千葉大学准教授物井尚子

コーンフレークにケチャップがのっちゃったよ!
Ketchup on Your Cornflakes? を使った授業実践

はじめに

 昨年,千葉大学附属小学校 3 年生の英語の授業を実践する機会を得ました。授業は,週に 1 回 20 分というペースで行われました。そこで試みられた多くの取り組みは,高学年での指導にも通ずるものがありますので,幾つかをご紹介したいと思います。今回は,Ketchup on Your Cornflakes? という絵本を使った活動展開を事例に使用します。

絵本について

 Nick Sharratt 氏の手がけたリングで綴じられた絵本です。ページの上下が分かれており,ばらばらにめくることで,描かれている絵のチグハグな組み合わせを楽しむ絵本です。タイトルにもあるように ketchup, cornflakes,他には toothpaste, lemonade, milk, chips というような児童の身近にあるものを用いて,幾通りもの組み合わせを考えることができます。すると,ketchup on your cornflakes, toothpaste in your lemonade, milk on your chips という突拍子もない組み合わせが出来上がるのです。そこで,Do you like ketchup on your cornflakes?と絵本の左ページに表れた奇妙な質問を児童に投げかけると,即座に「えー!」「なんだそりゃあ!」と歓声があがります。児童は Do you like…?という表現,on, in という前置詞,身の回りの名詞に触れることができます。一冊の本で,彼らの好きそうなものと嫌いであろうものを自由に選びながら,バランスよく質問が投げかけられるのが語学教師としては大きな魅力です。

活動のねらい

 今回は,この絵本を使用して「“Do you like…?”という英語の質問に答える,そして自らも質問してみる」というねらいを定め,3 回の授業案を組みました。初回ではまず絵本を読むこと,2 回目は絵本に出てきた身近な名詞について先生の好き嫌いを知ること,3 回目はクラスの友達の好き嫌いをたずねること,にしました。

授業の実際

 本項では,絵本に関連した活動に焦点を絞り(初めの挨拶,終わりの挨拶などは割愛),3 回の授業の流れを記します。先の「“Do you like…?”という英語の質問に答える,そして自らも質問してみる」というねらいをどのような活動で具現化したのかを説明します。

第1時  絵本を読む
活動の流れ 活動の詳細

(1)絵本を読みながら質問する。

Ketchup on Your Cornflakes? を読む。上下のページを組み合わせて,児童に好き嫌いをたずねる。たずねた英文は次の通り。

1) Do you like ketchup on your cornflakes?
2) Do you like ketchup on your chips?
3) Do you like custard on your cornflakes?
4) Do you like custard on your apple pie?
5) Do you like ice cubes on your apple pie?
6) Do you like ice cubes in your lemonade?
7) Do you like toothpaste in your lemonade?
8) Do you like toothpaste on your toothbrush?
9) Do you like a woolly hat on your toothbrush?
10) Do you like a woolly hat on your head?
11) Do you like a duck on your head?

12) Do you like a duck in your bath?
13) Do you like salt in your bath?
14) Do you like salt on your egg?
15) Do you like talcum powder on your egg?
16) Do you like talcum powder on your toes?
17) Do you like jam on your toes?
18) Do you like jam on your toast?
19) Do you like a teddy on your toast?
20) Do you like a teddy in your bed?
21) Do you like milk in your bed?
22) Do you like milk on your chips?

(2)I Like Ice Cream チャンツ

I Like Coffee チャンツを捩った I Like Ice Cream チャンツを聞かせ,口ずさめる部分は声に出してみるよう促す。

♪I like ice cream. I like ice cream. Do you like ice cream? Do you like ice cream?
 Yes, yes. No, no. So-so. So-so.

第2時 絵本に出てきた身近な名詞について担任の先生の好き嫌いを考える。
活動の流れ 活動の詳細

(1)担任の好き嫌いを知る。

6 マス×2 列の枠に絵本に登場した単語から 16 個を選び,並べたプリントを児童に配布する。同時に同じプリントを拡大したものを黒板にはる。「これから A 先生が好きなものを教えてくれます。よく聞いて○をつけてみましょう。」(Now, Mr. A is going to tell you what he likes. Listen to Mr. A carefully and circle the picture you hear.)と指示し,A 先生と会話をはじめる。

M: Mr. A, do you like jam on your toast?
A: Yes, I do. I like jam. I like toasts, too. So, I want to eat jam on my toast.
M: I see. You like jam on your toast.

と言いながら,jam(上段)と toast(下段)の両方の絵を 1 つの○で囲む。最初は上段と下段での組み合わせをたずねるが,そのうち組み合わせをいろいろにする。

(2)I Like Ice Cream チャンツ

I Like Coffee チャンツを捩った I Like Ice Cream チャンツを全員で歌ってみる。

♪I like ice cream. I like ice cream. Do you like ice cream? Do you like ice cream?
 Yes, yes. No, no. So-so. So-so.

