政治・経済 ダイジェスト版
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44第1章 現代の政治関係で,自衛隊はその発足以来,「戦力」にあたるのではないかという違憲論が唱えられてきた。政府は,日本が主権国家である以上,憲法は国家による自衛権(個別的自衛権)を否定していないとし,「自衛のための必要最小限度の実力」をもつことは禁止されないという立場をとってきた。 その後自衛隊は,一連の防衛力整備計画によって増強されてきており,日本の防衛費は世界有数の額に達している。専せん守しゅ防衛が防衛政策の基本とされているが,行動の範囲や自衛力の限界をめぐって議論が行われてきた。 核兵器については「もたず,つくらず,もちこませず」という非核三原則が政府によって宣言されているが,このうち「もちこませず」については,米軍の活動との関係でさまざまな疑ぎ惑わくが指摘されてきた。2010年に外務省は,1960年に核もちこみに関する広い意味での密約が,また1972年の沖縄返還時にも,有事の際の核もちこみに関する密約が,アメリカと交わされたことを認めた。 このほかに平和主義にかかわる国の方針として,武器などの輸出を対象国によって禁止または慎重に対処するべきとする武器輸出三原則があったが,2014年に防衛装備移転三原則❶に変更された。❶ 防衛装備移転三原則 国際条約違反国への輸出禁止,輸出を認める場合の厳格審査,移転先での適正管理(第三国への移転等)などの原則の下もとで武器の輸出や共同開発を認めている。憲法第9条をめぐる裁判判例訴訟概要砂すな川がわ事件(1957年起き訴そ)米軍立川基地拡張に反対する学生,労働者らが基地内に入り,日米安全保障条約にもとづく刑事特別法違反として起訴される。第一審は在日米軍は戦力にあたり米軍駐留は違憲と判示し,学生らは無罪。跳ちょう躍やく上告で最高裁は統治行為論(→p.61)により原判決を破は棄き差し戻しとする。その後第一,二審で有罪,最高裁は上告棄き却きゃく(1963年)。恵え庭にわ事件(1963年起訴)騒そう音おん被害のため,演習中止を訴えて無視された酪農家が通信線を切断(1962年)。翌年,自衛隊法第121条違反として起訴される。第一審は通信線は自衛隊法にいう「防衛の用に供するもの」でないとし,被告人は無罪。憲法判断は回避(1967年)。長なが沼ぬまナイキ基地訴そ訟しょう(1969年提てい訴そ)航空自衛隊のミサイル・ナイキ基地建設のため政府が保安林指定を解除,住民が解除無効を訴える。第一審は自衛隊は陸海空軍に該当し,憲法違反と判示,住民側が勝訴。第二審は原判決取り消し,訴え却下。統治行為論により自衛隊についての憲法判断回かい避ひ(1976年)。最高裁も第二審を支持し,訴え却下(1982年)。百ひゃく里り基地訴訟(1958年提訴)航空自衛隊基地建設予定地の土地所有をめぐり,国と基地反対住民が争い,これに関連して自衛隊の合違憲性が争点となった。第一,二,三審とも自衛隊についての司法判断をせず,国側が勝訴(1989年〔最高裁〕)。5101528間ま宮みや 陽よう介すけ 京都大学名誉教授 1948年生/長崎県出身/東京大学卒業/社会経済学 主著:『モラルサイエンスとしての経済学』(ミネルヴァ書房) 『ケインズとハイエク』(中央公論社) 『丸山真男』(筑摩書房) 『市場社会の思想史』(中央公論新社) 訳書:ケインズ著『雇用,利子および貨幣の一般理論』(岩波書店)杉すぎ田た 敦あつし 法政大学教授 1959年生/群馬県出身/東京大学卒業/政治理論・政治思想史 主著:『権力の系譜学』『権力』『境界線の政治学』『政治への想像力』『政治的思考』(岩波書店) 『デモクラシーの論じ方―論争の政治』(筑摩書房) 『これが憲法だ!』(共著 朝日新聞社)土ど居い 丈たけ朗ろう 慶應義塾大学教授 1970年生/奈良県出身/大阪大学卒業/財政学 主著:『財政読本(第6版)』(共著 東洋経済新報社) 『財政学から見た日本経済』(光文社) 『アリとキリギリスの日本経済入門』(東洋経済新報社) 『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社) 『日本の財政をどう立て直すか』(共編著 日本経済新聞出版社)遠えん藤どう 乾けん 北海道大学教授 1966年生/東京都出身/北海道大学卒業/国際政治・ヨーロッパ政治 主著:『統合の終焉―EUの実像と論理』(岩波書店)『欧州複合危機―苦悶するEU,揺れる世界』(中央公論新社)『ヨーロッパ統合史』(編著 名古屋大学出版会)『安全保障とは何か』(共編著 岩波書店)佐さ々さ木き利とし幸ゆき 前東京都立成瀬高等学校教諭 1945年生/東京都出身/東京学芸大学卒業/公民科教育山やま倉くら 和かず正まさ 東京都立日野台高等学校教諭 1958年生/東京都出身/筑波大学卒業/公民科教育今いま村むら 有ゆう作さく 東京都立田無高等学校教諭 1960年生/大阪府出身/東京学芸大学卒業/公民科教育加か藤とう 晋すすむ 東京大学准教授北きた原はら 武たける お茶の水女子大学附属高等学校教諭編集委員紹介編集協力者紹介例」で理解をさらに深めます授業の進度に応じて,軽重をつけたご指導が可能です● 男女差別をめぐる裁判 ● 精神の自由に関する裁判● 政教分離に関する裁判● 生存権をめぐる裁判● 労働基本権をめぐる裁判● 家永教科書訴訟● 環境権に関する裁判● 鞆の浦景観訴訟● プライバシーの権利をめぐる裁判● 外務省秘密電文漏洩事件● ハンセン病国家賠償請求訴訟● 憲法第9 条をめぐる裁判● 最高裁判所によるおもな違憲判断判例13か所掲載➡本書p.9➡本書p.10

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