「第30回 特別記念 東書教育賞」受賞者のご紹介

最優秀賞

牧逸馬

 まき逸馬いつま 鹿児島県鹿児島市立南小学校

小学校部門

理科好きを育てる授業づくりと環境づくり(6,301KB)

子どもの「理科離れ」が叫ばれて久しくなりますが、理科離れとは、理科に対する子供の興味・関心・学力の低下、国民全体の科学技術知識の低下、若者の進路選択時の理工系離れと理工系学生の学力低下、そしてその結果、次世代の研究者・技術者が育たないこと、などの問題の総称を言います。の実践は、理科好きな子ども達を育てるために授業づくりや環境づくりの工夫に取り組んだものです。学習課程をパターン化し、理科学習が興味を持って続けられるような手だてが多く考えられており、また子ども達に「あれ、どうして」「なぜだろう」「たぶんこうだろう」などと疑問を持たせる問題解決学習の導入部分の工夫が多く見られます。環境づくりにおいても、栽培活動や校内樹木マップ、理科室水族館、理科だより、壁面展示など、無意識のうちに子ども達が理科に興味をもつきっかけになるような理科学習の推進に努力している極めて優れた論文です。

最優秀賞受賞に当たって
阿部一彦

 阿部あべ一彦かずひこ 宮城県気仙沼市立唐桑中学校

中学校部門

「1000年後の命を育む生徒の育成」~ふるさと創造への参画を通して~(2,536KB)

阿部先生の前任校である宮城県女川町立第四中学校がある女川町は東日本大震災で827名の犠牲者が出ました。被災家屋は総家屋の89%の3,984棟です。「社会科の一つの授業から始まった子ども達の学びは、『命とは何か』という人間としての根源的な学びにつながり、よりよい社会づくりに貢献しようとする活動へと発展していった」と筆者が述べている通り、学びはその場面で終わるのではなく、人生に有効に働くものであることを実感させる論文です。東日本大震災の被災経験を克服し、未来に向けて力強く生きようとする生徒たち、筆者をはじめとする教職員、地域住民、それよりも生徒たちに深い敬意を表します。この活動の根源に流れる教育愛、人間愛等は教育活動の原点でもあり、全国の学校教育活動に勇気と希望を与える極めて優れた論文です。

最優秀賞受賞に当たって

優秀賞

小学校 部門

長田洋一 愛知県碧南市立大浜小学校

言語性学習障害児の基礎学力とワーキングメモリーを高めるために(1,964KB)
本論文は、注意欠如多動性障害と学習障害を併せ持つ児童に対する実践記録です。学年が進むにつれて学力の遅れが大きくなり、心理検査の結果、言語に遅れがあり、聴覚記憶に問題があることが判明、「ことばの教室」で学習パソコンを用いて、基礎学力とワーキングメモリーを高めることを目標にして取組みました。1学期は意欲的に学習に取り組みましたが、2学期で間違いが多くなったので、教師が精神面での支援を強化した結果、特に算数の学力に向上が見られました。ADHDとLDを併せ持つ児童の実態に応じたパソコンの活用を通して、算数の学力を向上することができた優れた実践論文です。なお長田先生は第29回の優秀賞を受賞されています。

佐藤美和子 福岡教育大学附属福岡小学校

いのちを大切にする子供を育てる保健教育
~“感じる”活動と保健指導を位置付けた活動構成の実際~
(3,822KB)
筆者は、子ども達のいのちに関する実態調査を行い、ほとんどの子どもが「いのちは大切だ」と感じているが、その理由については漠然としているということを知りました。そこで、本当にいのちの大切さを実感でき、日々の生活の中で自他の体や心を大切にできる子どもを育てることを目指し、さまざまな体験活動を段階的に実施しました。その結果、実施前と比べると家族といのちについて話したり、いのちがなぜ大切か実感できたりする子どもが増えたという実践記録です。自分の目の前にいる子どもたちの実態をしっかり把握し、子どもたちが自らの考えや行動で健康問題に取り組む姿が研究の成果から伺える優れた論文です。

