号)より。「公共」が新科目として設置されたことで,これまで内外で注目されてきた「シティズンシップ教育」を,いよいよ日本の高校でも本格的に展開できるチャンスが来たと,期待を持って受けとめる向きも少なくない。筆者もそうなってほしいと願う一人であるが,しかし,慎重に考えておくべきこともある。 そもそも「シティズンシップ」あるいは「シティズンシップ教育」の概念には,実はかなりの幅がある。そうであれば,「公民としての資質・能力」の育成をめざす新科目「公共」が,シティズンシップ教育を担いうる科目であることは大方の認めるところであるとしても,それがいかなる性格のシティズンシップ教育を実現するものなのかは,十分に吟味される必要があろう。今回の小論では,これまでのシティズンシップ論の諸類型を整理しつつ,それと新科目「公共」との照応関係について考えてみたい。
法政大学キャリアデザイン学部教授 児美川孝一郎