新学習指導要領で育成を目指す「問題解決の力」と
全国学力・学習状況調査の「活用」の枠組みとの関連
小学校理科の全国学力・学習状況調査での活用に関する問題は,「適用」「分析」「構想」「改善」の枠組みで出題されています。この枠組みは,新学習指導要領で育成を目指す問題解決の力と関連があります。例えば,主に第6学年で育成を目指す「より妥当な考えをつくりだす力」には,実験結果を「分析」して考察したり,自他の考えの違いを捉え,多様な視点から自分の考えを「改善」したりすることが求められます。活用の枠組みの趣旨を捉え,実社会・実生活で生きて働く汎用的な学力を育成する視点として,日々の授業に位置付けて指導に当たることが大切です。
北海道教育大学旭川校 准教授 山中謙司
(前 国立教育政策研究所 学力調査官)
単元末の問題で,学力の定着と向上を保障します
単元末の「たしかめよう」の「考えよう」では,「活用」に関する問題の4つの枠組みに沿った問題を掲載しています。児童の問題解決の力の育成状況を見取るとともに,「活用」の力を育成することができます。
「適用」を枠組みとした問題
知識・技能を実際の自然や日常生活などに当てはめて用いる
4年p.107「自然のなかの水のすがた」
「構想」を枠組みとした問題
問題点を把握し,解決の方向性を構想したり,問題の解決の方法を想定したりする
5年p.117「物のとけ方」
「分析」を枠組みとした問題
観察,実験の結果などについて,その要因や根拠を考察し,説明する
6年p.119「大地のつくり」
「改善」を枠組みとした問題
多様な観点からその妥当性や信頼性を吟味することなどにより,自分の考えを批判的に捉え,改善する
6年p.67「植物のからだのはたらき」
調査結果から見られる課題に対応できます
●平成30年度の全国学力・学習状況調査の結果から見られる課題として,以下のような特徴が報告されています。
- 予想が確かめられた場合に得られる結果を見通して実験を構想したり,実験結果を基に自分の考えを改善したりすることに課題がある。
- 既習の内容や生活経験をものづくりに適用することに課題がある。
- 観察,実験の結果を整理し分析して,考察した内容を記述することに課題がある。
(文部科学省 国立教育政策研究所「平成30年度 全国学力・学習状況調査 報告書」より)
「予想が確かめられた場合に得られる結果を見通して実験を構想すること」の課題への対応
「計画しよう」では,自らの予想が一致した場合に得られる結果を見通す場面を設定しています。
4年p.174「水のすがたと温度」
5年p.81「流れる水のはたらき」
結果の見通しと,実際の観察,実験の結果を比較できるように,表の形式を工夫しています。
5年p.31「植物の発芽と成長」
「実験結果を基に自分の考えを改善すること」の課題への対応
「考察しよう」では,観察,実験の結果を自分の予想や結果の見通しと比較したり,友達の考えを聞いたりしながら,自分の考えを振り返り,より妥当な考えに改善する過程を分かりやすく示しています。
6年p.63「植物のからだのはたらき」
6年p.184「水溶液の性質とはたらき」
「既習の内容や生活経験をものづくりに適用すること」の課題への対応
既習の内容や生活経験を基に,目的を設定し,計測して制御するといった考え方に基づいたものづくりの活動を充実させています。
5年p.144~145「電流がうみ出す力」
「観察,実験の結果を整理し分析して,考察した内容を記述すること」の課題への対応
観察,実験の結果を整理して分析する活動を授業で充実させるため,対話の内容を工夫したり,ノートや記録カードの例を積極的に取り上げたりしています。
5年p.84「流れる水のはたらき」
考察場面では,先生キャラクターの吹き出しも活用し,観察,実験の結果から得られた事実を根拠として捉え,結果からいえることを考えることを促しています。
3年p.120「物の重さをくらべよう」
4年p.72「暑くなると」
ノートや記録カードの例を積極的に取り上げています。また,各学年の巻末の「資料」では,ノートや記録カードのかき方について取り上げています。
●平成30年度の全国学力・学習状況調査では,学習指導の改善・充実を図る際のポイントとして,以下のようなことも挙げられています。
- 実験結果を基に分析し,問題に正対したまとめができるようにする。
- 複数の情報を関係付けながら,多面的に分析して考察できるようにする。
(文部科学省 国立教育政策研究所「平成30年度 全国学力・学習状況調査 報告書」より)
「新しい理科」では,これらの課題にもしっかりと対応しています。
「問題」に対応した「まとめ」
「まとめ」の内容は,児童が自ら見いだした「問題」の答えとなる表現でまとめています。
4年p.63〜64「雨水のゆくえと地面のようす」
観察,実験の結果(事実)と解釈を分けて記述する必要性を捉えることができるようにしています。
情報を共有しながら学び合う場面の設定
児童が自分の目的に応じて分担して調べ,複数の分かったことから,どのようなことがいえるのかについて話し合う場面を設定しています。
5年p.123, 128〜129「人のたんじょう」
山中謙司
北海道教育大学旭川校
准教授
(前 国立教育政策研究所
学力調査官)
調査結果を基にした不断の授業改善を
全国学力・学習状況調査の目的の一つには,指導の課題を把握・分析し,改善・充実を図ることがあります。調査結果を児童が抱える課題として受け止めるだけにとどめず,指導上の課題として捉え,指導の改善につなげていくことが求められているのです。
しかし,平成30年度の調査結果から明らかになったいくつかの課題は,過去2回の調査においても,課題とされていた内容です。先生方は,この課題を受け止め,日々の授業改善に努めていらっしゃいますが,なかなか結果が伴わず,ご苦労されていることではないでしょうか。
この教科書では,調査で明らかになった全国的な課題を踏まえ,その改善の視点を授業レベルで具体化して示しています。この教科書が,児童に未来の創り手となるために必要な知識や力を確実に備えるための,日々の授業改善に向けた取り組みの一助になることを期待しています。