DNAに書き込まれている遺伝情報は,メッセンジャーRNA(mRNA)へと転写されてタンパク質へと翻訳される。そしてタンパク質が働きを担って生命現象を作り出している。このような分子生物学の「セントラルドグマ」から見れば,mRNAは完全に脇役である。しかし最近の研究によると,mRNAは遺伝情報の単なるコピーではなく,遺伝子の発現や局在化を制御する働きも合わせ持つことがわかりつつある(1-4)。mRNAは,遺伝情報をいつどこで発現するのか,自身の配列にコードしているということになるのだ。そこにはもちろん,本コーナーで何度も取り上げてきた「膜のないオルガネラ」が関係する(5,6)。今回は,液-液相分離とともに理解されつつあるmRNAについて整理してみたい。
筑波大学数理物質系物理工学域教授 白木賢太郎