道徳のこと。 ぜひ,ご一緒に。
「特別の教科 道徳」の
要点を徹底解説

「いじめをしない,許さない心」を育てる ―ユニット「いじめのない世界へ」の活用―

東京福祉大学特任教授

福田 富美雄

1.いじめ問題が,「特別の教科 道徳」へのきっかけに

 今回,道徳だけが学習指導要領の改訂を行い,教育課程上の位置付けを改めるきっかけとなったのは,平成23年に大津市で中学生のいじめ自殺事件が起きたことによる。それまでも教科化に関する議論はあったが,教科書,評価,教員免許の問題をクリアできず,具体化しなかった。しかし,事件発生を契機に,道徳教育の実施状況を踏まえ,いじめ問題への抑止力となる道徳性を育てる道徳教育の充実・改善をこれ以上待てないとの判断があった。もとより道徳教育は,子どもたちの人格形成と生き方に深くかかわる教育活動として,学校教育の中核に位置付けられるべきものであり,子どもたち自身と我が国の未来にもかかわる重要かつ喫緊の課題であることは論をたない。

2.児童に「いじめをしない,許さない心」を育てる

 平成27年度版東京書籍小学校道徳副読本では,いじめ問題への対応として,全ての学年で,「いじめのない世界へ」のユニット学習を提案している。ユニットは「とびらページ+いじめを題材として直接扱った直接的資料+いじめを生まない心を育てる間接的資料」で構成されている。
 とびらページには,学年ごとの学習内容や発達段階を考慮したタイトルが付けられ,二つの資料の場面絵などがあることから,ユニット学習の導入やまとめなどで使える。

 3年のとびらページ(図1)では,「楽しいクラスをつくるのは,だれだろう?」と問いかけている。楽しくて,みんなが仲よしのクラスづくりの妨げとなっている問題や,それを取り除いていくのは自分たち自身であることを意識させて,一つめの資料に入ると効果的である。

 「しょうたくんの手紙」は,学級で起きているいじめ問題を題材としている直接的資料である(図2)。いじめにあって学校へ来られなくなった転校生のしょうたくんが書いたみんなへの手紙。手紙を書いてもらった担任の先生は読んで聞かせた後に,自分たちで決めた学級目標の「『みんななかよし,楽しいクラス』にするために,自分はどんなことをしますか。」と問いかける。この問いに,クラスのみんなが考えたことは,資料には書かれていない。ここは,学習する児童自身が資料の場面に自我関与させながら主体的に考えたり,他者の発言から学んだりして道徳的な判断力を高めるところである。
 この資料を活用する授業では,学級の全ての児童にとって居心地のよい楽しいクラス,誰もが大切にされるクラスをつくるという観点から,当事者意識をもっていじめ問題を考え,道徳的判断力や態度を高めることが期待できる。

 二つめの「いいち,にいっ,いいち,にいっ」は,運動会の二人三脚の組み合わせを題材として,互いを理解し合って協力し合うことの大切さに気付かせることができる資料である(図3)。「あいちゃんと組むのは,いや。」と言った同級生に対して,言葉では「あいちゃんにわるいわ。」と言った主人公も,本心ではあまり話したこともなく走るのも遅いあいちゃんと組むのは嫌なのである。結局あいちゃんと組むことになり,練習を重ね,本番。競技後には「あいちゃんのおかげ」と言い切るまでに,主人公の気持ちは変化する。一時の感情,表面的な判断によって陥りやすい一面的な人物評価は,人それぞれがもっているよさを互いに認め合って助け合うという,ほかの人とのかかわりに関する大事な考え方を損なわせてしまう。その結果,仲間外れやいじめにつながっていってしまうということに気付かせることで,いじめを生まない心の育成と深くかかわる。

「いじめのないせかいへ」 3年


図1 とびらページ 3年p.25


図2 「しょうたくんの手紙」
3年p.26~28(愛校心)


図3 「いいち,にいっ,いいち,にいっ」
3年p.29~32(信頼・友情)

3.ユニット学習の目指すところと期待される効果

 このように,複数時間をかけた「いじめのない世界へ」のユニット学習を行うことによって,いじめ問題への対応という中心軸に関して,多面的・多角的に考えさせることがこれまで以上に具体化できるようになる。これが,期待される一番の効果である。
 また,「愛校心」と「信頼・友情」という異なる視点の内容項目で構成するユニットとなっている。このことは,平成27年3 月に告示された小学校学習指導要領第3 章第3 の2 の(2) に示されている,配慮事項の「内容項目の相互の関連を捉え直したり発展させたりすることに留意する」ことと軌を一にする指導展開であり,その先駆け的な具体例とも言える。
 さらに,このユニットが目指すところには重大な意図が込められている。それは,子どもたちを取り巻く今日的状況に関する重要な課題である「いじめをしない,許さない心」を育てる指導の充実を期した指導計画であるということである。つまり,ユニット学習は,単に行えばよいというものではなく,重点的な指導内容に関してほかの指導以上に特別に行うという意図があり,これに基づいて計画的に行うという考え方が重要なのである。

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