雫石町立雫石小学校 校長齋藤 卓也

小学校におけるカリキュラム・マネジメント
小学校「外国語科」「外国語活動」導入に対応した時間割の編成①

1 小学校の中学年・高学年で年間35単位時間増(週1単位時間増)

 中央教育審議会は,平成28年12月21日「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(以下 答申 と示す)をとりまとめ,提言した。答申を踏まえ,平成29年3月31日,新小学校学習指導要領が告示された。答申では,「小学校の外国語教育における改善・充実」において「小学校高学年において,『聞くこと』『話すこと』の活動に加え,『読むこと』『書くこと』を含めた言語活動を展開し,定着を図り,教科として系統的な指導を行うためには,年間70単位時間程度の時数が必要である。また,中学年における外国語活動については,従来の外国語活動と同様に年間35単位時間程度の時数が必要である」と提言された。このことを受け,小学校では,平成32年度から,中学年において「外国語活動」が,高学年においては教科として「外国語科」が導入されることになった。これに伴い,3年生から6年生までの学年での授業時数が,それぞれ35単位時間ずつ増加されることになった。

2 問題の所在

 小学校の外国語教育の充実のために,高学年が「外国語科」が週2時間,中学年が「外国語活動」が週1時間行われることになる。これに伴い,3年生から6年生までの学年の授業時数が年間35単位時間ずつ増加される。週単位では1単位時間増加されることになる。
 ここに大きな問題がある。それは,時間割編成上は,いままでとは違った対応が求められるからである。
 標準的な3年生と4~6年生時間割例を示すと次の表1,表2のようになる。

表1【3年生27コマ例】

1限

2限

3限

4限

5限

6限

会議

下校

表2【4~6年生28コマ例】

1限

2限

3限

4限

5限

6限

会議

委ク

下校

 3年生は,表1のようにほとんどの学校が週27コマで時間割が編成されているので週時数1コマ増で対応できる。全国どこの学校でも1週間に1日5限の日をつくっている。そこで職員会議や研究会をするからである。それでも3年生までは,1コマ増やせる余白がある。しかし,4年生以上は,ほとんどの学校が週28コマで時間割が編成されている。さらに標準時数としては示されていないが委員会活動・クラブ活動の時間を1コマとらなければならないので実質的にはすでに29コマになっている。増やせる余白がないのである。週時数1コマ増やすことができないのである。
 このことはすでに,平成20年の中教審答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」において,「学習指導要領上の標準時数を増加する場合,週28コマが限度と考えられる」と指摘されているのである。
 それにも関わらず今回の答申では,週28コマ以上の時数が求められたことになる。このことは,今回の答申においても,「各学校における弾力的な時間割編成」の項において,「上限であるとされた前回改訂の授業時数を更に上回る改訂は,教育現場にとっては負担の増となる」と指摘しているのである。

