山形大学地域教育文化学部教授佐藤博晴

小学校外国語活動の
ねらいについて(2)

 前回は,小・中・高,それぞれの学習指導要領に掲げられた英語教育(外国語教育)の目標を比較し,小学校外国語活動の目標は「コミュニケーション能力の素地を養う」ことであるとしました(2016年4月8日まで遡ってしまいます。申し訳ありません。気になる方はその時の文章をご覧ください)。そして,1年以上にもわたりもたもたしているところへ,新学習指導要領が公示されました。
 新学習指導要領外国語活動の目標は下に示した通りです。目標が前文化され,その下に資質・能力の三つの柱の沿った具体的な目標が示されています((1)(2)(3)はそれぞれ,「知識・技能」,「思考力・判断力・表現力等」,「学びに向かい合う力・人間性等」にあたります)。当然,文言は増えましたが,その内容を見ていくと,新出されたものは少なく(緑で示しました),そのほとんどが現行の学習指導要領の目標と同じ(類似した)文言(赤で示しました),または目標の4行には含まれていませんが,その解説書の中に明示された(または類似した)文言(赤の二重下線で示しました)で占められていることが分かります。すなわち,今回高学年から中学年に開始時期が引き下げられる外国語活動の目標は,ほとんど変わっていないことが分かります。
 また前回同様(紙面の関係で最後の部分だけを示します),小学校中学年「外国語活動」(「~コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す」),小学校高学年「外国語」(「~コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す」),中学校「外国語」(「~コミュニケーションを図る資質・能力を次のとおり育成することを目指す」)を比較すると,小学校中学年「外国語活動」の目標は,新旧で変わることなく,「コミュニケーション能力の素地(となる資質・能力)を養うこと(育成すること)」であることも分かります(今回は「コミュニケーション能力の素地」を統一して使用します)。

第1 目標
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ
外国語による聞くこと,話すことの言語活動を通して,
コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

(1)外国語を通して,言語や文化について体験的に理解を深め日本語と外国語の音声の違い等に気付くとともに外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむようにする「知識・技能」
(2)身近で簡単な事柄について,外国語で聞いたり話したりして自分の考えや気持ちなどを伝え合う力の素地を養う「思考力・判断力・表現力等」
(3)外国語を通して,言語やその背景にある文化に対する理解を深め相手に配慮しながら主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う「学びに向かい合う力・人間性等」

 それでは「コミュニケーション能力の素地」とは何でしょうか。
 「小学校学習指導要領における「コミュニケーション能力の素地」とは,小学校段階で外国語活動を通して養われる,言語や文化に対する体験的な理解,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度,外国語の音声や基本的な表現への慣れ親しみを指したものです。これらは,中・高等学校の外国語科で養うこととしているコミュニケーション能力を支えるものとなります」。これは,文部科学省のホームページ内に示されていた「コミュニケーション能力の素地」に関する記述です。前回,私が3つの部分に区切って示した現行学習指導要領の目標の順番の一部を入れ替え,ただなぞったものです。多くの教育機関もこの文言にならい,または学習指導要領の目標そのものをもって「コミュニケーション能力の素地」の説明にあてています。
 ただ大城(2016)は,この文言だけではイメージ化しにくいとして,『広辞苑(第六版)』にある「素地」の定義(さらに手を加えて仕上げるもととなるもの)を使い,「完成はしていないけれど,後で手を加えることによって完成するもの」が「素地」であるとしています(その素地にさらに手を加えて完成させたものが,中学校の目標となる,または教科化された際の小学校英語の目標となる「基礎」だともしています) 。
 また菅(2008)も,現行の「コミュニケーション能力の素地」を文言だけでなく,「素地の木」と命名した,木をイメージ化して説明しています。この「素地の木」には「外国語を通じて,言語や文化に対する体験的な理解を深める」,「外国語を通じて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図る」,「外国語を通じて,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませる」という3つの幹があり,それらが有機的に絡み合うことで,それらの幹の上に「コミュニケーション能力の素地」の葉が青々と茂るとしたものです。小学校での外国語(英語)活動の教科化に批判的な態度をとられている大津(2009)も,この「素地の木」のキーワードは3つの幹をうまく折り合わせることだとしています。
 このような考えに基づき小椋(2010)は,小学校の外国語活動では3つの幹のどれか1つを重点的に指導するのではなく,3つを常に統合的に一つにして指導することが重要であると説いています。
 また,東京都大田区道塚小学校は,「コミュニケーション能力の素地」を養うための基本的なポイントとしてEye Contact,Smile,Good Voiceの3つを設定し,活動内容によってはGestureFrom the Heartを加えるなど,マナーやコミュニケーション・スキルを中心に据えた授業実践をしている学校も見られました(日本教育新聞 2009)。
 さらに先に菅の「素地の木」のところで,小学校での外国語(英語)活動の教科化に反対の立場をとると紹介した大津(2009)は,「コミュニケーション能力の素地」とは母語に根ざした「ことばの力」だとも断言しています。
 ここまで,いくつか「コミュニケーション能力の素地」の解釈を見てきましたが,皆様はこれを参考に自分なりの「素地」のイメージは持てたでしょうか。または,これだと頷ける解釈はあったでしょうか。個人的には,大城(2016)の素地と基礎のとらえ方,外国語にとらわれない大津(2009)の解釈など,自らの考えをまとめる上で参考になりました。次回はさらに第二言語習得研究の視点からの解釈を積み重ね,「コミュニケーション能力の素地」の概念を固めたいと思います。

■参考文献
・大城賢(2016)「コミュニケーション能力の「素地」と「基礎」を養うための授業のつくり方」『英語情報 2016 Summer』公益財団法人日本英語検定協会
・大津由紀雄(2009)「英語活動からことば活動へ」『こどもと教育』No.134.37-56.兵庫教育文化研究所
・小椋孝史(2010)『「英語ノート」を活用した外国語活動の指導の充実に関する研究 ― 学級担任単独による授業を中心とした授業案例の作成と活用をとおして―』(平成21年度(第53回)岩手県教育研究会発表資料)
・菅正隆 編著(2008)『すぐに役立つ!小学校英語活動ガイドブック』ぎょうせい
・日本教育新聞(2009)「評価はどうする? 外国語活動37 東京・大田区立道塚小学校㊤」12月21日号

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