道徳のこと。 ぜひ,ご一緒に。
 各教科の先生から
見た道徳


江東区立深川第三中学校
指導教諭
柿沼治彦

数学科と道徳数学

数学を学ぶ目的

 数学と関連性が強い道徳の内容項目に,「真理の探究,創造」があります。私は,子どもの頃,1/2+1/4+1/8+1/16+1/32+……という問題の答えが1になる理由を知り,感銘を受けました。このように,分からなかったことが分かったときに,人は大きな喜びを感じます。(因みに,1辺が1の正方形を使って数を図に表していけば,簡単に説明できます。)そして,さらに知りたいと思うようになります。先述の問題のように,数学の授業ではなぜそうなるのか,その理由をじっくり考える場面がよくあります。このように,真理を探究する心を育てていくことが,数学を学ぶ目的の一つではないかと思います。教育思想家のペスタロッチは「人は知りたい,分かりたい,考えたいという欲求をもっている。」という言葉を遺しています。同じことが,道徳の授業においても言えるのではないかと思います。

道徳の授業に対する生徒の興味や関心を高めるための方法

 例えば,道徳の内容項目に「思いやり,感謝」があります。生徒は小さい頃から,思いやりや感謝の心が大切だと,周りの大人から言われ続けてきています。しかし,なぜ思いやりや感謝の心が大切なのかという理由まで,しっかり理解している生徒は意外に少ないように思います。「人は愛されたい,信頼されたいという衝動的な欲求をもっている。」,これもペスタロッチの言葉です。人から思われたとき,誰もが幸せな思いを感じます。心理学者のアドラーは「人のあらゆる悩みは,対人関係の悩みである。」という言葉を遺しています。思いやりの心をもって接すると,相手との関係が良好になります。それが人の悩みを減らし,幸せな思いをもたらします。「そうか,思いやりの心は人間関係を良好にするんだ。そして,そのことが人を幸せにするんだ。」ということに気付けば,道徳の授業に対する興味や関心が増すのは当然のことだと思います。

道徳を学ぶ目的

 道徳の指導教諭ということもあって,いろいろな研修会に講師として呼ばれます。その際に先生がたから,「そもそも何のために道徳の授業を行うのか。」という質問を受けることがあります。人は誰もがよりよく生きたいと願っています。その方法を考えるのが,道徳を学ぶ目的だと思います。そして最近,その鍵になるものの一つが,生徒の自己有用感を高めることにあると感じています。

 そのことを,「勤労」を例にとって考えてみたいと思います。確かに,生活のため,収入を得るために人は働きますが,それだけではないと思います。働くことを通じて人や社会の役に立つと感じたとき,誰もが自分の仕事に大きなやりがいを感じます。このように,人や社会から必要とされたとき,人は自己有用感を感じます。それがよりよく生きることではないかと思います。特に,道徳の四つの視点における,B[主として人との関わりに関すること]やC[主として集団や社会との関わりに関すること]のように,人や集団,社会との関わりにおいての道徳的価値の理解を深めることが,自己有用感を高めることにつながっていくように感じます。

 「なぜ法やきまりを守らなければいけないのか」,「どうすれば友情は深まるのか」,「なぜ命は大切なのか」,こういった生きる過程で生じる疑問が解明されたとき,人は喜びを感じます。そして,その喜びはよりよく生きるためのヒントにもなります。このように,よりよく生きるための方法を探求することは,まさに数学の授業と同じではないかと思います。

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