第3時 クラスの友だちの好き嫌いをたずねる。
活動の流れ 活動の詳細

(1)I Like Ice Cream チャンツ

I Like Coffee チャンツを捩った I Like Ice Cream チャンツを全員で練習する。

♪I like ice cream. I like ice cream. Do you like ice cream? Do you like ice cream?
 Yes, yes. No, no. So-so. So-so.

(2)友だちの好き嫌いを知る。

4 マス×4 列の枠に絵本に登場した単語から 16 個を選び,並べたプリントを児童に配布する。同時に同じプリントを拡大したものを黒板にはる。絵本と一緒におはじきを一人 5 個配る。「これからいろんな人に好きなものを聞いていきます。人気がありそうなもの 5 つにおはじきをおいてみてください。」(Now, I am going to ask many of you what you like. Please put a marble on five items that many people like.) と指示し,黒板の大きな紙の cornflakes, lemonade, toothbrush, milk, ice cubes のそれぞれにおはじきを置くところを見せた後,児童を指名する。

 M: B, Do you like ketchup?
 B: No, I don’t.
 M: Why not?
 B:
トマトが嫌いだから。
 M: Oh, you don’t like tomatoes! So, you don’t like ketchup.
Yes, I do.
となった場合には,プリントからおはじきをとる。
 M: C, Do you like lemonade?
 C: Yes, I do.
 M: Why?
 C:
おいしいから。
 M: Yes, it’s tasty. I like lemonade, too. Oh, I can take off one marble. I have four marbles left.
と言って,たまたまレモネードの上に置いてあったおはじきをとる。

実践を振り返って

 今回の実践で用いた絵本は,使用者がいかようにもお話を展開できる Ketchup on Your Cornflakes を 3 回の授業で使用しました。想像力のない私には,この「いかようにも」の部分が逆に使いづらく,思案してしまったというのが本音です。ですから,1 回目の授業では,“Do you like...?”の文でひたすら質問されるという単調な展開に児童は後半飽きてしまったようです。意地で最後まで通してしまいましたが,今度やるときには,もう少し早めに切り上げようと思います。
 担任の好き嫌いを考える 活動は,児童がとても熱心に取り組みました。とくに,学級担任の A 先生が,上手に理由をお話ししてくださったので,その理由を楽しみに耳をしっかりと先生のほうに向け,目は先生のジェスチャーを見逃すまいとアンテナを張っている児童の様子が印象的でした。そして,先生が好きなもの,あるいは嫌いなものがわかると「えー,なんで?」「どうして?」と即座に質問が飛んでいました。やはり,好き,あるいは嫌いという感情には理由がつきものであること,それを言葉にしてこそコミュニケーションの素地が育まれるのだと痛感した一コマでした。また,一問ずつ,クラス全員で正解を確認していける活動でしたので,わからなくなってしまった児童もその都度正解を確認しながら進めていけたことは,今後,長い英文を聞くときの忍耐力を育てる良い練習となる活動であると感じました。慣れてきたら,A 先生の役割を児童に代えて活動を進めることもできると思います。
 友だちの好き嫌いを考える 活動は,児童が Yes, I do./No, I don’t.と一人で答えることが要求される活動です。またクラス全体で Do you like...?とたずねることも必要になります。そのために,活動の前に Do you like...?/ Yes, I do./ No, I don’t.という表現が練習できるチャンツの時間をとり,口慣らしをした上で活動に臨めるようにしました。このチャンツは,有名な I Like Coffee のチャンツをもじって,3 回の授業を通じ,楽しんできたものです。児童の口から流れるように英語が出てくるのを目の当たりにすると,チャンツの偉大さを痛感します。チャンツを済ませたら,いよいよ友達に質問する時間です。ここでインタビュー形式の活動を用意して個人の活動とすることもできましたが,あえてクラス全体で進める活動にしました。これまでの経験から,あまり早く教師が手綱を放してしまわないように気をつけています。これは,今後 Do you like...?という繰り返し出てくる表現を,早いうちに正しいリズムで,全員が自信をもって言えるように確認しておきたかったというのがその理由です。また,前述のように好きな理由,嫌いな理由を児童にたずねるべく Why? という表現を発するようにしました。そうすることで,児童はより真剣に YesNo かを考えているような印象を受けました。ただし,理由を英語にすることを考えると,かなり難解な表現がとめどなく出てくる可能性があります。この点については,児童のわかる簡単な英語で表現できる部分を見つけ,そこを英語にし,残りは日本語で対応しました。この線引きは,教師の手腕が問われる部分です。うまく英語にできる部分を見つけて即座に対応できるように,どんな答えが出てくるのか,あらかじめ予測を立てておくことが大切になります。

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