直島町教育委員会濵中 紀子

どのような評価をしていますか?

 外国語が教科になることで,「評価」をどうしていますかと質問されることが多くなりました。そのような時,ペーパーテストの点数で総括的に評価することばかりイメージしている場合も見られます。それは,スポーツで言うと,練習をせずに試合をするようなことになりかねません。

 これから始まる教科「外国語」ですから,評価は「子供の能力を伸ばす」という教育本来の立場に立って,まずは,学習の途中での形成的な評価を中心にしながら指導者も学習者もそれぞれの改善をめざして行うことが大切だと考えます。

 確かに,直島小学校での長い間の実践の過程で,子供たちの英語学習への取り組み方を「遊び」から「学び」に変えた一要因は,「評価の在り方」であると実感しています。

 最初は,授業の振り返りとして「楽しく活動したか」「大きい声で言おうとしたか」「相手の目を見て話したか」といったどの単元にでも使える情意面や態度面の観点を示していました。

 しかし,平成14年頃から小中連携を模索し,「知識やスキル」も「態度」と同じようにコミュニケーション能力を支える観点と捉え,6年生に下のような「できることに挑戦する活動」を取り入れました(図1)。どの課題から挑戦してもよく,できたらスタンプをもらいます。友達と練習したり,自分でどんどん聞いてもらいに来たりと取り組み方はいろいろでしたが,活気づいていました。効果的に復習し,「自分ができることが分かる」,「何度もやり直せる」ということが子供たちの学習意欲を高めたと思います。

図1 できるかな? テスト
図1 できるかな? テスト

 これをそれぞれの単元や授業の中で実施するためには,まず,学校教育目標や英語教育目標を分析して各単元に落とし込み,目標や評価の観点,評価規準などを設定しなければなりません。逆に言うと,それがあって初めて評価ができるということになります。

 まだ全国的に教科として実施されていない時期でしたので,直島小学校独自に「学習指導指針」を作成し,各単元の目標に向かって付けたい力を「評価規準」として設定し,全員に到達して欲しい姿を「判断基準」として示しました(図2)。2020年からの教科化に向けてこれらは整ってくると思われます。

図2 評価の観点と評価方法
図2 評価の観点と評価方法

 評価の信用性を高めるためには,評価方法や評価技術等,さらなる吟味が必要ですが,とにかく子供の学びを多面的に捉えたいという思いで実践してきた具体的な評価方法をいくつか紹介します。

 まず,児童の振り返りをもとにした評価は,観点を最初に示すことが重要です(図3)。

図3 単元のリフレクションシート
図3 単元のリフレクションシート

 この5年生の「タイムマシーンに乗って」という単元の目標は,「タイムマシーンで行った場所に合わせて自分の名前,年齢,出身,好みなど,自己紹介をすることができる。」,「相手の返事にうなずく,確かめるなどしながら話を続けようとする。」です

 それを,「他の人になる」,「未来の自分になる」,「過去の自分になる」と,立場を変えて自己紹介する言語活動を通して達成しようとする単元構成です。

 単元全体のリフレクションシートを単元の最初から児童に持たせることで,指導者と児童が学習目標を共有して,単元を見通すことができます。また,指導者は,授業中における児童の学習の様子を見取る視点がはっきりします。難しく感じている所を把握して次の指導に生かすこともできます。

 児童の学習状況を「行動評価」として見取り,改善する場合は,活動の途中に「中間評価」を設けることが有効です。主な言語活動を前半,後半に分けて,前半終了後に友達の範例を見たり,英語表現を確認し直したりすることで,目標に向けて一人一人の後半の言語活動の質を上げるようにします。友達から学んだことや自分の活動を振り返ったことを生かしてすぐにやり直せる場が大切なのです。全員に到達して欲しい姿を「判断基準」として示していますが,全員がそこまで到達するよう支援するための大事な評価の場が「中間評価」だと考えています。

 また,できたことにステッカーを貼るなどして,一つ一つ達成していくように単元を組み立てていくことで,児童の学習意欲を高め,学びの様子が把握し易くなります。右の「道案内をしよう」の単元では,感じのよいガイドになることをめざして,6時間を3つに分けて,それぞれの最後に,リスニングプリント,口頭でのやりとり,ペアでのパフォーマンスでチェックし,ステッカーを貼ります(図4)。

図4 児童のチェックションシート
図4 児童のチェックションシート

 目標がはっきりすることで,途中で行うチャンツやゲーム的な活動も,何のために行っているのかを理解することができます。何よりもこの「できた感」を積み重ねることが自立的な学習態度を育成することにつながります。

 授業や単元の終わりなどに,簡単なワークシートを使って理解を確かめることにも取り組むとよいと思います(図5)。何度か聞いて確かめるなどして,分かったという自信を持たせていくことが大切です。このような経験が積み上がれば,学期末や年度末の総括的な評価方法も取り入れ易くなります。

図5 ワークシート例
図5 ワークシート例

 学習内容の定着を見るために,一定の時期に,次のようなことを行っています。 まず,年に2回,身近なものの語彙や基本的な表現がどのくらい言えるようになったかを,チェックシートを使って確かめます。学級の友達や異学年と相互評価をしたり,教師に聞いてもらったりします。同じシートを使うことで,前回より英語で言えることが増えたり,英語らしく言えるようなったりと,自分の伸びを確認しています(図6)。

図6 チェックシート
図6 チェックシート

 実技による評価としてALTと会話をする「コミュニケーション調査」も行っています。これは,コミュニケーション能力を評価する一つの方法として,1~5年生は,ALTと少人数児童(2~4人)で,6年生は1対1での会話の場面を設定し,その様子を観察するものです(図7)。

図7 ALTとの会話場面
図7 ALTとの会話場面

 学年に応じて,名前・年齢・誕生日・好きなもの・将来の夢・行ってみたい国など自分自身のことについての質問に答えたり,絵を見てそのことについて会話をしたりします。年に一度でも,次第にこのような評価場面に慣れ,分からない質問を聞き直したり,知らない言葉を“ What’s … in English, please?” と尋ねてから答えたりして,何とか応答しようとする姿が見られるようになります。 

 客観的評価として,外部調査も取り入れています。10月に,第3・4学年は児童英検BRONZEを,第5・6学年は児童英検SILVERを受検しています。英語を聞いてイラストや音声を選ぶことで,児童の理解力を測ることができます。結果が観点別に具体的に返ってくると,どのような力がついていて,今後どのような力が必要かということを児童自身が客観的に見直すことができます。授業での形成的な評価を丁寧に行ってきたことで,調査の素点分布は次第に高得点領域に集まり,個人差が減少してきました(図8)。現在も8割以上のところで分布していますので,指導の成果だと捉えています。

図8 第6学年 児童英検 SILVER における素点分布
図8 第6学年 児童英検 SILVER における素点分布

 このような総括的な評価方法も,何年間かのスパンで考えると,児童は自分の伸びを自覚したり学習意欲を高めたりし,指導者は指導の成果を確認したり次年度への改善をはかったりするための評価になっています。このように多様な評価場面を取り入れて評価し,昨年度からは「学びのたより」で数値による評定も児童に返しています。このことが英語嫌いを作るものではなく,毎年7月に行っている意識調査では,95%以上の児童が英語学習を楽しいと肯定的に捉えています。

 評価は,序列を付けるためではなく,児童の学習を支援するという立場に立って継続的に行うことで有効に働くものです。カリキュラム同様,最初から評価の完成形があるのではなく,模索し,改善し続けていかなければならないと感じています。

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