命を尊ぶ

教育基本法に示された教育目標と教科書

東京書籍の取り組み

生涯を心豊かにたくましく生き抜く力の基礎づくり

東京女子体育大学教授戸田 芳雄

「災」「愛」「命」「偽」「変」「新」「暑」「絆」「金」「輪」。これは,ある民間団体が毎年十二月十二日(漢字の日)に発表し,京都の清水寺の貫首が揮毫する「今年の漢字」の最近の十字である。これらの漢字は,子どもを取り巻く社会全体の状況の一端を表している。

例えば,関連記事等からの私の単なる連想であるが,「命」「偽」「新」「金」には生命尊重,「愛」「絆」「輪」には,いじめ,人権,自助・共助・公助,「災」には防災や安全,「暑」「変」には環境保全など,今回特集する広義の生命尊重に関わる内容が含まれているように感じられる。

【図】広義の「生命尊重」に関する教育の構造(戸田)

教育目標と三つの視点

教育の目標には,正義と責任,男女の平等,自他の敬愛と協力を重んずること,生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養うこと,豊かな情操と道徳心を培うとともに,健やかな身体を養うことが含まれている。 これらは,関連する教科や領域でそれぞれの特質を生かしながら指導することで相乗効果が生まれ,その経過の中で,あるいは,その結果として,子どもに目指す資質や能力が育まれることになる。それらは,特に,教育課程で言えば,道徳,生活,体育(保健),国語,社会,理科などと関連が深い。

詳しく見ると,それらの内容は大きく三つに分けられる。一つ目は,生きとし生けるものの生命尊重の視点から重要と思われる「生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養うこと」。二つ目は,人が人として社会で生きる視点からの「正義と責任,男女の平等,自他の敬愛と協力を重んずること」。三つ目は,それらの基盤となる人格形成や生涯を生き抜くための力を身に付ける視点から「豊かな情操と道徳心を培うとともに,健やかな身体を養うこと」が上げられる。

Think globally! Act locally!

発生に歯止めがかからず,深刻な問題となっているいじめ問題の解決に取り組むことが求められている。近年のいじめ問題の事例は,他者の心情に共感できる子どもを育てることが必要なことを示唆している。最近では,ネットいじめの問題も深刻さを増している。

また,近年,我が国では,阪神・淡路大震災や東日本大震災,台風・落雷等の気象災害など深刻な自然災害も発生している。このような中,それらの経験や教訓を踏まえ,地域や学校・子どもの安全・安心を守るため,全国すべての学校において防災,防犯などを含む安全教育の一層の充実を図ることの重要性が再認識されている。特に東日本大震災等で学校での日頃の防災教育や避難訓練の有効性が示された反面,あいまいで実際に機能しなかった計画,避難の途中での被災,被害を受けた指定避難所や学校がある。

また,避難所運営と教育復旧の両立に苦悩した学校もあり,学校,家庭及び地域社会が連携し,具体的で機能する危機管理体制の整備や心のケア,自助・共助・公助の視点から幅広い安全対策と実際に役立つ避難訓練の実施に加え,基礎となる防災教育を進めていくことが求められている。

さらに,地球の温暖化などの環境問題について,身近なことから課題意識を持ち,自分ができることから実践に取り組んでいくことも重要な課題である。

このように考えてくると,学校において,前述した3つの視点を踏まえ,教育課程にしっかり位置づけて「生命尊重」に関する教育を進めることが,きわめて重要であると思う。

「Think globally! Act locally!」(広い視野と高い理想を持ちながら,身近で具体的な取り組みを進めようと言う趣旨)は,環境教育で提唱されている言葉であるが,「生命尊重」に関する教育もまさしくそれと軌を一にする。その地道な営みが,「生きる力」の育成,すなわち,子どもが生涯を心豊かにたくましく生き抜く力を身に付けるための基礎づくりにつながると思う。

戸田 芳雄(とだ よしお)
山形県公立学校教諭,山形県教育庁指導主事,文部科学省スポーツ・青少年局体育官等を経て,現在,東京女子体育大学教授。専門は健康教育,安全教育。
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