戦争と平和を伝える子どもを育てる総合学習「艦内誌『不朽』」(9,833KB)
● 戦後70年が過ぎ,戦争体験者は高齢化し,その体験を聞くことで「戦争」や「平和」について考えさせることは至難の時代となりました。こうした折,学区の民家から,戦中に撃沈された伊号(いごう)第29潜水艦の艦内誌「不朽」の創刊号が寄贈されました。本論文は,この希少な資料を,展示物としてではなく教材として扱うことで,平和教育の一方法とすることを企図し,実践し,まとめたものです。具体的には,保存状態があまりよくないこの艦内誌「不朽」を,文字化,電子化して「復刻」する作業を通じて,また,「復刻完成報告会」を開催することを通じて,「戦争」や「平和」について自ら考え,その思いを発信する活動です。この「復刻」という作業があったからこそ,児童は,潜水艦内の過酷な様子や乗組員の心情を読み取り,「平和」について実感をもって考えることができたのではないかと考えます。一文字一文字に込められた書き手の心情やその背景に迫るための優れた方法上のアイディアとして高く評価されるべきものだと考えます。なお,金子先生は,過去に3度の受賞経験,第17回中学校の部・優秀賞,第26回小学校の部・優秀賞,第29回小学校の部・特別賞の受賞経験があります。
CAN-DOリストを活用した英語科授業の実践(13,735KB)
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本論文は,英語科における具体的な学習到達目標である「CAN-DOリスト」の作成・開発と授業での活用に重点を置いた研究です。「CAN-DOリスト」は,3カ年の見通しをもった「全体リスト」とそれを細分化した「単元別リスト」で構成されていますが,特に,「単元別リスト」では,生徒が身近に使うことができ,普段の授業で活用できるものという形で改良されています。例えば,絵文字を取り入れたり,「What more can you do?」という自由記入欄を設けたり,さまざまな工夫が見られます。生徒が,高いモチベーションを保ちつつ,学習のプロセスをより深く認識するよう育っていく姿が示されています。
多くの先行実践や研究成果を参照しつつ長期間にわたり継続的かつ緻密に取り組まれた実践であり,「学習者主体」の視点から「CAN-DOリスト」を改良進歩させていく姿勢,また,外部試験の結果を取り入れて英語力の向上を常にチェックして進めている点等,高く評価できます。
21世紀の学びを変える ICTを活用した小中一貫教育のあり方(6,722KB)
● 本論文は,「中1ギャップ」に象徴される,6-3制の学校制度では解消できない教育の限界を,9年間連続した「学び」である4-3-2制の小中一貫校の導入によって克服するものです。また,環境・キャリア・歴史文化・防災・外国語などについて問題解決的な学習に主体的に取り組み,「21世紀型スキル」を習得する「つくばスタイル科」の創設と展開についてもまとめられています。市をあげての小中一貫校創設の貴重な記録になっています。特に,小中学校間の時間的・空間的距離を埋めるためのテレビ会議や電子掲示板の活用や「つくばスタイル科」におけるさまざまな電子機器の活用など,ICTを活用することで小中一貫教育での9年間の学びを効果的に実現した経緯が的確にまとめられています。なお,柿沼先生は,第26回中学校の部で特別賞を受賞しています。
「食の掲示板」を生かした給食指導・食育の推進(12,702KB)
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本論文は,食育を通して「健やかな心と身体の児童の育成」を追求した2年間の実践をまとめたものです。給食の献立とともに食材や食文化に関する情報,食事のマナーなどについて紹介した「食の掲示板」を設置し,給食での学びが児童の実生活に結びつくよう工夫しました。また,給食時間に「食育タイム」を設定し,実践の中で,「食」と「心」を結び,生涯にわたって健康で豊かな生活を自ら創りあげる子どもの育成を目指しました。
創意工夫のある数多くの実践が,子どもたちの生き生きした活動の場面とともに紹介されています。きめ細かい学習計画をもとに,関係諸機関との連携を深めながら給食指導・食育を推進している様子がよく伝わってくる優れた論文です。
科学的に探究する力を育むための小中連携の在り方(8,991KB)
