雫石町立雫石小学校 校長齋藤 卓也

小学校におけるカリキュラム・マネジメント
小学校「外国語科」「外国語活動」導入に対応した時間割の編成③

1 各学校のカリキュラム・マネジメント力に委ねられている

 小学校の「外国語活動」,「外国語科」導入に伴い,3年生から6年生までの授業時数が,それぞれ年間35単位時間(週1コマ)増加される。3年生の週1コマ増は,可能である。しかし,4年~6年の増は難しい。しかも,答申等で示された対応策は簡単には実現できないものも多い。そのため,文部科学省は,「小学校におけるカリキュラム・マネジメントの在り方に関する検討会議」を立ち上げ検討を重ね,平成29年2月14日に報告書(以下「報告書」と示す)をまとめた。しかし,平成29年5月26日発表された移行措置は,「総合的な学習の時間」で15コマ外国語(英語)を行うという想定外の内容を示した。さらに,平成29年7月7日発表された,パブリックコメントの結果も前号で詳しく見てきた通り,学校現場との考え方の違いを明確にしたものであった。
 この事態の解決は,各学校のカリキュラム・マネジメント力に委ねられていると言える。時数増にどのように対応するか,一緒に考えていきたい。

2 時間割編成上大切な3つのこと

(1)カリキュラム・マネジメントの一環として取り組む

 次期学習指導要領に対応した時間割編成を進めていく上で大切なことの1つ目は,カリキュラム・マネジメントの一環として取り組むことである。「報告書」は次のように述べている。
「時間割の編成も同様に『時間』という限られた資源をどのように教育内容と効果的に組み合わせていくのかという点で,カリキュラム・マネジメントの重要な一部であるという意識を持って取り組まれることが必要である。」
 週あたりの授業時数は,5年生で比較すると標準的な週28コマの実施が62.7%,週29コマ以上実施している学校も35.7%ある。(平成27年度の教育課程の編成・実施状況調査)週28コマの学校も教育課程外の委員会・クラブの時間がプラスされるので実質29コマである。
 今回示された次期学習指導要領は,さらにもう1時間増やすことを求めている。まさに,「時間という限られた資源」という考え方に立って時間割を編成することが求められている。

(2)生活や学習のリズムの確立や質の向上

 大切なことの2つ目は,「生活や学習のリズムを確立するための恒常性」と「児童の実態や学習内容に応じる弾力性」を踏まえることである。時間割編成上中核となることと言える。

①恒常性

 「恒常性」の観点から,「報告書」は時間割には次のような効果があると述べている。
「特に小学校段階の学習においては,児童の学習規律の確立が学習の基盤となる。時間割は,学校における児童の生活時間を効果的に配分し,日々の生活や学習のリズムを作り上げていく効果を持つものである。日常的な生活や学習のリズムが身につくよう,なるべく恒常的な時間割であることが望まれる。」
 時間割についての伝統的な考え方をまとめている。
 また,今日的意味で恒常性が必要な理由も次のよう述べている。
「また,各教室には,発達障害も含めて多様な学習ニーズを抱えた児童が存在することを踏まえれば,時間的な見通しが立てやすい時間割が望ましい。」
 発達障害も含めて多様な学習ニーズを抱えた児童は,変化をともなう時間割には対応しがたいのである。時間的な見通しを立てやすい時間割,つまり,恒常的な時間割が望まれるのである。

②弾力性

 一方,児童の実態や学習内容に応じた「弾力性」も学びの質を高める観点から求められる。
 「報告書」は次のように述べている。
「児童の主体的・対話的で深い学びの実現に向けては,その時々の児童の学びの実態や学習内容に対応した,弾力的な時間割の設定が望ましいとも考えられる。(中略)朝や昼,放課後などの15分程度を,短時間の授業時間として教科の学習に充てたり,土曜日に実施される授業において,45分を超えた長時間授業の設定を弾力的に行ったりする工夫は,児童の実態や学習内容を踏まえつつ,学びの質を高めるための創意工夫の一例であると捉えることができる。」
 注目する必要があるのは,弾力的な授業時間はあくまで児童の実態や学習内容を踏まえつつ,学びの質を高めるためであるということである。決して単なる時数確保であってはならない。「報告書」は,次のように戒めている。
「短時間や長時間等の弾力的な時間の設定についても,単なる時数確保のための工夫にとどまらず,こうした児童の学びの質の向上を図るための工夫の一つとして検討されることが重要である。」
 その上で「恒常性」と「弾力性」の関係について次のようにまとめている。
「時間割編成に当たっては,生活や学習のリズムを確立するための恒常性と,児童の実態や学習内容に応じて学びの質を高めるための弾力性のバランスを考えながら,児童や学校,地域の実態に応じた編成を行っていくことが求められる。」
 バランスが強調されていように見えるが,「報告書」全体を読み通してみると,「恒常性」を基本として,児童や学習内容の実態に応じて「弾力性」を加味していくと理解すべきであろう。「恒常性」と「弾力性」は並列に考えるべきものではなく,あくまで「恒常性」を基本に据えることを報告書は求めていると理解すべきである。

