「詳解歴史総合」ダイジェスト版
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103■ 5新聞に掲載されたラジオの広告(1925年)■ 6野球場を埋めつくす観衆(1948年,アメリカ)■ 7チャップリンの映画『モダン・タイムス』(1936年)❶優生学は「望ましい」遺い伝でん的性質を持つとされた人が子どもを産むことを奨しょう励れいするとともに,そうでない人が子孫を残すことを制限しようとした。その結果,優生学は,人種差別の思想や,障がい者や同性愛者などを排除する思想を生んだ。が,女性運動の成果もあり,女性も,有権者,労働者,消費者として,社会の構成員であると認められるようになっていく。 新聞,雑誌,ラジオなどのマスメディアが発達すると,情報にふれる機会を得た人々の生活は向上した。しかし,均質な情報が大量発信されたことは,人々の行動原理の画一化を進めたともいえる。大衆の存在感が高まると,国家は社会を無視する政策を打ち出すことができなくなり,さまざまなサービスを提供し,軍隊や警察を整備することで社会の治安を維い持じしようとするとともに,情報に対する統制のしくみを整えるようになった。このことはファシズムの克服という新たな課題を社会につきつけることになる。■大衆化と総力戦 欧米で形成が進んだ国民国家では,19世紀後半には徴兵制が整備され,やがて諸国に国民国家が広がった。第一次世界大戦は,国家がその生産力,人員のすべてを投入する国家総動員の戦争として,総力戦とよばれた。 総力戦の実現を可能とする国家体制は,第一次世界大戦と第二次世界大戦をきっかけにさまざまに構想された。戦争は産業や科学技術の進歩を基盤とする国の経済力をかけての争いと考えられたため,総力戦の考え方は政治体制をも規定した。 総力戦の構想とともに発達したのが,人々を国民として教化・統合する制度やテクノロジーだった。大衆社会を数量的に把は握あくする統計学をもとに,社会動向を把握しようとする人口統計や社会統計の整備が各国で進められ,社会保障制度を整えることで国民の生活を保障し,より強固な国民統合がめざされた。また,総力戦の理念では,国民内部における経済的な格差や性別による差別の存在は望ましくないと考えられたため,平準化をめざす政策も取り入れられた。さらに,遺い伝でん的に受け継がれる人間の性質の改良をはかることで国民の資質「改良」をめざした優生学も各国でさかんになった。 学校教育や軍隊教育では,国家の構成員としてのアイデンティティの育成がより中心的な課題となり,宗教団体,青年団体,婦人団体などの団体を通じ,国民教化がはかられることもあった。 識字率に関係なく人々に情報を伝えられるメディアが利用され,さらに,人々が動員体制に「心」から合意するよう,文化領域が重視された。政府は歌謡や演劇も統制し,文化を楽しむ場自体を統制下に組みこもうとした。➡p.122➡p.130❶5101520253035この時期の大衆化による変化のなかで,その後の社会に与えた影響が最も大きいものは何だろうか。TRY❶ 問い〈節の問い〉この節全体で追究するテーマを提示します。〈項の問い(本時の学習課題)〉この項目での学習課題を冒頭に提示。見通しをもって学習を展開できます。❷ 導入の資料と読み取りの視点学習課題を追究するための入り口となる,資料を活用した作業課題です。❸ トライこの項での学習内容を振り返るとともに,学習をさらに広げていく問いかけです。11Point 1詳しい記述で歴史の流れを「つかむ」「なぜ」「どのように」等の問いをきっかけに段階的に考えを進めていく練習を,毎回の授業で重ねます。こうした探究的な学習活動が,大学入試等で求められる「多面的・多角的に考察する力」にもつながります。

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