「詳解歴史総合」ダイジェスト版
5/6

■紙幣の誕生と近代的通貨制度の成立古来,貨幣として用いられたものは金や銀などの貴金属であり,特に銀は世界の貿易の決済通貨としても広く流通した。一方,経済活動が活発化すると,貨幣を直接やりとりせず,商人や銀行が発行するさまざまな手形(貨幣での支払いを約束する証書)による決済が世界各地で行われるようになった。そして17世紀にイギリスの金きん匠しょう(ゴールドスミスとよばれた金融業務も行う金加工職人)が発行した金匠手形(金との引きかえ証書)が広く流通したのが銀行券の起源といわれている。現代のように中央銀行が紙幣を発行する制度が成立したのは19世紀前半のことで,それまでは民間の銀行や各国の政府がそれぞれ独自の紙幣を発行していた。しかし,紙幣の乱発は通貨の価値を不安定にするため,イギリスでは1844年に中央銀行であるイングランド銀行が紙幣発行を独占し,イングランド銀行券と金貨の交換を保証する兌だ換かん制度が確立した。紙幣を一定の重量の金や金貨といつでも交換でき(このような紙幣を兌換紙幣とよぶ),また金の自由な輸出入が保証された通貨制度のことを金本位制(銀の場合は銀本位制)とよんでいる。その後中央銀行制度は世界に拡大し,日本でも1882年に日本銀行が設立された。■国際金本位制の時代1870年代に入ると,欧米の主要国があいついで金本位制を採用し,国際金本位制が成立した。銀本位制を採用していた日本も1897年に金本位制に移行した。金本位制が普及した最大の理由は,イギリスが産業革命後に世界経済の中心国として貿易・金融取引を拡大し,イギリスの通貨ポンドが基軸通貨(国際的な決済通貨)の地位を確立したことにあった。国際金本位制のもとでは,各国の通貨間に金を基準として固定為かわせ替相場が成立するため,貿易の決済や海外投資を自由かつ円滑に行えるメリットがあった。その反面,国際収支の悪化などによって金が流出すると,政府や中央銀行は金本位制を維い持じするために国内経済の引き締めを行わなければならなかった。1914年に第一次世界大戦がはじまると,各国は金の流出を防ぐため金本位制を停止した。大戦後,国際金本位制の再建が進んだが,1929年10月にニューヨーク株式市場が暴落し世界恐きょう慌こうが発生すると,金融危機は世界に波及した。このとき,国際収支の悪化や投資の引き上げなどによって金の流出に直面した国は,金本位制を維持するため緊縮政策をとらざるを得ず,さらに景気が悪化する悪➡p.24■1➡p.54■2➡p.46➡p.124■1国際金本位制 金本位制のもとでは,各国の通貨(紙幣)は一定の重量の金や金貨と自由に交換できる。たとえば,日本の1円紙幣は1円金貨(金含有量0.75g)と兌だ換かんでき,アメリカの1ドル紙幣は1ドル金貨(金含有量約1.5g)と兌換できるので,円とドルの為かわせ替相場は金を基準として1ドル=約2円で固定される。このように,国際金本位制のもとでは,異なる通貨が固定為替相場で結ばれる。ドルポンドフラン円金(金貨)兌換■2日本の金兌だ換かん紙幣(甲10円券) 1897年の金本位制移行後に発行された10円紙幣。肖像画の左に「此この券引ひき換かえニ金貨拾じゅう圓えん(十円)相あい渡わたし可もうす申べく候そうろう也なり」とあり,同じ額面の金貨との交換を保証した兌換紙幣であることがわかる。通貨制度の歴史――通貨の価値は何によって保証されているか?126510152025『詳解歴史総合』から高校生が苦手意識をもちやすい通貨制度の歴史をわかりやすく説明。「日本史探究」の学習にも役立ちます。「日本史探究」へ28Point 3 入試・探究に対応する力を「つける」❸ つまずきやすいポイントも,特設ページで対応教科書p.126東京書籍『日本史探究』p.254

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る