「第38回(2022年度)東書教育賞」受賞論文のご紹介

最優秀賞


小学校 部門


中安先生

 中安なかやす つばさ 岡山県岡山市立芳明小学校

-体育科-
性別・技能・言語の壁を越えろ!パラスポーツを活用した体育授業(8,024KB)

本研究は、勤務校(以下、本校)の5年生児童(3学級合計104名)に対して、2022年9月末~10月初旬に行った体育授業の実践研究である。本校の5年生児童は運動技能差が大きく、運動が苦手な児童ほど体育に前向きに取り組みにくい傾向が強いとともに、男女一緒に運動することに抵抗感がある雰囲気も見られる。また、外国籍の児童が3名在籍しており、日本語がほとんどできない児童もいる。
 そこで筆者は、性別や技能、国籍に関わらず、だれとでも運動を楽しめることをねらいとした体育実践として、「ボッチャ」「ゴールボール」といったパラスポーツ(障害者スポーツ)を活用した授業を行った。
 パラスポーツを小学校体育の学習内容に合うよう工夫して取り入れたことで、これまで以上に児童が生き生きと授業に参加する姿が見られるようになった。また、これまであまり見られにくかった多様な友達同士の積極的な交流が多く見られるという成果もあった。

最優秀賞受賞に当たって





中学校 部門


藤枝先生

 藤枝ふじえだ 茂雄しげお 岡山県岡山市立福浜中学校

-学校経営-
部活動の組織と運営の改善に向けた実践的考察(6,815KB)

教員の働き方改革のためには、「仕事量の多さ」へのアプローチよりも、教員の職場風土を生み出している社会文化的な要因へのアプローチが必要である。特に部活動は、職務命令によるものではないことから、それぞれの部活動運営の場において独特のルールや思考様式が成立し、それが組織的な危機管理の徹底などの妨げとなっている。
 本研究は、上記の課題意識に立ち、運営上のクレームも含めて課題の多かった本校の部活動を個業型の運営から保護者代表の参画による組織運営へと2年間をかけて改革した過程を考察したものである。
 この組織改革により、個業型の運営から派生していた外部指導者の任免手続きの不明確さや部活動同時集金の会計監査の不統一から生じる問題などのリスクが大きく軽減されるとともに、顧問の総時間枠内裁量担当制の実施、地域チームへの休日部活動指導の一部委託など、教員のワーク・ライフ・バランス推進のための新たな取組も始められるなど、大きな成果をあげている。

最優秀賞受賞に当たって



優秀賞


小学校 部門


 有松ありまつ 浩司こうじ  広島県竹原市立忠海学園

-生活科-
困難に立ち向い、乗り越えようとする力の育成(7,807KB)

本研究は、「困難に立ち向い、乗り越えようとする力」の育成を目指して行った生活科の実践を整理し、考察した内容になっている。具体的には、2年生を対象に行った「大きく育て わたしの野さい」の詳細について論じている。
 実践を行うにあたっては、変化の激しい社会情勢の中、今子どもたちに求められる力として「困難に立ち向い、乗り越えようとする力」を掲げた。まずは文献研究を通して、困難に立ち向かい、乗り越える力がなぜ必要なのか、そしてその力を育成するにはどのような単元構想を行う必要があるのかをまとめた。さらに、教師の役目として挙げられる様々な「しかけ」作りについても考察した。次に、文献研究を通して得た知見をもとに、生活科の授業を構想し、実践した。野菜が順調に育たない、カラスに畑を荒らされる、対策を講じたくても予算がないなど、様々な困難を子どもたちに体験させ、その都度、話し合い活動を行いながら、乗り越える手段を考えさせ、実行に向かわせた。子どもたちは、様々な困難・挫折を乗り越え、仲間と力を合わせながら、自分達の目標を達成することができた。その活動の詳細を具体的にまとめるとともに、検証・考察の上、成果と課題をまとめた。


 北川きたがわ 真里菜まりな 和歌山大学教育学部附属小学校

-音楽科-
ICT活用による小学校音楽づくり授業における個別最適な学び(7,165KB)

本研究は、小学校音楽科音楽づくり授業における「個別最適な学び」の在り方について示唆を得ることを目的として行ったものである。音楽づくり授業における「学習の個性化」を実現するため、①楽器、②プログラミング、③楽器制作ソフト の中から適した作曲方法を児童が判断・選択して音楽をつくる授業実践を行い、それぞれの手段を選択した児童の音楽づくりのプロセスを分析し、児童の実態や音楽能力と照らし合わせて選択した手段が最適であったのかについて考察を行った。
 分析の結果、ICTやプログラミングの活用によって、音楽に苦手意識をもつ児童も試行錯誤しながら創造豊かに音楽づくりを行う姿が見られた。しかし、選択した手段が最適であるとは言えないケースもあった。その場合、教師が最適であると考える手段を提示し、どちらの手段が自分に適していたかを振り返る時間を設けることで、自分にとってより最適な作曲方法を考えようとする児童の姿が見られた。
 以上の成果より、音楽づくり授業における「個別最適な学び」においては、児童の自己選択の場の設定と共に、教師の適切な見取りや振り返りの時間の確保、「協働的な学び」をより一層充実させること等が必要とされることがわかった。


 清田きよた 浩文ひろふみ 熊本県熊本市立植木小学校

-国語科-
言葉を大切にし、自他を大切にする学校づくり(5,143KB)

