教育課題への取り組み

国と領土を愛する
「伝統と文化」を通して育てる

広島大学大学院教授 小原 友行

「平和で民主的な国家及び社会の形成者」を育てるために

 急速に進展する社会のグローバル化の中で,「国と郷土を愛する」態度を育成することがなぜ必要なのであろうか。教育基本法から考えてみたい。

「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」を育成することは,教育基本法第一条に掲げられている我が国の教育の目的である。「教育は,人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」と記されている。また,第五条第二号においても,「国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うこと」が,義務教育の目的となっている。

このような目的を実現するための目標として示された第二条の第五号では,「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」が掲げられている。

このように見てくれば,「国と郷土を愛する」態度を育てることは,「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」を育成するためであると考えることができる。なお,グローバル時代において求められる資質としては,自国の伝統と文化を愛することが,他国や他地域のそれを尊重することにもつながっていることが重要である。

「伝統と文化」「国際理解」の指導を通して

では,どうすれば「国と郷土を愛する」態度を育成することができるのであろうか。そのための指導としては,大きく次の三点が重要となろう。

第一は,伝統と文化の「個性・特色」をグローバル化の中で理解させることである。個性・特色とは,他とは異なる優れた点,すなわち「良さ」という意味である。個性・特色を理解するためには,他国や他地域のそれとの比較を通して,相違点や共通点を理解していくことが必要である。異文化の中に位置づけた時に,自文化の良さやアイデンティティが深く理解される。その意味では,国際理解の視点を取り入れることは重要である。

第二は,そのような伝統と文化を創造してきた,あるいは保存・継承してきた(しようとしている),人々の問題解決の姿を理解させることである。具体的には,人間(個人・集団・組織体)が行った(行っている)問題解決的行為の過程とその結果を「体験・追体験」させることを通して,伝統と文化の創造や保存・継承に向けた人間の働き(行為の目的とその意味・意義)を共感的に理解していくことである。

そして第三は,そのような人々の行為によって生み出され,今日まで保存・継承されている伝統と文化がもつ価値を見いだし,それを他者に向けて情報発信(表現)していくことである。その中で,伝統と文化の良さや可能性が再認識されていく。

教科書教材開発の工夫

「国と郷土を愛する」という視点から中学校の各教科・領域等の教科書教材の開発を考えるとすれば,どのような工夫が求められるのであろうか。

例えば,国語では,古典や古典芸能,近代文学などの伝統的な言語文化に親しむような教材の開発が可能である。社会科では,3分野共通で,身近な地域の文化的な特色や変容・課題とその歴史的背景や今日的意義を考えるような教材,より良い地域社会を形成するための態度を育てるような教材を充実させることが必要である。英語では,「日本人としてのアイデンティティを育てる」ために,外国で評価される浮世絵,アニメなどを新たな視点で見つめ直す活動や,日本文化を世界に向けて発信する活動,生活文化などを通して異文化・多文化を理解し尊重するような活動を取り入れた教材の開発が求められる。技術・家庭では,ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」や日本各地の郷土料理,地域に伝わる伝統文化や匠の技なども考えられる。道徳では,中学生が魅力を感じる人の生き方から学ぶ教材や,伝統文化のすばらしさを伝えるような教材の開発も考えられる。

このように,伝統と文化の背後にある人間の知恵や技に生徒が出会い,そこから問題を発見し,考え,そして感動が生まれるような教科書教材を工夫して開発することが必要となろう。

小原 友行
小原 友行(こばら ともゆき)
広島大学大学院博士課程後期修了。 高知大学教育学部助手,同助教授,広島大学学校教育学部助教授,同教授,広島大学教育学部教授を経て,現在,同大学院教育学研究科教授。博士(教育学)。専門は社会科教育学,NIE学。