(3)指導計画・教材・指導体制・業務環境の整備

 時間割編成を進めていく上で大切なことの3つ目は,時間割を遂行するための条件等の整備である。「報告書」は次のように述べている。
 「現在,短時間や長時間等の授業を弾力的に設定している学校においては,単元や題材などの内容や時間のまとまりの中で,弾力的な授業時間を設定する場合の指導計画上の位置づけを工夫したり,教科書等の教材を基本としながら,児童の学びにあわせた活用の仕方や,補助教材を独自に開発することなどの教材の工夫を行ったりしているところである。時間割を弾力的に設定する場合には,こうした指導計画の作成や,教材の活用や開発に向けた教員への支援も必要となる。」
 このことについては,現在,文部科学省において,「小学校の新たな外国語教育における補助教材の検証及び新教材の開発に関する検討会議」が設置され「年間指導計画」「活動例」「外国語学習指導案」「短時間・活動例」「児童用冊子」「指導書」等が作成されているところである。
 「報告書」はさらに,次のことも求めている。
 「学校全体で時間割に応じた指導体制の確保を図っていくことも重要となる。各学校や地域における教員の年齢構成を踏まえ,指導教材の工夫が行えるような力量を高め必要な体制を確保していくことが求められる。また,時間割編成を弾力的にすれば,年間の授業時数の管理は複雑になるため,時間割編成に当たっては,教員の業務環境も踏まえつつ,過度な業務負担を招かないような工夫も求められる。」
 指導体制や業務環境も整えなければ,どんなに工夫して時間割を編成しても十分に機能しないからである。
 以上,「カリキュラム・マネジメントの一環として」,「生活や学習のリズムの確立や質の向上」を目指し,「指導計画・教材・指導体制・業務環境の整備」を進めながら時数増に応じた時間割編成を行うことにことが求められている。

3 示された4つの選択肢

 以上のことを踏まえ,「報告書」には,次の4つの選択肢が示されている。
〇年間授業時数を増加させて時間割を編成する案
〇週あたりの授業時数を増加させて時間割を編成する案
・その1 45分授業のコマは増やさず短時間や長時間の授業を設定
・その2 45分授業のコマ数を週1増やして設定
〇年間授業日数の増と週当たり授業時数の増を組みあわせて時間割を編成する案
 具体的に検討していこう。

(1)「年間授業時数を増加さる案」選択肢①

 長期休業期間や土曜日の授業を実施することにより年間の授業日数を増やし,年間35時間を確保する案である。この場合次の3つの方法が考えられる。
〇長期休業を授業日にする。例えば,一日6コマで6日間。
〇土曜日を授業日にする。例えば,一日4コマで,9日。
〇長期休業と土曜日を授業日にする。例えば,長期休業一日6コマで5日,土曜日一日4コマで2日。 
 「報告書」が示す「実施の前提として必要な条件整備等」で注目すべきは,
・「長期休業期間の調整や土曜日の授業実施に地域や家庭の理解が得られること。」
・「長期休業期間における児童の多様な学びの機会が確保できること。」
・「休業日の調整など,教育委員会が主導して行う体制があること」
の3つである
 保護者や地域の理解と教育委員会が主導して行う体制があれば実施は可能である。
 この方法の長所は,児童の毎日や毎週の生活や学習のリズムを変えることなく時数確保ができることである。もちろん,45分を標準とした授業時間である。
 短所は,休業日における児童の多様な学習の機会が減ることである。また,時間割が,週あるいは月ごとか学期毎等で変わることである。

