2012年度,千葉大学附属小学校3年生(3クラス)の英語の授業に1年間関わる機会を得ました。授業は,絵本を軸にして週に1回20分というペースで行われました。そこで試みられた多くの取り組みは,高学年での指導にも通ずるものがありますので,幾かをご紹介させて頂きたいと思います。今回は,Baby Bear, Baby Bear, What Do You See?という絵本を使った活動展開を事例に使用します。
Bill Martin, Jr.とEric Carleによる名作絵本Brown Bear, Brown Bear, What Do You See? をご存じの方も多いと思います(『くまさんくまさんなにみてるの?』として邦訳も出版されています)。今回使用したBaby Bear, Baby Bear, What Do You See? はその姉妹編とでもいいましょうか(こちらも『こぐまくんこぐまくんなにみてるの?』という邦訳が出版されています)。同じ英語表現,同じリズムでお話が進んでいきますが,ページをめくるたびに登場する動物が異なり,児童の興味をさらに広げてくれる内容です。
絵本には,red fox(アカギツネ),blue heron(アオサギ),mountain goat(シロイワヤギ ),mule deer(ミュールジカ),flying squirrel(ムササビ),striped skunk(シマスカンク),screech owl(アメリカオオコノハズク),rattlesnake(ガラガラヘビ)など北米に生息する野生動物が登場します。犬,猫,馬など基本的な動物は英語で言える,という児童には興味が沸く動物の選択ではないでしょうか。
今回は,この絵本を用いて,「動物の名前と動作に親しみ,お話の世界を堪能する」というねらいを立てました。このねらいに基づいて,3回の授業案を組み立てました。初回ではまずお話を読むこと,2回目は動物の名前に繰り返し触れること,3回目は動物の名前とその動物が行う動作をジェスチャーつきで楽しむことにしました。
活動の流れ | 活動の詳細 | 活動のポイント・児童の反応 |
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(1)はじめの歌 |
Hello Songを歌う。 |
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(2)自己紹介 |
授業に関わる3名の教員(ALT, 英語部O先生, 筆者)が名前,好きなこと,好きな色を紹介する。 |
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(3)歌を歌う |
I Can See a Rainbowを歌う。 |
色の復習を兼ねて,虹の七色が出てくる歌を選択する。 |
(4)絵本を読む |
Baby Bear, Baby Bear, What Do You See? を読む |
英語のリズムが,1年生の時に読んだBrown Bear, Brown Bear, What Do You See?と共通しているので,特に日本語を介さずに読んだ。児童からは「あ,これに似ているお話,知ってるよ」の声。 |
(5)お話の確認 |
①どんな動物が出てきたか(What animals were on the book?)と②何色の動物だったか(What colors were those animals?)の2点に絞って質問する。 |
最初の指示は英語で投げかけ,児童の反応がない場合には“(I saw) a baby bear. (I saw) a red fox....”と出てきた動物を順番に話した。すると,児童からも絵本に登場した動物の名前があがった。 |
(6)終わりの歌 |
Good-bye Songを歌う。 |
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活動の流れ | 活動の詳細 | 活動のポイント・児童の反応 |
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(1)はじめの歌 |
Hello Songを歌う。 |
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(2)Color clapping |
教師が次々と単語を口にし,色の名前を言ったら,児童は 拍手をする。 |
(詳細については東書Eネット「授業は英語で?それとも日本語で?」をご覧ください) |
(3)お話の確認 |
Baby Bear, Baby Bear, What Do You See? の復習。9種類の動物たちのピクチャー・カード(baby bear, red fox, blue heron, mountain goat, mule deer, flying squirrel, striped skunk, screech owl, rattle snake)を登場した順に並べることで,どんなお話だったかを思い出す。 |
この種の活動は児童の得意技。ほとんど迷うことなく動物を正しい順に並べることができた |
(4)Missing game |
黒板に貼った9枚の動物カードの中から“Close your eyes.”を合図にカードを1枚外す。そして“What’s missing?” と外したカードを児童に当てさせる。慣れてきたら,外す枚数を2枚,3枚と増やしていく。 |
