教育課題への取り組み

学ぶ喜びを誰にでも
学ぶ喜びを誰にでも

兵庫教育大学大学院教授 樋口 一宗

だれもが十分な教育を受けられること

教育基本法第四条の「教育の機会均等」が保障されることは当然として,平成18年の改正時,第2項として「障害のある者が,その障害の状態に応じ,十分な教育を受けられるよう,教育上必要な支援を講じなければならない」ことが加えられました。

ここでいう十分な教育とは,「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(平成24年7月 初等中等教育分科会)の表現を借りれば,「授業内容が分かり学習活動に参加している実感・達成感を持ちながら,充実した時間を過ごしつつ,生きる力を身に付けていける」教育のことを指していると考えられます。

通常の学級で困っている子ども

障がいのある生徒が通常の学級にも在籍している場合があります。また,義務教育段階で通常の学級には,推定6.5%の割合で,支援が必要な児童生徒が在籍しています(「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」平成24年 文部科学省)。

通常の学級では,以下のような学習上の困難が生じます。

① 読み書きの困難 聞いて理解ができるのに,読み書きだけが苦手なLDの出現率は,使用する言語によって異なります。中学生になると読み書きの学習が本格化する英語は,LDが最も起こりやすい言語の一つです。日本語では苦労していなくても,英語だけにL D が現れることもあります(『ディスレクシア 読み書きのLD』マーガレット・J・スノウリングより)。

②色覚の問題 印刷色のわずかな違いを判別できないので,色分けされた図やグラフなどが読み取れない場合があります。

③視機能の問題 行を追って見ていくことや焦点距離の調節などが苦手で,いつの間にか違う行を読んでいたり,文字を写すのにひどく疲れたりします。

④注意の問題 一定の時間,対象に注目し続けることができないと,学習内容を理解したり記憶したりすることが難しくなります。

学びのバリアフリーを目指して

知識・技術,能力,態度

これらの困難があると,教材の在り様がバリアになってしまい,学習内容そのものに触れることができません。バリアを取り除くことが求められます。

「教科書バリアフリー法」が平成20年に成立し,以後,必要な子どもたちに点字教科書,拡大教科書,電子化された教科書の複製などが迅速に届くようになりつつありま
す。また,デジタル教科書・教材ならば,様々な機能を付加することが期待できます。

一般的な教科書であれば,明確に区別された色調や,行や文字の間の適切な間隔,読みやすい字体などが標準的に整備されるべきでしょう。

最近では,指導方法などの工夫によってバリアを取り除こうとする試み(授業のユニバーサルデザイン化など)も増えています。障がいの有無にかかわらず,わかりやすい授業を目指した結果,「学力が向上した」,「不登校の生徒がいなくなった」などの成果が報告されています。こういった配慮は障がいのある子どもや同様の困難を感じている子どもたちに役立つだけでなく,困難のない子どもたちにとっては,授業がよりわかりやすくなるのです。

障がい者の学ぶ権利を守る

平成26年,日本は国連「障害者の権利に関する条約」を批准しました。教育に関しては,インクルーシブ教育システムの構築や合理的配慮の提供などをしなければなりません。

そして,可能な限り,障がいのある子どもとない子どもが同じ場で教育を受けられるような仕組み作りが進められています。そこで必要になるのが,指導方法や内容を個別に変更・調整することや学習環境の整備です。これらを合理的配慮,基礎的環境整備とよびます。

合理的配慮は個別にその内容が決められます。基礎的環境整備はその基盤となる環境整備で,国や自治体などが行います。これらは,実施することが過度の負担とならない限り,学校や設置者である自治体,国などの義務となります
(障害者基本法,障害者差別解消法)。

障がいのある子どもの困難を理解した上で,使いやすいように配慮された教科書を使用することは,最も財政的な負担をかけない基礎的環境整備の一つと考えることができるでしょう。

樋口 一宗
樋口 一宗(ひぐち かずむね)
長野県の小学校,特別支援学校の教諭,指導主事,文部科学省特別支援教育調査官(発達障害教育担当)を経て,現在,兵庫教育大学大学院教授。専門は発達障害児教育学。