(2)「週あたりの授業時数を増加させて時間割を編成する案」

 この方法は2つの案が示されている。1つ目から見ていこう。

〇「45分授業のコマは増やさず短時間や長時間の授業を設定する案」選択肢②

 これは,週の時間割の中に,短時間や長時間等の授業を複数実施することにより,年間35時間を確保するものである。例えば,一回15分の短時間の授業を週3回位置づけることや,45分と組みあわせた60分の長時間授業を週三回位置づけるたりする。「朝の時間を活用する場合」「昼休み後の時間を活用する場合」「夕方の時間を活用する場合」が考えられる。表1の朝の時間活用を見てみよう。
 「報告書」が示す「実施の前提として必要な条件整備等」で注目すべきは,次の点である。
「短時間や長時間等の授業に対応した授業準備や教材開発,指導体制の確保等が可能であること。」
 研究・実践の積み重ねがあり,この条件が整っていれば可能である。また,外国語活動に対応するのであれば,60分授業1回,15分授業2回設定か,60分授業2回,15分1回設定が実践的に妥当と考える。なぜなら,外国語活動,外国語科とも最低1時間は45分以上のまとまった時間の授業が必要であると多数の専門家が述べているからである。特にも,初めて外国語活動に接する3・4年生に短時間学習はありえない。また,他の教科等に長時間学習や短時間学習を実施すれば時数管理が複雑になる。
 この方法の長所は,児童の休業日が確保されることであり,柔軟な授業時間の設定が可能になることである。課題は,教材開発や授業準備がしっかり行われることが大前提であり学習規律の確立も求められる。何よりも,3・4年生は短時間学習では外国語活動に対応できないことも考える必要がある。

〇「45分授業のコマ数を週1増やして設定する案」選択肢③

 2つ目を見てみよう。
 この方法は,週の時間割に,45分授業を1コマ増やして,年間35時間を確保する方法である。

<表1>

登校

15分

短時間
又は60分

短時間・
60分

短時間・
60分

1限

2限

3限

4限

5限

6限

職員会議
/校内研修
 

委員会
/クラブ

<表2>

登校

朝の会

 
 

 
 

1限

2限

3限

4限

5限

6限

授業時間㉙
職員会議
/校内研修

委員会
/クラブ

 具体的には,表2のように職員会議や校内研修あるいは児童の補習の時間等として確保した時間を授業時間とすることである。
 「報告書」が示す「実施の前提として必要な条件整備等」で注目すべきは,次の点である。
「児童の補習や主体的な学習活動,校内会議や研修等に充てられている時間を維持できなくなるため,これらの活動の調整が可能であること。」
 実際,既に職員会議,校内研修等の時間を授業時間としている学校は首都圏を中心に存在している。
 この方法の良いところは,児童への影響が一番少なく,45分の授業1コマを安定的に確保できることにある。課題は,職員会議,校内研修等の時間をどのように確保するかである。特にも外国語活動,外国語科の指導の充実を図るためには校内研究会の時間確保は必須のはずである。

(3)「年間授業日数の増と週当たり授業時数の増を組みあわせて時間割を編成する案」選択肢④

 今まで述べてきた選択肢①と②をあわせて年間35時間を確保する方法である。「報告書」では,次のような具体例を示している。
「例えば,1回15分の短時間の授業又は60分の長時間の授業を週2回設定して23単位時間分を確保し,加えて年間授業日数の増により12単位時間分(1日6コマであれば2日,4コマであれば3日)確保することなどが考えられる。このほか,短時間の授業を週1回実施してその他は年間授業日数の増により対応する」
 この方法について「報告書」は,「調整にかかる日数や弾力的な授業時間を設定する授業の数が少ないため,比較的検討しやすい。ただ,時数の管理体制はよりしっかりと確立していく必要がある。」
と述べている。
 しかし,この方法も選択肢①,②の課題で述べたことが求められるのである。また,同じく,3・4年生についてどうするか考える必要がある。
 以上,4つの選択肢を検討してきた。どの方法も長所もあれば短所もある。各学校が自校の実態を踏まえカリキュラム・マネジメント力を発揮して工夫することが求められている。
 次回は,私自身の勤務する学校の考えと選択について具体策を提案したいと考えている。

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