直島町教育委員会濵中 紀子

文字を取り入れたことの成果を感じています!

 外国語活動が始まって6年が過ぎようとしています。音声面やコミュニケーションの態度に一定の成果があった一方で,中学校1年生の約8割が「英語の単語や文を読むこと,書くこと」を学んでおきたかったと回答していることが報告されています。小中連携の観点からも,学習指導要領の改訂に向けて,小学校段階で「読むこと」「書くこと」をどのように取り入れていくのかが検討されています。

 直島小学校でも同じような経緯をたどってきました。平成6年度から全学年で,音声だけで英語活動をスタートしましたが,5~6年経つと,高学年の児童は音声だけの授業に飽きている様子が見られ,中学生からは,「小学校では文字がないのでよく分からなかった。」という声が聞かれました。英語教育を継続実践すること自体が大変なことではありましたが,改善のチャンスでもありました。
 平成14年度から小中連携の研究開発に取り組む際,3~5年生には,絵に文字を付けるなどして文字を見慣れるようにし,6年生にはアルファベット文字の学習や音声と文字をつなぐ活動を取り入れました。言語活動が広がったことで6年生の学習意欲の高まりが見られました。また,中学校1年生の2学期頃からぐっと下がっていた生徒の意識調査でも,ずいぶんと落ち幅を緩和することができました。

 教材の工夫改善をしながら6~7年継続実施した頃,6年生一人一人に普段よく目にしている10個の英文を見せて,読んでもらいました。すると,驚いたことに,ほとんど読める児童とまったく読めない児童にはっきりと二極化していたのです。音声中心の言語活動に文字を見せているだけでも,音声と文字がかなりつながっていくことも分かりましたが,同時に,意図的に指導しなければ全員を同じ土俵に乗せていくことは難しいことも分かりました。

 次の改善のチャンスです。平成23年度から三度目の研究開発に取り組む際,音声中心の言語活動に,次のように文字を取り入れることにしました。3年生からは,文字に関する4時間程度の単元を組み,それ以降は,授業の最初のwarm-upとして5分程度の帯活動をするという指導方法です。

1・2年生

アルファベットソングを通してアルファベットの大文字に親しむ。

3年生

アルファベットの大文字,小文字を認識する。

4年生

アルファベット文字の音を知り,音をつないで読んだり,カードで単語を作ったりする。

5年生

言い慣れた単語を読んだり書いたりする。
音声で言えるようになった会話文を読む。

6年生

単元の言語活動に初歩的な読むこと,書くことも取り入れる。

 3年生の「アルファベットで遊ぼう」の授業では,文字の形を体で表現しながらアルファベットソングを歌う,絵の中から文字を見つける,大文字と小文字をマッチングさせる,カードゲームをするなど,ペアやグループで楽しく活動しながら音声と関連させてアルファベット文字に親しんでいます。単元の最後には,アルファベット文字のお店屋やさんごっこをし,小文字を集めて自分のネームプレートを作っています。この単元が終わっても,1年間をかけてアルファベット文字の認識ができるよう,帯活動として文字に触れていきます。児童が間違いやすいb,d,p,qといった小文字を区別したり,文字の名前を聞いてそのカードを取るなどのゲーム的な要素を入れたりして楽しく繰り返しながら,特に小文字の認識を高めていくようにしています。
 4年生の「アルファベットには音がある」の単元では,児童は,アルファベット文字には「名前」と「音」があることを知り,それぞれの文字がもつ代表的な音を取り上げて,チャンツなどで「A(エイ),a(æ),a(æ),apple」のように口慣れていきます。そして,「音の足し算」として,例えばd(d),o(ɔ),g(g)の音をだんだん速くくっつけて「dɔg」と発音し,音を足していく感じをつかみます。これは言葉遊びとしても楽しく,児童も読めるという気持ちになるようです。このような学習経験を積んでいくと,次第に,単語を聞いて最初のアルファベット文字を当てたり,いくつかの単語を聞いて,最初のアルファベット文字が同じものや違うものに気付いたりすることができるようになります。また,身の回りの英語を声に出して読んでみようとする姿が見られます。

 3年生から文字に触れると言っても,学習方法はまさに「習うより慣れろ」という体験的な活動です。これまで全学年の児童が英語に触れていく様子を見ている中で,3年生がもつエネルギーに圧倒されてきました。体で表現し,果敢に挑戦する姿を生かして,発達段階に合う言語活動を取り入れているのです。頭で理解して文字を学んでいく前段階として,感覚的に音声とアルファベット文字をつないでいくのです。カードゲームでも,「わあ,間違えた!」「え?なんで合ってるの?」「それはもう分かるよ。」といろいろな声が聞こえてきます。これらの声から,間違えてもやり直せる安心感や理解しているというより感覚的に身に付いていること,何度も繰り返すうちに身に付いていくことなどが分かります。

 小学校段階では,音声とともにアルファベット文字に触れていくことが大切です。アルファベット順に分かるだけでなく,ランダムに,また,複数の文字を扱えるようになるには時間がかかります。そのため,体験的な活動を通してアルファベット文字に慣れていくことには十分な時間をかけて取り組みたいものです。中学年で時間をかけてアルファベット文字に親しんでいくと,高学年からは,それぞれの単元の中で文字を表現の手掛かりにしたり,音声で活動した簡単な表現を見て書いたりする活動もできるようになります。児童は,黒板にたくさんの英語の文字が提示されていても,文字に圧倒されていません。全部は読めなくても,自分の表現に必要なものを使っています。「言語習得は,曖昧さに耐えながらその曖昧さを減じていく営みである。」というお話を伺ったことがあります。これは,音声だけでなく,文字に関しても同じことが言えるなあと痛感するところです。

 このような指導方法を探らせてくれた当時の6年生は,現在中学3年生です。文字に対する素地があることで,中学校に入ってからも英語に対して高い学習意欲を保ってきました。学校外の英語での紹介活動などにも多くが参加し,英検の3級合格も6割を越えています。学び続けていくための基礎は育っていると感じています。理路整然と組み立てられたカリキュラムとは言えませんが,子供の様子を見ながら柔軟に考え,おおらかに,また,粘り強く音声と文字をつなぐ指導をしてきたことは,今,大きな成果を上げていると感じています。

 私たちがこれまで模索してきたことは,今後,よりよく整理されて短期間に取り入れられていくのかもしれません。文字に触れてみると分かりますが,子供たちは「読むこと」や「書くこと」が好きです。小学校の先生方の豊富なアイデアで楽しい学習になっていくことを期待しています。

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