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山口大学大学院教育学研究科 准教授 松岡敬興
山口大学大学院教育学研究科
准教授
松岡敬興

理科で学ぶ課題解決に向けた手だてを道徳の時間に生かす理科

1. はじめに

 理科の授業では,自然界の事物・現象の中から課題を見出し,観察を通した気づきや発見,課題解決のための実験による検証など,生徒が抱く疑問に関わる科学的な探求を大切にします。一方,道徳の授業においても,内容項目の道徳的価値に迫る際に,多面的・多角的に考え議論することで内面的な理解を促すことから,観察や実験に相当する深い学びへと繋がります。

2. 課題解決に向けたプロセスを道徳の時間に生かす

 理科教育では,子どもたちが,身の回りの事物・現象について疑問を抱き,その解決を図るために仮説を立てます。そしてそれを検証するための手だてを考え,観察・実験を行います。仮説を検証する手だてには,多様な方法が考えられます。子どもたちのこれまでの既存の知識や経験を生かしつつ,条件をそろえたり,比較したりすることは,道徳の時間で求められる多面的・多角的に考えることと同じです。課題解決のゴールは決まっていても,そこに辿りつくまでのプロセスは様々です。その試行錯誤の段階において,仮にグループ学習で進めるのであれば,その段階で議論が展開されます。より的確なデータを集めるには,どのような手だてが適切なのか,検証するうえで比較の対象はそれでよいのかなど,より学びを深め合うことになるのです。

3. 道徳科における深い学び

 道徳の時間では,ねらいとする内容項目はもとより,別の立ち位置から見た道徳的価値に関する意見が出てきます。これは子どもたちが大切にしている気づきであり,指導者は丁寧な受容・共感が求められます。例えば教材が葛藤教材であり,道徳的価値が複数並立して意見が出された場合,なぜその道徳的価値を重要視するのか,理由づけをもとにした道徳的行為の選択を促し,いずれの行為を選択したとしても議論の対象に位置づけます。

 子どもたちは,なかまから出された意見に着目し,自らの理由づけを踏まえた議論を展開します。この時彼らは,考えを一度リセットしたうえで,より望ましい意見を構築するために,他者の意見を一旦受け入れてすり合わせの作業を行います。そして新たに自らの意見を再構築する段階において,「主体的・対話的で深い学び」が展開され,思考が活性化し深まるのです。

4. 終わりに

 道徳の時間は,すべての子どもたちが教材に身を重ね,自分の考えを出し合い,自分だけでは出会えない考えと出会える場でもあります。考え議論する道徳とは,子どもたちが自らの経験を踏まえつつ,当事者意識をもち,自分事として考え,なかまの新たな考えに出会い,それを生かすために反芻し,道徳的価値への気づきを生み出す時間でもあるのです。指導者には,子どもたちが真剣に考えた意見を丸ごと受容し,授業で大切に生かすことが求められています。こうした関わりを積みあげることで,真に子どもたちを生かすことができるのではないでしょうか。

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