山下昌茂 香川県三豊市立仁尾小学校

食育を通した低体温解消へのチャレンジ4,185KB)
この論文は、病欠者の多い小学校の校長として着任し、自校の児童の健康状況が低体温にあるとの仮説を立て、全校生徒の体温を測定してみると、36.5°未満のその割合が76%だった。この低体温解消のため、運動・睡眠時間の確保と食育に取り組んだ実践記録です。学校経営の立場から食育の推進に取り組んだ実践ですが、その取り組みは栄養指導にとどまらず多岐にわたり、豊かなアイデアに満ちています。またこの実践は実に徹底しており、その成果は添付のデータによって十分に確認することができます。実践内容の全てを取り入れることが難しいにせよ、他校で参考にできる内容を多量に持った優れた論文です。

中学校 部門

石田周一 大分県佐伯市立佐伯南中学校

楽しく学び、確かな力を育む国語科授業の創造
~キーワードは、「学びやすい」、「学びたくなる」、「学び続ける」!~
(3,497KB)
この論文は、毎年入れ替わる、目の前の学習者一人ひとりに寄り添い、さまざまな実践を重ねてきた結果、「学びやすい」「学びたくなる」「学び続ける」という3つの柱を基盤とした国語科授業を構築し、その有効性について検証を進めてきた実践です。この三つの柱を構成している「学習環境のデザイン」「主体的な学習」「学習の連続性と継続性」の設定は適切であり説得力を持っています。「学習記録用紙」の創意ある活用、学習者一人ひとりを生かすための授業実践の工夫等、他校でも参考にできる優れた実践論文です。なお石田先生は第29回の奨励賞を受賞されています。

薄田茂樹 岐阜県教育委員会美濃教育事務所(前岐阜市立東長良中学校)

21世紀型能力につながる汎用的な資質・能力を育成する音楽科学習
~「真正のパフォーマンス評価」を取り入れて~
(3,179KB)
この論文は、21世紀型能力、すなわち「思考力」「基礎力」「実践力」をベースとした音楽科教育を目指した実践です。教科の評価にパフォーマンス評価を取り入れ21世紀型能力が目指す資質・能力の育成を図るために新たな音楽科授業モデルを提案しています。アジア諸国においては、音楽科が単独で存在するのは日本を含め、マレーシアなどわずかとなり、教科の統合が急速に進んでいます。こうした現状の中、現在の学校の音楽教育に対する課題を明確にし、その課題解決のための手法に取り組み素晴らしい結果を生み出している優れた論文です。

小学校 部門 [論文概要紹介 以下6点](1,299KB)

特別記念賞

大西久雄 埼玉県越谷市教育センター

ICTを使って情報モラル教育振興の気運と実践共有の波を創る
~正しく使える子どもの育成を願って~

子ども達のスマホやネット使用によるトラブルが社会問題化しているが、保護者や教師の危機意識や問題解決の具体的実践には未だにばらつきと戸惑いがある。情報モラルやリテラシーを指導することへの垣根の高さと自信の低さも要因のひとつである。そこで筆者は誰もが気軽に利用でき、自由に使える情報モラル教育資料提供と実践活用及びその成果共有の機会をICTの有効活用によって創り上げました。FacebookやCMSを活用して、漫画で考える情報モラル教材を拡散する活動を展開している優れた実践論文です。なお大西先生は第29回の特別賞を受賞されています。 ※CMSとは高機能なWebサイトを手軽に構築するためのソフトウェア。

佐久間 充 岩手県山田町立大沢小学校

「学校の宝」を活用した復興教育の推進
~全校表現劇「海よ光れ」の取組を通じた震災からの教育復興を目指して~

佐久間先生の勤務校がある岩手県山田町は東日本大震災で801名の犠牲者が出ました。被災家屋は総家屋の46%の3,369棟です。長きにわたり展開されてきた大沢小学校独自の全校表現劇「海よ光れ」に、復興教育の柱として新たに「地域の再認識」「地域の一員としての自覚」「地域への愛情」の意識づけを加えてのこの実践は、子ども達ばかりでなく、教職員、地域住民一体となっての活動に発展しており、総合学習の一つの方向を示しています。「『海の子』『元気倍増』プラン」「復興教育推進の基本理念」、そして「復興教育の柱としての全校表現劇『海よ光れ』の取り組み」と、資料を用いながら順を追って活動の紹介へと結びつける記述は、実践報告としてきわめてわかりやすいものがあり、他校における実践の参考となる優れた論文です。