あまりに記憶力が良いので,最後には全てのカードを外した。「えー,先生ずるいよ」と言いながらも全部の動物を日本語と英語を交えて答えた。 |
(5)終わりの歌 |
Good-bye Songを歌う。 |
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活動の流れ | 活動の詳細 | 活動のポイント・児童の反応 |
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(1)はじめの歌 |
Hello Songを歌う。 |
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(2)歌を歌う |
I Can See a Rainbowを歌う。 |
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(3)動物の復習 |
9枚の動物カードを見せ,名前を復習する。 |
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(4)Let’s make twenty. |
9枚の動物カードに児童が既に知っているdog, cat, horseのカードを加え,12枚を使用 する。それぞれのカードの後ろに4 , 5 , 6 , 7 , 8 , 9 , 11 , 12 , 13 , 14 , 15 , 16の数字を書いた紙を貼り,児童にカードを2枚選ばせる。 |
“Let’s make twenty. B-kun, please choose two animal cards.”と指示を出す。黙っている児童には,“Which card do you choose? Do you choose a blue heron and a rattlesnake?” と動物を選んでみせると,カードを選び始めた。 |
(5)動作の質問 |
9種類の動物から6種を選び,それぞれの動物たちがどんな動作をするのか尋ねる。動詞はslip (red fox), run (mule deer), climb (mountain goat), dig (prairie dog), slide (rattlesnake), hoot (screech owl) を用いる。その後,動物カードを見せて “What does the blue heron do?” と投げかけ,児童に即座に動作で反応させる活動を行う。 |
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(6)終わりの歌 |
Good-bye Songを歌う。 |
今回の実践では,Baby Bear, Baby Bear, What Do You See? という1冊の絵本を用いて複数回の授業をつなげることに挑戦しました。常に新しい内容,活動だけで授業をすると,それらを説明する必要が生じて児童も理解に時間がかかりますが,ベースとなる内容を同じくし,ある程度活動を繰り返すことで,児童に余分な負荷がかからず,20分の枠に授業をおさめることができました。
こちらからの問いかけに対して児童の反応がない場合,どうしたらよいかもコツがつかめてきました。たとえば,第1時(5)のお話の確認で“What animals were on the book?”という問いかけに対して児童から反応がなかったときには,“(I saw) a baby bear. (I saw) a red fox....” と児童に 答えてほしい動物をこちらが先に列挙して,その後の道筋を示してあげればよいことが分かりました。
第3時(4)で扱ったLet’s Make Twentyのポイントは「カードで20の足し算をする」というルールをこちらが定めることで,児童が2枚のカードを選ぶ理由ができる,という点です。児童が既に知っている数字という知識を用いて組み合わせを考えるので過度な負担がかからないこと,そしてtarget languageである動物の名前を無理なく,繰り返し発話させることができます。3クラスともなかなか20が揃わず,それが自然に発話の頻度を上げることに繋がり「動物の名前に繰り返し触れる」という第2時のねらいを果たすことができました。
同じく第3時(5)で扱った動作(ジェスチャー)の質問は,どの動作を選択するかに注意を払いました。絵本には扱った6種類以上の動詞がありましたが,glide(滑空する)とfly(飛ぶ)など動きが似通っていると思われるものは外しました。また,今回は時間の都合上,教師がジェスチャーを示したのですが,自分たちで動作を決めたクラスもあり,そこに自由度を持たせても楽しい活動になると感じました。
最後に,同じ絵本を繰り返し読むことは児童を飽きさせるのではないか,という質問をよく受けますので,私見を述べます。今回,同じ絵本を3回の授業で取り上げましたが,絵本を繰り返し読むことはしませんでした。第1時に読んだだけです。ただし,時間があれば,全ての回で絵本を読んだと思います(実際に他校で実践したときにはそのようにしました)。その理由は,絵本を繰り返し読むことで,児童に自然な英語のリズムを浸透させることができると考えるからです。また,良い絵本を選択すれば,何度か読んだくらいでは児童は飽きたりしないようです。他の実践から高学年でも同じことが言えると感じています。ただし,数回の授業が全く同じように展開していくことは避けたいポイントです。絵本の後に続く活動に変化を持たせたり,教師の問いかけを変えてみたりすることで授業に広がりを持たせることはとても大切だと思います。