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「特別の教科 道徳」の
要点を徹底解説

小学校道徳における「アクティブ・ラーニング」

明星大学教育学部教育学科 准教授

小林 幹夫

 教育課程企画部会論点整理の中で,次期学習指導要領の視点として,子供たちが「何を知っているか,何ができるか。」だけでなく,「知っていること,できることを使って,どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか。」という,身に付けた知識・技能等を目的に応じて主体的に活用できる資質・能力を総合的に育むことを目指しています。具体的には,育成すべき資質・能力を以下の「三つの柱」として示しています。

1 何を知っているか,何ができるか。(個別の知識・技能)
2 知っていること,できることをどう使うか。(思考力・判断力・表現力等)
3 どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか。(学びに向かう力,人間性等)

 その具体的方策の一つが,アクティブ・ラーニング(課題の発見・解決に向けた主体的・恊働的な学び)であり,日々の授業における学習の在り方や指導方法を具体的に見直し,改善していくことの重要性を示しています。

 そもそもアクティブ・ラーニングとは,「学修者が能動的に学修することによって認知的,倫理的,社会的能力,教養,知識,経験を含めた汎用的能力の育成を図る。」ことを目指しています。中央教育審議会答申では,「発見学習,問題解決学習,体験学習,調査学習等が含まれるが,教室内でのグループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である」としています。つまり,問題解決学習や体験学習,グループ・ワークなど,これまでも指導方法の工夫として重視されてきたことなので,決して新しい学習活動の提唱ではないことと解することが大切です。

 しかし,今なぜアクティブ・ラーニングが注目されているのかその意味をしっかり考えていく必要があります。それは,「子供たちの学びの量や質,深まりを重視する」ことにあり,主体的・協働的に学習を進められるよう指導方法をより一層充実させていくことが求められています。
 さらに,他者と協働するためには,相手の立場や考えを尊重しながら話し合い,自分の考えを広げたり深めたりすることが大切です。主体的な行動や他者と協働することにより,多面的・多角的に考え子供たちの学びがより深くなることが目的です。
 つまり,「子供たちの思考が働き,課題に向かって真剣に考える姿」が授業の中で行われているかどうかなのです。特に,

・積極的に自分の考えを他者に伝えている。
・個別だけでなく,子供同士互いに教え合い,学び合っている。
・自分の成長を学び取っている。

 などといった学習状況を授業場面の中に作り上げていくことが大切なのです。

道徳教育とアクティブ・ラーニング

 道徳教育では,教育活動全体を通じて,よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目的としています。具体的には,「自己を肯定的に受け止め,伸ばしたい自己について深く考えること」や「よりよく生きるための行為を自分の意志や判断に基づいて選択し,具体的な行為を起こすこと」,「自己の確立を目指し,他者との関係を主体的・適切にもつこと」などを育むことをねらいとしています。子供たちの道徳性は,日々の人間関係の中で養われ,特に教師と子供,子供相互の関わりにおいて形成されていきます。特に子供相互の人間関係を豊かにすることが大切であり,互いに交流を深め,認め合い,励まし合い,学び合う場と機会を意図的・計画的に設定していく必要があります。
 また,道徳教育の要となる道徳の授業では,考え議論する道徳への転換が求められています。この「考え議論する」とは,自分との関わりで考え,協働的に多様な考え方,感じ方とに出会い交流することにあります。
 つまり,アクティブ・ラーニングは,道徳教育の目的と道徳の授業における学習方法と密接に関係しているといえるでしょう。特に,子供たちには道徳の授業の学び方とともに,自己の生き方について見つめ直すきっかけとなった学びとしての実感をもたせることが大切となります。

頭(思考)を働かせ,心に響く授業

 道徳の授業は,道徳的価値を含んだ教材を基に,教師の発問を通して子供たちが自分の体験や考え方・感じ方を交えながら,話し合いを深める学習が多く行われています。子供たちはその過程を通して,他者との考え方,感じ方の相違点に気付き,自分の考えの確認,修正,補完を繰り返しながら自分の課題を明確にし,より発展させていきます。
 そのため教師は,教材に含まれているねらいとする道徳的価値について,子供たちが自分の問題としてしっかり頭(思考)を働かせながら考え,心に響くような道徳の授業を展開することが求められているのです。道徳の授業における子供たちの様相として,

①自分の考えを明確にし,表現している。
②受容的な態度で相手の考えを理解している。
③話し合いの論点を明確にし,多面的・多角的に考え交流している。
④他者との考え方の相違点に気付き,自分の考えを再構築している。
⑤ねらいとする道徳的価値の理解を基に自分を振り返っている。

 などの視点から授業を改善していくことが重要と考えます。つまり,内面的思考を活性化させる授業の工夫がますます求められているのです。

教材との出会いを大切にする

 道徳の教材(平成30年度から教科書教材等)は,子供たちが道徳的価値の自覚を深めていくための手掛かりにすることや人間としての生き方・在り方などについて多様に感じ,自らの考えを深め,互いに学び合う共通の素材として重要な役割をもっています。
 子供たちは毎時間の道徳の授業を通して,様々な教材と出会い道徳的価値の理解を深めていきます。教材(教科書教材)のもつ力を最大限発揮して,自らの課題を広い視野と深い思考によって見つめさせ,ねらいを達成させていくことが大切です。
 子供たちはどのような教材に出会ったとき,主体的・対話的で深い学びを繰り広げたいと思うのでしょうか。またその学びを継続・発展させようと考えるのでしょうか。
 その教材に含まれている道徳的価値と自分自身の体験とが重ねられるとき,描かれている人物等の行為や考え方に共感したり,批判したり,感動したりしながら,他者との多様な考え方・感じ方とに出会う中で,主体的に自分の問題として捉えていくのではないでしょうか。
 教材に登場する主人公の心情心理のみを求めたり,特定の価値観を教え込むような展開になってしまったりすると,子供たちの学習意欲は低下し,教師が求める望ましい発言のみに偏ってしまいます。子供たちは,教材そのものを学ぶのではなく,教材を通してねらいとする道徳的価値に関わる自らの生き方について学んでいくのです。

