雫石町立雫石小学校 校長齋藤 卓也

小学校におけるカリキュラム・マネジメント
小学校「外国語科」「外国語活動」導入に対応した時間割の編成④

1 各学校から具体策の提案を

 小学校の「外国語活動」,「外国語科」導入に伴い,3年生から6年生までの授業時数が,それぞれ年間35単位時間(週1コマ)増加される。この時数増にどのように対応するか。4回にわたり検討させていただいた。今回がいよいよ最終回となる。
 前回は,「小学校におけるカリキュラム・マネジメントの在り方に関する検討会議」の報告書(以下「報告書」)をもとに,時間割を作成する場合に大切にすべき考え方と,提案された4つの選択肢について具体的に検討してきた。どの選択肢も長所もあれば短所もあった。今回は,私が現在勤務する学校の選択と基本的な考え,そして,具体案を提案したい。
 今後,各学校現場から,それぞれの時間割案が提案され検討されるなかで,さらによりよい解決策が見いだされることを願っている。

2 すこやかな育ちを保障する選択

 前号で詳しく見たとおり「報告書」には次の4つの選択肢が示された。
〇選択肢① 年間授業時数を増加させて時間割を編成する
〇週あたりの授業時数を増加させて時間割を編成する
・選択肢② 45分授業のコマは増やさず短時間や長時間の授業を設定
・選択肢③ 45分授業のコマ数を週1増やして設定
〇選択肢④ 年間授業日数の増と週当たり授業時数の増を組みあわせて時間割を編成する
 本校は,このうち選択肢③「45分授業のコマ数を週1増やして設定」する案を採用することにしている。
 なぜなら,この案こそ,子どものすこやかな育ちを保障する案と考えるからである。選択肢①②④は,良い面もあるが子どもの生活に大きな変更を強いることになる。また,時数あわせのための苦肉の策的側面が強いのではないかと考えるからである。
 ではなぜ,選択肢③が子どもをすこやかに育てる案と言えるのだろうか。

3 基本的な考え

 今まで見てきた通り時間割を作成する場合,一番大事にしなければならないのは「恒常性」を基本とすることである。その理由は,「報告書」に次のようにある通りである。
「特に小学校段階の学習においては,児童の学習規律の確立が学習の基盤となる。時間割は,学校における児童の生活時間を効果的に配分し,日々の生活や学習のリズムを作り上げていく効果を持つものである。日常的な生活や学習のリズムが身につくよう,なるべく恒常的な時間割であることが望まれる。」
 子どものすこやかな育ちは,安定した一定のリズムでカリキュラムが遂行されることで保障される。「報告書」では「弾力性」も求められてはいるが,それは,あくまで,児童と学習内容の実態に応じて必要な場合に考慮するものとして示されていると考える。「恒常性」と「弾力性」を同等に考えることではない。
 また,土曜日の授業,長期休業日に授業を行うことは,多くの児童が既に様々な活動を行っている現状では現実的ではない。保護者,地域の方々,社会教育関係者,塾関係者,スポーツ少年団関係者等々のご理解とご協力をいただく必要があり,簡単ではない。
 さらに,授業時間等の運用の弾力化が学校現場になじまないのは,歴史が証明していることでもある。平成10年の学習指導要領改訂時にも似たようなことが提案されている。
 ご承知のとおり平成10年の学習指導要領改訂は,「総合的な学習の時間」の創設や完全学校週5日制が実施されることに伴う土曜日分を縮減した時数とし,従前より各学年とも年間70単位時間程削減されることになった。各教科等の時数が,学習指導要領としては,初めて35で割れない時数で示されたのである。それまでは,年間を35週と考えカリキュラムが編成されていることを踏まえ,各教科等の時数は35の倍数で示されていた。その結果,各教科の週あたりの授業時数が小数で示されることになった。例えば,小学校6年生の算数は,それまで週5時間実施されていたものが,改定により週4,3時間実施となったのである。その対策として示されたのが,「授業の1単位時間や授業時数の運用の弾力化」なのである。つまり,短時間や長時間の授業が提案された理由は,歴史的に見れば,時数確保,時数合わせだったのである。学習内容や子どもの実態に応じてという理由は後付けでしかない。そのために,「報告書」は次のように釘をささなければならなかったのである。
「短時間や長時間等の弾力的な時間の設定についても,単なる時数確保のための工夫にとどまらず,こうした児童の学びの質の向上を図るための工夫の一つとして検討されることが重要である。」
 果たして,それから,二十数年を経てどうなったのだろうか。「教育課程の編成・実施状況調査」を見れば明らかである。短時間の授業は,朝学習や帯学習として,読書や漢字練習,計算練習の時間としては定着した。しかし,短時間や長時間の授業としては定着しなかった。短時間学習は,習熟・定着的な学習や読書等の時間としては適するが,思考力・判断力・表現力を育てる授業時間と見ることは難しいのである。15分の短時間学習を3回実施して1時間授業したと計上することはできないというのが学校現場の判断である。
 同様のことが外国語活動についても言える。15分の短時間学習を3回実施して1時間授業をしたと見ることは,外国語活動導入の3・4年生では,絶対にできることではない。5・6年生においても望ましいことではない。多くの学者や先進校が指摘していることはご承知の通りである。ただ,5・6年生において一部導入することは可能ではある。2時間ある外国語科のうち1時間は,45分の授業が行われており,その時間との関連の中で意図的計画的に実施される場合である。十分な研究実践が前提となる。
 外国語教育の充実の観点からも45分を1コマとする授業を実施することが一番望ましいのは明らかである。それを可能にするのが,選択肢③「45分授業のコマ数を週1増やして設定」する案であると考えている。
 しかし,大きな課題があるのも事実である。それは,「職員会議や校内研修あるいは児童の補修の時間等として確保した時間」をどう確保するかである。特にも,外国語活動,外国語科の充実を図っていくためには,校内研修として,外国語活動・外国語科の授業研究会の時間を確保することは必須のことである。この問題の解決にこそ,学校のカリキュラム・マネジメント力を発揮すべきである。

