「新編論理国語」ダイジェスト版
1/6

1関口真希子 服飾デザイナー。2東京コレクション 服飾ブランドが新作を発表するファッションショーの名称。東京で年に二回開催される。3プレス press 報道機関。4バイヤー buyer 買い手。特に、貿易業者や仕入れ係。堀ほり畑はた裕ひろ之ゆきはじめに「言葉」がある服飾ブランドを創設し、関せき口ぐち真ま希き子ことともにデザインをしている。二〇〇五年に設立して以来、東京コレクションなどで毎年二回、新作をショー形式で発表してきた。これだけなら、あまたあるブランドとそれほど大差ないが、私たちが決定的に違っているのは、発表前に「言葉」を先に届けることだ。それはコレクションのテーマについて書かれたやや長文の冊子である。書かれているのは「日本の眼め」、すなわち日本の美意識について。例えば「見立て」「やつし」「ふきよせ」「ほのか」……およそファッションデザインのテーマでは聞いたことのない不思議な言葉だ。それを読んだプレスやバイヤーやお客様は、いったいこれらの言葉がどんな「服」になるのか、漠然とした期待とひそかな懐疑、さまざまな想像を膨らませてショー会場に集つどってきてくれる。12346 働くよろこび12451010西早稲田 東京都新宿区の町名、駅名。子を作らなければならない。しかし十二月の初めになっても、言葉は見つからなかった。心ばかり焦るが、なかなか決まらない。急に北風が吹いて冬が訪れ、紅葉した木の葉が一斉に舞い散り始めた。その日は、早わ稲せ田だ大学で特別講義をすることになっていた。西早稲田の駅を出て急ぎ足で大学に向かって歩いていると、歩道の隅の落ち葉がふと目に留まった。さまざまな色や形の落ち葉がコンクリートの壁際に寄せ集まり、美しい織物のように輝いていた。私は吸い寄せられるようにその場に立ち尽くし、夢中で写真を10撮った。風が落ち葉を吹き寄せ、自然に集まったものだった。ほかの通行人はこの奇跡のような美しさに気づかず、コートの襟を立てて足早に歩き去っていく。いつもなら私も通り過ぎてしまったかもしれない。ふと、「ふきよせ」という言葉が心に浮かんだ。日本では紅葉だけでなく、落ち葉の「ふきよせ」(筆者撮影)6 働くよろこび12851015「働く」単元には,仕事を通して言葉と向き合う服飾デザイナーの文章を掲載。テーマを扱うI部評論 新教材6

元のページ  ../index.html#1

このブックを見る