山口大学大学院准教授
松岡 敬興
道徳的価値について,生徒一人ひとりに内面的理解を醸成することが,道徳の時間での重要な役割である。その際,道徳的実践の具現化につながる学びの場として,議論が求められる。
道徳的理解を道徳的実践へと高めるには,内面的理解が不可欠である。道徳的行為は,道徳的価値へ「なるほど」と
生徒が,読み物教材の中心発問に対して,自分自身と同次元で考えることが肝要である。つまり二人称ではなく一人称で考えることで,理由づけをもって道徳的判断を下すことができる。道徳的行為を裏づける根拠を明らかにするプロセスにおいて,指導者には,生徒の気持ちに寄り添った,深いアプローチが望まれる。
また読み物教材についても,生徒に動機づけを図るうえで,発達段階を踏まえ,より興味・関心を抱けるものを精選するように留意したい。
人は自ら考えを理解へと到達させられる一方で,仲間とともに考えを交流し合うことで,理解がもたらされることもある。生徒一人一人が
意見を交換し議論することで,自らの考えをブラッシュアップし,自分だけでは気づくことのできない考えに触れることで,物事を多面的・多角的に見ようとする構えが培われる。
そのとき,既存の知識や体験を踏まえながら,自らの考えと関連づけたり,根拠を明確にしたうえで結論との関係性をもたせたり,議論を注意深く批判的に捉えたりするなど,深いアプローチをグループワークで進めることが重要だ。
授業で学び得た道徳的価値が何なのか,それは自分にとっていかなる意味を持つのか,そして「次の一手」をどのように構築するのか,については内省の場面で取り組みたい。熟慮により理解した内容を,自分の言葉で最も適切に表現することである。決して脳裏のイメージで終わらせることなく,表現を通して整理することに取り組まなければならない。すると生徒には,これまで教材に対して抱いていたイメージと明らかに差異のある気づきがもたらされ,内面的理解のステージへと押し上げられる。
生徒が能動的に取り組む道徳の時間をデザインするうえで,指導者は,学習目標,動機づけ,学習方略を三位一体で構築する必要がある。「アクティブ・ラーニング型授業」を展開するうえで,指導者自身がプレイヤーの一人であることへの自覚が不可欠である。教授学習のパラダイム転換により,道徳の時間を通して,生徒に多面的・多角的な思考を呼び起こし,将来を見据えた生き方を新たに見いだすことが可能になる。