私たちは、言葉によって情報を入手し、言葉によって思いや考えを広げ、深め、伝えている。すべての学習の根幹をなすものは言葉である。
 本研究では、「言葉を大切にすることにより、自分自身や周囲の友達を大切にする児童で満ちた学校をつくる」という信念の下、以下の取組を日常的に重ねていった。
 「保護者の協力による読み聞かせ」、「図書館指導の工夫による読書活動の推進」、「継続的な百人一首」、「名文や詩歌の暗唱」等。
 さらに、校内研修で国語科指導の研究の充実を図り、学習の過程で「一人学び」→「ペアトーク・グループトーク」→「書く振り返り」の場をそれぞれ設けた。その中で「ペアトーク・グループトーク」を生かしながら「伝え合う活動」の充実を図ったり、自他の成長を実感する「書く振り返り」を継続させたりして、語彙を増やし、豊かに関わり合う体験をさせることができた。





中学校 部門


 奥田おくた 昌夫まさお 岩手県一関市立花泉中学校

-全教科-
GIGAスクール時代の教材開発(4,910KB)

 GIGAスクール構想により、1人1台のコンピュータが配布され、教室にWiFiが設置されたことにより、授業におけるインターネットの活用が日常のものとなった。これにともない、教材のクラウド化、ネットワークへの対応、Windows以外のOSにおける利用など、これまでとは異なる形の教材が求められている。筆者は、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を目指し、ブラウザで作動する教材を開発し、レンタルサーバで無料公開し、利用意見をふまえて教材の改良を行った。例えば、ビジュアルプログラミング言語の登録者数は25万人、質問回答するアプリは2.2万人にのぼるなど、現場に役立つ教材開発となっている。


 仙田せんだ 健一けんいち 上越教育大学附属中学校

-社会科-
身近な地域の魅力に気付き、誇りをもつ生徒を育成する社会科授業(8,013KB)

本研究では、身近な地域の歴史的事象を追究することを通して、身近な地域に魅力や誇りをもつ生徒を育成する社会科授業の単元開発を目的とした。
 本単元は、中学校社会歴史的分野の学習指導要領「A 歴史との対話 (2)身近な地域の歴史」を扱い、「百年商店街絵看板めぐりから高田の歴史を考えよう~高田本町のフィールドワークを通して~」という授業を実践した。
 本研究の成果として、一次史料を自らが探し、歴史の本質を見極めていくという歴史研究者が歴史を追究していく過程を、生徒も体験したことがあげられる。また、老舗商店の関係者に聞いてもわからない歴史上の事実が数多くあり、歴史が絶対的なものではないことを生徒は捉えていた。これは、教科書の内容を批判的に検討したり、深めたりする際の汎用的な「見方・考え方」でもある。さらに、老舗商店の人々と対話することを通して、そのような歴史上の事実が地域に残っていること自体に価値があることを理解する生徒の姿があった。



奨励賞


小学校 部門


奨励賞論文概要紹介 以下4点(4,173KB)


 坂本さかもと 利文としふみ 和歌山県有田川町立鳥屋城小学校

-全教科-
オンライン有効活用で小規模校の課題克服と教職員のレベルアップ


 佐野さの 一葉かずは 茨城県牛久市立中根小学校

-外国語科-
外国語科における話す意欲を高める方略的能力の育成


 髙津たかつ 直人なおと 北海道室蘭聾学校

-特別支援教育-
聾学校における言葉の育みを目指した掲示活動の取り組み

 田中たなか 義人よしひと 香川県高松市立鶴尾小学校

-学校経営-
閉校が議論された小学校の挑戦「地域と協働する 攻める教育」





中学校 部門


奨励賞論文概要紹介 以下2点(2,765KB)


 川上かわかみ 祥子さちこ 岡山大学教育学部附属中学校

-家庭科-
持続可能な社会の構築を目指す「サルベージ・パーティ®」の実践

 城所きどころ 美和みわ 愛知県豊橋市立豊城中学校

-特別活動-
多様な性 ~あなたのままで大丈夫~




入選


小学校 部門


入選者一覧(464KB)


中学校 部門


入選者一覧(232KB)




東書教育賞審査委員紹介


■審査委員(2022年度)


赤堀先生

赤堀 侃司
東京工業大学名誉教授

市川先生

市川 伸一
東京大学名誉教授

武内先生

武内 清
上智大学名誉教授

露木先生

露木 昌仙
前東京学芸大学教職大学院特命教授・元全国連合小学校長会会長

鳥飼先生

鳥飼 玖美子
立教大学名誉教授

東原先生

東原 義訓
信州大学名誉教授

藤井先生

藤井 斉亮
東京学芸大学名誉教授

松岡先生

松岡 敬明
前十文字学園女子大学教授・元全日本中学校長会会長







 ●第38回「東書教育賞授賞式挨拶 東京書籍代表取締役社長 渡辺能理夫 (1,242KB)

 ●第38回「東書教育賞」審査委員の講評・所感 (5,643KB)

 ●あとがき(公益財団法人中央教育研究所所長) (329KB)


 「東書教育賞」設立主旨

 東書教育賞は1984年、東京書籍の創立75周年を記念して設けられました。教科書の発行という公的な事業を行っている会社の社会還元という見地から、ここまで東京書籍を育てていただいた教育界への感謝の気持ちを込めて設置されたものです。
 教育現場の地道な実践活動に光を当て、優れた指導法を広める橋渡しをお手伝いしようというものです。

 過去の入賞論文

 事務局

公益財団法人 中央教育研究所内「東書教育賞」審査事務局
〒114-0004東京都北区堀船2-17-1
TEL:03-5390-7488  FAX:03-5390-7489
URL:https://www.chu-ken.jp
このページのトップへ