3 なぜ,上限とされた前回改訂を上回る時数増なのか

 ではなぜ,中教審答申において,「上限であるとされた前回改訂の授業時数を更に上回る改訂は,教育現場にとっては負担の増となる」と指摘しているにもかかわらず時数増の改訂を行うことになったのだろう。
 そのことについて答申の「外国語教育の充実」の項から見ていこう。
 答申では,外国語教育の充実の背景を,「社会における急速なグローバル化の進展という社会的な背景」と「これまでの外国語教育の進展や課題を踏まえた更なる取組の充実」の2方向から述べている。社会的背景として答申では,次のように述べている。
「グローバル化の急速な進展が,社会のあらゆる分野に影響する現在やこれからの社会の在り方を考えると,外国語,特に国際共通語としての英語によるコミュニケーション能力は,これまでのように一部の業種や職種だけでなく,子供たちがどのような職業につくとしても,生涯にわたる様々な場面で必要とされることが予想され,今まで以上にその能力の向上が課題となっている。」
 つまり,急速なグローバル化の進展により,一部の業種や職種だけでなく,子供たちが将来どのような職業につくとしても英語が必要とされることが予想されると指摘しているのである。
 また,これまでの外国語教育の成果や課題から次のように述べている。
「小学校段階においては,高学年の外国語活動により,児童の高い学習意欲,中学生の外国語教育に対する積極性の向上といった変容などの成果が認められる。一方で,①音声中心で学んだことが,中学校の段階で音声から文字への学習に円滑に接続されていない,②国語と英語の音声の違いや英語の発音と綴りの関係,文構造の学習において課題がある,③高学年は,児童の抽象的な思考力が高まる段階であり,より体系的な学習が求められることなどが課題として指摘されている。」
 小学生の高い学習意欲や中学生の積極性の向上という成果が出ている一方で,小中の接続の問題,高学年児童がより体系的学習を求めている等の課題が示されている。
 さらに,答申は,次のように述べている。
「こうした成果と課題を踏まえ,次期改訂においては,第2部第2章12.に示すとおり,中学年から『聞くこと』『話すこと』を中心とした外国語活動を通じて外国語に慣れ親しみ外国語教育への動機付けを高めた上で,高学年から発達の段階に応じて段階的に文字を『読むこと』及び『書くこと』を加えて総合的・系統的に扱う教科学習を行うことが求められる。」。以上のことを踏まえ,次のように提言されたのである。
「このような方向性を目指し,小学校高学年において,『聞くこと』『話すこと』の活動に加え,『読むこと』『書くこと』を含めた言語活動を展開し,定着を図り,教科として系統的な指導を行うためには,年間70単位時間程度の時数が必要である。また,中学年における外国語活動については,従来の外国語活動と同様に年間35単位時間程度の時数が必要である。」
 このような理由から,「上限であるとされた前回改訂の授業時数を更に上回る改訂は,教育現場にとっては負担の増となる」ことは承知の上で,時数を増やす必要があったのである。

4 高学年「外国語科」の時数増への基本的考え方

 しかし,時数増は様々な困難,克服しなければならない点がある。そのことについて答申では「次期改訂に向けた授業時数の考え方と時間割編成」の項で次のように述べている。
「現行学習指導要領における各教科等の授業時数を前提に考えれば,外国語教育の充実を図ることにより,時数としては中・高学年において年間35時間単位増となる。週当たりで考えれば1コマ分であるが,教育課程全体の枠組みの状況や,小学校における時間割編成の現状を考慮すると,全小学校において一律の取扱いとすることは困難であり,この時数の確保をどのように行っていくかについては,各学校の実情に応じた多様な時間割編成を可能としていく方向で検討していくことが必要である。」
 ポイントは2点である。1点目は,「全小学校において一律の取扱とすることは困難」であること。2点目は,「各学校の実情に応じた多様な時間割編成を可能としていく方向で検討していく」ということである。時数増への対応は,各学校にまかされているということである。さらに,答申は次のように踏み込んで対応の方向性を示している。
「高学年において年間35単位時間増となる時数を確保するためには,外国語に多く触れることが期待される外国語学習の特質を踏まえ,まとまりのある授業時間との関連性を確保した上で,効果的な繰り返し学習等を行う短時間学習を実施することが考えられるが,ほかにも,45分に15分を加えた60分授業の設定,夏季,冬季の長期休業期間における学習活動,土曜日の活用や週当たりのコマ数の増なども考えられるところであり,場合によってこれらを組み合わせながら,地域や各学校の実情に応じた弾力的な時間割編成を可能としていくことが求められる。」
 高学年の時数増への対応にについて5つの具体的例が示されている。
 1つ目は,「まとまりのある授業時間との関連性を確保した上で,効果的な繰り返し学習等を行う短時間学習を実施」
 2つ目は,「45分に15分を加えた60分授業の設定」
 3つ目は,「夏季,冬季の長期休業期間における学習活動」
 4つ目は,「土曜日の活用」
 5つ目は,「週当たりコマ数の増」
 以上のような様々な方向で,各学校の実情に応じて弾力的に時間割を編成することが求められているのである。それぞれの具体例の検討は,次号で詳しく行いたいと考えている。