奨励賞

竹本 学 福岡教育大学附属福岡小学校

筆者の意図を評価読みする高学年説明的な文章の学習
~比較活動を位置付けた単元構成を通して~

萩岡真澄 広島県東広島市立河内小学校

自己を理解し自己肯定感を高める生活科の伝え合い交流する活動

古川典子 福井県大野市立有終南小学校

子どもが変わるNIE
~「思考力」「判断力」「表現力」の育成を目指して~

山根基秀 山口県下関市立王喜小学校

未来の社会を築く子どもを育てるキャリア教育の推進

中学校 部門 [論文概要紹介 以下7点](1,376KB)

特別記念賞

中西一雄 滋賀県守山市教育委員会教育研究所(前滋賀県守山市立守山北中学校)

科学的活動プログラムとその実践成果の検証
PISA調査における科学リテラシーの構成要素である「科学的能力」及び「科学に対する態度」における我が国の子どもの課題解決に向け、「科学的探究活動プログラム」を開発した論文です。そして中学校第三学年を対象に実践し、その効果について検証し、理科学習に対する動機づけ、及び理科に対する将来志向性を高める上で、高い効果があることが分かったという実践論文です。研究へのせまり方が大変わかりやすく生徒の意欲的取り組み状況もよく分かる優れた実践論文です。なお中西先生は第28回の奨励賞を受賞されています。

楠本 誠 三重県松阪市立三雲中学校

ICT機器を活用した協働学習モデル実践32事例のまとめ
筆者の学校では生徒一人ひとりにタブレットを貸与し、授業で活用し、5つの学習プロセス(課題共有、個人思考、グループ思考、全体共有、振り返り)からなる協働学習モデルを作成し取り組んでいます。筆者は3年間、中学校理科におけるICT機器を活用した協働学習モデルを取り入れた実践を行い、授業後、生徒からアンケートを取り、成果と課題を記録しました。次の授業で課題を修正し、改善を図り、次の授業デザインにつなげていきました。3年間の32の実践を振り返って、ICTを活用した協働学習の成立の条件となる要件を整理した優れた実践論文です。

奨励賞

常國芳文 島根県吉賀町立柿木中学校

長期不登校生徒の奇跡的復帰~校長自らの関わりを通して~

堀 晋弥 愛知県名古屋市立昭和橋中学校

英語嫌い根絶作戦~4人グループでの学び合い活動を通して~

弓削淳一 福岡県福岡市立香椎第一中学校

リーガルマインドの芽生えを促す中学校社会科学習の実践的研究
~「ドナーカード」と「北方領土問題」を事例にして~

石田浩幸 石川県白山市立光野中学校

未来を力強く生き抜こうとする生徒の育成を目指した学校経営

谷地元直樹 北海道教育大学附属旭川中学校

数学の授業における「予想」のあり方に関する一考察
~「予想」のタイプと「予想」のさせ方・取り上げ方に着目して~

贈呈式

30回東書教育賞贈呈式集合写真

東書ホールにて

審査委員紹介

赤堀先生

赤堀 侃司
白鴎大学教授

杉山先生

杉山 吉茂
東京学芸大学名誉教授

武内先生

武内 清
敬愛大学教授・上智大学名誉教授

谷川彰英

谷川彰英
筑波大学名誉教授

壷内先生

壷内 明
聖徳大学教授・元全日本中学校長会会長

寺崎先生

寺﨑 昌男
立教学院本部調査役・東京大学名誉教授

鳥飼先生

鳥飼 玖美子
立教大学大学院特任教授

東原先生

東原 義訓
信州大学教授

三上先生

三上 裕三
元全国連合小学校長会会長



●東書教育賞は教育現場を支援します 東京書籍代表取締役社長 川畑慈範(1,754KB)
●第30回「東書教育賞」の審査を終えて・ICTに関わる論文の総評(3,483KB)
●第30回「東書教育賞」審査委員の講評・所感(4,711KB)
●あとがき(公益財団法人中央教育研究所所長)(1.133KB)

 「東書教育賞」設立主旨

東書教育賞は1984年,東京書籍の創立75周年を記念して設けられました。教科書の発行という公的な事業を行っている会社の社会還元という見地から,ここまで東京書籍を育てていただいた教育界への感謝の気持ちを込めて設置されたものです。
教育現場の地道な実践活動に光を当て,優れた指導法を広める橋渡しをお手伝いしようというものです。


 過去の入賞論文

 事務局

(公益財団法人)中央教育研究所内「東書教育賞」審査事務局
〒114-8524東京都北区堀船2-17-1
TEL:03-5390-7488  FAX:03-5390-7489
URL:http://www.chu-ken.jp