● 本論文は,「科学的に探究する力」を育むために,小中学校理科の連携をどのように行っていけばよいかを考察したものです。小学校理科の学習で身に付けた問題解決能力を,中学校理科の学習の中でより生かし,「探究的な学習活動」を充実させていく方策を探った実践です。具体的には,「比較する」「関係を考える」「条件に注目する」「原因を推測してみる」など,小学校段階で身に付けてきた問題解決能力を生徒に再度意識させ,その上で,目的意識をもって観察や実験などを主体的に行い,得られた結果を分析し,解釈する活動を充実させることが重要だとし,実践を紹介しています。加えて,小中学校の教師同士で情報交換会を行う,中学校の理科専任教師が小学校で理科の授業実践を行うなど,校種間交流研修を実施することで,地域全体で「科学的に探究する力」を育てる実践が報告されています。研究組織の作り方,メンバーの育成方法を含めて,すばらしい実践です。
見通しと振り返りを重視した数学的活動の授業づくり(8,049KB)
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本論文は,「学習の見通しを立てたり,学習したことを振り返ったりする活動」を数学的活動に位置づけることの意義を,学習意欲の面,数学的な思考力・表現力の観点から検討したものです。
「見通す・振り返る」学習活動を,その対象から4つに区分しています。すなわち,「結果の見通し」「過程の見通し」「結果の振り返り」「過程の振り返り」の4つです。そして,それぞれその意味づけや価値づけについて具体的な実践の中で検討しています。1年生の「比例を用いて具体的な事象をとらえ説明する事例」,2年生の「図形の性質の証明を読んで新たな性質を見いだす事例」,3年生の「2点から等角である点の集合をかく作業を振り返り,円周角の定理の逆を見いだす事例」の3つの実践が報告されていますが,学習活動の要に当たる場面に注目し,声掛けや発問を行うなど,高く評価できる実践です。
家庭と学校の連携をめざして発行した道徳通信の効果の検証
図,表をかき,説明し,話し合う児童の育成
英語を学ぶ本当の意味とは
産業学習における自分の生活をより実感できる教材の開発について
ガーナに賭けた青春
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本論文は,ガーナ共和国の人々との交流の中から生まれた,「ガーナについて知る・考える・行動する」という3年間にわたる活動が,生徒の自己有用感や自尊感情を高め,他者のために進んで行動しようとする原動力となった実践をまとめたものです。
事前のアンケートで,生徒たちが,「他者の気持ちが考えられず,自分のことを大切に捉えられない」のは,これまでの経験の中で,自分に価値があると感じる場面が少なく,認められた経験が少ないからではないかと考えた先生は,ガーナの子どもたちや青年海外協力隊の隊員のために,生徒たちが自らできること,周囲に発信できることを考え,活動することで,「自らの存在を大切に思い,他者のために尽くしたいという気持ち」を育てます。生徒の変容が目に浮かぶようで,すばらしい実践です。
ICT普及と質の向上を目指して ~大切なのは「機器」ではなく「授業」~
アクティブ・ラーニングによる授業改善 ~「教え」から「学び」へ~
自ら学び続ける自律した英語学習者の育成
■審査委員
赤堀 侃司
東京工業大学名誉教授
市川 伸一
東京大学大学院教授
杉山 吉茂
東京学芸大学名誉教授
武内 清
敬愛大学特任教授・上智大学名誉教授
谷川彰英
筑波大学名誉教授
壷内 明
前聖徳大学大学院教授・元全日本中学校長会会長
鳥飼 玖美子
公益財団法人中央教育研究所理事
東原 義訓
信州大学教授
三上 裕三
元全国連合小学校長会会長
●東書教育賞は教育現場を支援します 東京書籍代表取締役社長 千石雅仁(1,358KB)
●第31回「東書教育賞」審査委員の講評・所感(6,540KB)
●あとがき(公益財団法人中央教育研究所所長)(1.106KB)
東書教育賞は1984年,東京書籍の創立75周年を記念して設けられました。教科書の発行という公的な事業を行っている会社の社会還元という見地から,ここまで東京書籍を育てていただいた教育界への感謝の気持ちを込めて設置されたものです。
教育現場の地道な実践活動に光を当て,優れた指導法を広める橋渡しをお手伝いしようというものです。