4 時間割案

 本校では,<表1>の通り毎朝,朝学習の時間を20分設定している。また,毎日昼休み後,20分の清掃の時間を設けている。それを,職員会議を設定する日は行わないようにする。朝学習の20分と清掃時間の20分で40分を確保できることになる。そうすれば,その日を,6時間授業にしても<表2>の通り職員会議等の時間も確保できるのである。
 子どもたちから週1回の朝学習の時間と清掃活動の時間を奪うことにはなるが,他の案よりは子どもたちに与える影響は少ない。また,職員会議等の時間も5分削減されることになるが,会議の進め方等の工夫で十分対応可能である。
 この方法により,安定的に3・4年生において週1時間の外国語活動,5・6年生においては週2時間の外国語科を実施することができるのである。
 本校のみならず,日本中多くの学校が,朝学習の時間を設定している。また,清掃活動を行っている。この方法は,他の学校においても可能であると考える。

<表1>

朝学習

20分

朝の会

1限

2限

3限

4限

給食等

清掃

20分

5限

6限

職員会議
/校内研修

委員会
/クラブ

<表2>

朝学習

20分

朝の会

20分

朝の会

1限

2限

3限

4限

給食等

清掃

20分

給食等

20分

5限

6限

職員会議
/校内研修

委員会
/クラブ

5 本来の在り方と「働き方改革」のゆくえ

 週に1日だけ,朝学習,清掃活動を行わない。そのことで45分授業のコマ数を週1増やすことができる。この方法は,児童への影響を最小限におさえ,外国語活動・外国語科の充実も図っていくことができる。時数増に対応することができたのである。
 しかし,本来的には,中教審の答申そのものが,時数増に対応できる提案であるべきである。外国語活動・外国語科の充実を図らなければならないのであれば,他の教科等のいずれかを削減するしかない。過去の答申は,多くの批判を受けながらもそのような英断を下してきた。例えば,先に示した平成10年の学習指導要領改訂の前の答申がそうであった。「総合的な学習の時間」を創設するために他教科を大幅に削減したのである。もちろん,たくさんの批判も受け,大きな議論にもなった。しかし,答申とはそのような英断を下すべく数年かけて議論しているはずのものである。その英断を下せない中教審になったとすれば,その在り方を検討しなければならない。
 私は,今回の中教審の答申の発表時,移行措置の発表時,パブリックコメントのまとめの発表時,それぞれ納得できないことがあまりにも多かった。学校経営の責任者として真意を知りたくて文部科学省の教育課程課,国際教育課,企画課に問い合わせを行った。各課の担当者は誠実に学校現場の声に耳を傾けてくださった。その中で分かったのは,担当者もそれぞれ困っているというのが実情だった。文部科学省も答申と学校現場の板挟みの中で悩み苦しんでいたのである。なんとか学校現場が困らないように検討を重ねている話を伺えたことは大きな収穫であった。学校現場としても最大限の努力をしなければならないと思ったのである。
 現在,この問題は,働き方改革でも検討されることになっている。中教審の「学校における働き方改革特別部会」資料の「検討事項に係るこれまでの主な意見の整理」の中に次のように示されている。
 「今後,『カリキュラム・マネジメント』の実現が求められる中で,教員が教科指導・生徒指導等,教員が本来担うべき業務に専念できるようにするためには,どのような指導体制が考えられるか。そのために,国及び地方公共団体はどのような支援方策が考えられるか。特に,平成32年度から本格実施される小学校学習指導要領においては,外国語教育の充実等により総授業数が増加することになるが,教員の負担に配慮しながら,新学習指導要領を円滑かつ確実に実施するために,どのような方策が考えられるか。」
 このような具体的論点が示されている。文部科学省も既に,学校現場の声を吸い上げ,何とか手を打たなければ,新学習指導要領が円滑かつ確実に実施することはできないと考えていたのである。この資料のなかではさらに,「関係団体・有識者ヒアリングにおける取組例」として,「小学校専科教員の配置」が示されている。さらに,「今後取り組むべき課題」として,外国語活動・外国語科に関わって「小学校においては特に,授業以外の業務を行うことができる時間を確保するため,専科教員の配置が有効。特に新たに必須となる英語教育に対する教員の不安定感・負担感の解消のためにも,英語教員の配置が有効。」等が示されている。
 平成30年度から実施される移行措置,そして,平成32年度から本格実施される小学校学習指導要領が円滑かつ確実に実施され,外国語教育の充実が図られることを多くの国民が願っている。そのためにも,学校現場の困惑に対してどのような対策がとられるのか,期待をもって見守っていきたい。

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