5 中学年「外国語活動」の時数増への基本的な考え方

 では,中学年の「外国語活動」の時数増への対応についても答申を見ていこう。
 中学年では,先に確認したように3年生は,1コマ増で対応する余白がある。ここで問題になるのは4年生の外国語活動の時数増への対応である。答申では次のように述べている。
「また,中学年については,外国語活動を短時間学習で行うことは難しいと考えられるが,そのほかについては同様の考え方に基づき,地域や各学校の実用に応じた弾力的な時間割編成を可能としていくことが求められている。」
 中学年の外国語活動については,短時間学習で行うことは難しいとはっきり示している。そうすると,高学年の場合に示された具体例5つのうち,1つ目と2つ目は除かれると考えられる。残り3つ「夏季,冬季の長期休業期間における学習活動」「土曜日の活用」「週当たりコマ数の増」の方向で各学校の実情に応じて弾力的に時間割を編成することが求められることになる。

6 カリキュラム・マネジメントと時間割編成

 いままで,見てきたように新しい教育課程における時間割編成については,中学年からの「外国語活動」及び高学年からの教科としての「外国語科」の導入に伴う授業時数増にどのように対応していくか,ということが喫緊の課題となっている。このことに対応するために,文部科学省は,平成28年7月に「小学校におけるカリキュラム・マネジメントの在り方に関する検討会議」(以下 検討会議 と示す)を立ち上げている。平成29年2月14日に検討会議は報告書をまとめている。
 報告書では,冒頭,次のように報告書の趣旨を述べている。
「各小学校では現在でも,学習指導要領に定められた内容を踏まえながら,児童の生活時間及び教員の指導時間をどのように効果的に配分し,児童の生活や学びの質を高めていくかについて創意工夫を凝らした取組みが重ねられているところである。今後とも,年間35時間単位時間増となる中学年及び高学年の時間割編成や,児童の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた時間割の工夫といった新たな課題に,教育委員会や地域の校長会等と連携して応えながら,カリキュラム・マネジメントの中で,こうした創意工夫を継続していくことが求められる。本報告書は,こうした新たな課題に対応するために求められるカリキュラム・マネジメントのうち,特に『時間』という限られた資源をどのように教育内容と効果的に組み合わせていくのかという点を中心にして,参考となるポイントを整理したものである。」
 報告書では,弾力的な時間割編成を考える上で大切にしなければならないことについて「生活や学習のリズムの確立」と「学びの質を高める」の2点について述べている。
「生活や学習のリズムの確立」については次のように指摘している。
「特に小学校段階の学習においては,児童の学習規律の確立が学習の基盤となる。時間割は,学校における児童の生活時間を効果的に配分し,日々の生活や学習のリズムを作り上げていく効果を持つものである。日常的な生活や学習のリズムが身につくよう,なるべく恒常的な時間割であることが望まれる。また,各教室には,発達障害も含めた多様な学習ニーズを抱えた児童が存在することを踏まえれば,時間的な見通しが立てやすい時間割が望ましい。」
 小学校段階の時間割編成を考える上で重要な視点が示されていると言える。「生活や学習のリズムの確立の観点から恒常的な時間割が望ましいこと」,また,「多様な学習ニーズを抱えた児童のために,時間的な見通しが立てやすい時間割が望ましいこと」これらのことを基本として考える必要がある。
 一方,「学びの質を高める」については次のように指摘している。
「一方で,児童の主体的・対話的で深い学びの実現に向けては,その時々の児童の学びの実態や学習内容に対応した,弾力的な時間割の設定が望ましいとも考えられる。(中略)朝や昼,放課後などの15分程度を,短時間の授業時間として教科の学習に充てたり,土曜日に実施される授業において,45分を超えた長時間授業の設定を弾力的に行ったりする様々な工夫は,児童の実態や学習内容を踏まえつつ,学びの質を高めるための創意工夫の一例であると捉えることができる。」
 今回の時間割編成の問題は,生活や学習のリズムを確立するための恒常性と,学びの質を高めるための弾力性のバランスを考えながら,児童や学校の実態に応じた編成が求められているということである。
 次号は,答申と新学習指導要領,報告書を踏まえ,より具体的に高学年,中学年のよりよい時数増の在り方について考えていきたい。(つづく)

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