「詳解歴史総合」ダイジェスト版
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産業革命の進展につれて,若年女性は繊せん維い産業で女工として働くようになった。たとえばアメリカ合衆国では19世紀前半,北東部に位置するマサチューセッツ州ローウェルの木も綿めん工場に,また日本では明治から大正にかけて,富岡製糸場(群馬県)や甲こう信しん地方などの製糸工場にそうした女性は働きに出た。金銭,余暇や教育の機会を得る場合があった一方で,寄宿舎で生活する農村出身の女性が低賃金の長時間労働を強いられ,ときにはストライキに発展することもあった。成年女性も夫が工場労働者,あるいは法律家や教師として働くようになると,家庭を守る役割を期待されるようになった。事実,イギリスやアメリカでも19世紀後半から20世紀はじめにかけて,ヴィクトリア文化とよばれる貞てい淑しゅくな女性を理想とする風潮が強まった。近代化にともなって,かえって性別役割分業が進んだのである。そうしたなかで,1848年,アメリカのニューヨーク州セネカ・フォールズに集まった女性たちは,参政権を求めて「意見宣言」を出していた。独立宣言をもじった「意見宣言」は,冒頭で「すべての男女は平等につくられている」と述べ,1869年にはワイオミング準州(現在のワイオミング州)で女性に参政権が認められた。19世紀末までにさらに3州で女性参政権が認められたが,ワイオミングをふくめて,すべてが新たに誕生したロッキー山脈地方の諸州であった。古くから存在する東部や南部の諸州とは異なり,社会が伝統にとらわれないことがそうさせたのだろう。なお,1893年にはニュージーランドが全土で女性参政権を認めるはじめての地域となった。また節制を説く清教徒(ピューリタン)の倫理が浸しん透とうしていた19世紀のイギリスやアメリカにおいて,女性たちは禁酒運動のような社会改革の試みにも積極的に関与して,労働者の救済,さらには労働効率化の一いち翼よくをも担った。第一次世界大戦中の1916年には,アメリカではじめて女性の連邦議会議員(日本の国会議員に相当)が誕生した。1918年にはイギリスで,1920年には憲法の改正によってアメリカでも,全国的に女性参政権が成立した。その背景には,第一次世界大戦の銃じゅう後ごでの女性の社会進出があった。そのころ,日本でも大正デモクラシーのもと,女性参政権運動や出産・育児の負担から女性の解放をめざす産児制限運動が展開された。女性が公序良俗を守る役割を担った19世紀までとは異なり,女性のライフスタイルの変化にともなって,欧米諸国や日本,中国の一部で男女の交際が従来に比べて自由になったのもこの時代の特徴である。このように両大戦間期,多くの国々で女性の解放運動が進んだが,東西冷戦下の厳しい政治環境のなかで,戦後,先進諸国でもそれは停てい滞たいした。しかし,ベトナム戦争の泥どろ沼ぬま化をきっかけに,アメリカでは男性エリート層に対する社会の幅広い支持が失われて,女性解放運動(women’s liberation movementといい,日本ではウーマン・リブと略された)が台頭し,ヨーロッパ諸国や日本にも影響を与えた。その後,逆行的な動きもみられるが,冷戦後,民主化やグローバル化と連動しながら,フェミニズム(女権拡張論)の名のもとに多様な運動が展開されている。➡p.121➡p.188■1女性参政権を求めるデモ行進(1917年,ニューヨーク五番街)■2製糸工場で働く女工たち(須坂市立博物館蔵)女性と近現代1905101520253035 アイヌと琉球・沖縄豊かなアジア,模倣するヨーロッパ毛皮交易と捕鯨がかえた太平洋世界綿紡績と製糸19世紀が生んだ夢万国博覧会写真技術の発展近代における日中間の漢字循環通貨制度の歴史大日本帝国内の人の移動ホロコーストと戦後ドイツ社会における「記憶」日本とドイツの戦後イギリス型の帝国とアメリカ型の帝国グローバルな反核運動女性と近現代歴史としてのビートルズ台湾・香港・韓国の経済発展と政治・社会変容宇宙開発の歴史36~3742~435155596985116126~127140~141144145172173190191198~199206~207タイトル掲載ページ〈歴史のまなざし〉 掲載箇所高校生がこれから生きていくうえで,知っておいてほしい内容を数多く扱っています。20Point 2 資料をもとに近現代史を「考える」❸ 世界のあらゆるトピックを,縦横に紹介

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