教育課題への取り組み

命を尊ぶ
生涯を心豊かにたくましく生き抜く力の基礎作り

東京女子体育大学教授 戸田 芳雄

生涯を心豊かにたくましく生き抜く力を身に付けた子ども

ある報道機関の2014年国内十大ニュースでは,第1位が「御嶽山の噴火による災害」,第6位に「広島市北部の土砂災害」が入り,近年の我が国の自然災害の深刻さが顕著に示された。海外のニュースでは,第1位が「エボラ出血熱でWHOが緊急事態宣言」,第2位が「韓国で修学旅行生の乗った旅客船が沈没」であった。国内外ともに,
防災・減災や感染症の拡大防止が大きな話題を集めた一年であった。その他にも,近年は,児童生徒の交通事故や教育活動等での死亡事故,犯罪被害,いじめ等による自殺の問題など生命尊重にかかわるような事案が後を絶たない。

教育の目標と三つの視点

教育の目標には,正義と責任,男女の平等,自他の敬愛と協力を重んずること,生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養うこと,豊かな情操と道徳心を培うとともに,健やかな身体を養うことが含まれている。 これらは,関連する教科や領域でそれぞれの特質を生かしながら指導することで相乗効果が生まれ,その経過の中で,あるいは,その結果として,子どもに目指す資質や能力が育まれることになる。それらは,特に,中学校の教育課程で言えば,道徳,国語,保健体育,社会,理科などと関連が深い。

詳しく見ると,それらの内容は大きく三つに分けられる。一つは,生きとし生けるものの生命尊重の視点から重要と思われる「生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養うこと」,二つ目は,人が人として社会で生きる視点からの「正義と責任,男女の平等,自他の敬愛と協力を重んずること」,三つめは,それらの基盤となる人格形成や生涯を生き抜くための力を身に付ける視点から「豊かな情操と道徳心を培うとともに,健やかな身体を養うこと」が挙げられる。

Think globally!  Act locally!

近年,我が国では,阪神・淡路大震災や東日本大震災,台風・大雨・落雷等の気象災害など深刻な自然災害が発生している。このような中,それらの経験や教訓を踏まえ,地域や学校・子どもの安全・安心を守るため,全国すべての学校において防災・減災教育,防犯などを含む安全教育の一層の充実を図ることの重要性が再認識されている。とりわけ,今回の東日本大震災では,学校での日頃の防災教育や避難訓練の有効性が示された反面,あいまいで実際に機能しなかった計画,避難の途中で被災した先生や子どもたち,液状化や津波で破壊され押し流された指定避難所や学校,避難所運営と教育復旧の両立に苦悩した学校もあり,学校,家庭及び地域社会が連携し,具体的で機能する危機管理体制の整備や自助・共助・公助の視点から幅広い安全対策と実際に役立つ避難訓練や基礎となる防災・減災教育を進めていくことが求められている。さらに,地球の温暖化,廃棄物の処理や環境の保全などの環境問題を,身近なことから課題意識を持ち,自分ができることから実践に取り組んでいくことも重要な課題である。

このように考えてくると,小学校と同様に,学校において前述した三つの視点から「生命尊重」に関する教育を積極的かつ継続的に進めることが,きわめて重要であると思う。そのためには,生徒が毎日使う教科書の役割が大きい。先に述べた教科や,元々防災・安全が教科内容に入っている技術・家庭などにおいて,題材,活動,資料などを通じて,教科の目標と関連付けながら「生命尊重」について学べる―そんな教科書が求められている。「Think globally!  Act locally!(高い理想を持ちながら,身近で具体的な取り組みを進めようと言う意味)」は,主に環境教育で提唱されてきた言葉であるが,「生命尊重」に関する教育もまさしくそれと一致する。その地道な営み
が,「生きる力」の育成,すなわち,子どもが生涯を心豊かにたくましく生き抜く力を身に付けるための基礎づくりにつながると思う。

戸田 芳雄
戸田 芳雄(とだ よしお)
山形県小・中学校教諭,山形県指導主事,文部科学省教科調査官・スポーツ青少年局体育官等を経て現職。中央教育審議会臨時委員などを歴任。専門は健康教育,安全教育。