多面的・多角的に考える

 私たちが社会生活を営む中,道徳的な行為として大切なこと,望ましいことと分かっていても,周囲の状況や相手とのかかわり,さらには自分だけの問題だけでなく,自分以外の対象にどのような影響を与えるかなどについても考えながら判断し,行動しなければならないことが多くあります。つまり,道徳的行為の実現には,様々な道徳的な価値が介在し,一つの道徳的価値の判断のみに基づいて行うことは難しいことであり,多面的・多角的に考え理解する力が必要となります。
 道徳の授業の中で,多面的・多角的に考えるとはどのようなことなのでしょうか。例えば,「B親切,思いやり」という内容項目があります。この「親切,思いやり」の道徳的価値がもっている側面を見ると,「助ける」「励ます」「優しくする」「見守る」などがあります。同時に,その行為は自分も相手も互いにすがすがしい気持ちになるという面も併せもっています。
 豊かな社会生活を送るためには,相手の立場に立って考え,行動することはとても大事なことです。しかし,例えば,席を譲ることは大切なことと理解していても,その状況や対象の場面を考えると,「声をかけるのは恥ずかしい。」「断られたらどうしよう。」「相手は喜んでくれるかな。」「周りの人はどう思うのかな。」「他の人が譲ってくれるかもしれない。」など,心理的不安が影響しすぐに行為に移せないこともあります。
 望ましいことと分かっていても,難しいときもあるというような,二つの側面を理解しながら自分を見つめ,思いやりの心や親切の行為の在り方について考えていくことが重要だと思います。

理由・根拠を明確にした話し合い活動

 話し合い活動は,子供相互の考えを深める中心的な学習活動であり,考えを出し合う,まとめる,比較するなどの目的に応じて効果的に取り入れることが大切です。その際,価値観の多様性を前提にしながら話し合い活動を行うことが基本であり,理由や根拠なども様々であり一人一人微妙に違うことを理解しておかなければなりません。
 話し合いを深めるためには,「なぜそう思ったのか。感じたのか。」など,心が動いた理由や根拠も併せながら話し,他者はその思いを感じながら聞き合うことが深い学びにつながるのです。このことは,言語活動の充実にもつながることであり,言葉の能力を生かす支援も必要となります。
 具体的な学習活動場面として,話す(自分の思いを伝える),聞く(多様な考え方・感じ方に触れる),書く(考え方を整理する),見る(表情から考える),振り返る(自分を見つめなおす)場を教材とねらいに合わせて効果的に取り入れる指導方法の工夫が欠かせないのです。
 その際,自分の考えを明確にした後,ペアワークや少人数グループでの話し合い,そして学級全体での話し合いなどの形態を工夫しながら学び合い,再度,自分自身でじっくり振り返り考える場面を位置付けていく必要があります。一部の子供にとどまることなく,全体への共通課題としながら,子供たちから多様な考え方,感じ方を引き出し,整理し,まとめるという授業展開が求められています。

発問の工夫

 授業を構想する際,子供たちがねらいとする価値に内包されている側面(多面的)に気付くとともに,本質的な側面以外(多角的)の視点からも考えていくような発問の工夫が大切です。
 特に展開の前段では,教材を通して主人公の心情心理を理解する場面では「主人公はなぜそう考えたのか。」「どのような考えを基に判断すればよかったのか。」など,理由や根拠なども考えながら交流させていくことが,多様な考え方,感じ方につながっていきます。また,より深く考えさせたい内容や視点など必要に応じて補助発問を加えながら,考え交流させていくことも大切です。
 また,展開後段では,ねらいとする価値にかかわる体験の想起とともに,「今日の学習で学んだことや考えさせられたことは何か。」「今日の学習を通して,今後の自分の生き方(生活)に生かしていきたいことは何か。」など,今まで気付かなかったことや新たな課題なども聞くことが深い学びとなります。

構造的な板書

 板書は,子供たちにとって思考を深める重要な手掛かりとなります。研究授業に参加させていただいた際,時々児童の発言の都度,板書する光景を見ることがあります。この板書では,子供たちの発言を羅列的に示しているだけで,何が問題で,自分の考えとの相違点は何かもわからず,考える視点が整理できません。思考の流れや順序を示すような順接的な板書だけでなく,教師が明確な意図をもって対比的,構造的に示す板書の工夫が有効的と考えます。
 例えば,子供たちの発言を道徳的価値のもっている本質的側面や関連する側面から類型化し,整理した構造的な板書によって,子供たちは多様な考え方・感じ方に気付きながら道徳的価値についての理解を深めていくことになります。

 以上道徳教育とアクティブ・ラーニングについて述べてきましたが,アクティブ・ラーニングは学習方法の一つです。道徳教育の目標を達成するうえで,学校や子供たちの実態,保護者や教職員の願いなどを踏まえながら,子供たちが自律的に道徳的実践ができるよう多様な指導方法を取り入れながら授業を進めてくことが大切と考えます。

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