直島町教育委員会濵中 紀子

授業作りのヒントは身の回りに・・・

「教科化されて教科書ができるまで待っていよう。」という声を聞くことがあります。確かに新たな『Hi, friends!』や教科書は学習内容や学び方を示してくれますが,それらを生き生きとした言語活動を通した学びにするには指導の工夫が必要です。私たちもカリキュラム作りに試行錯誤してきましたが,小学校英語における子供の実態に合わせた授業作りのヒントは,案外身近なところにあったように思われます。

 学習内容を考えるときは,英語で言ってみたい表現を直接子供に聞いてみました。子供たちから出てきたのは,下のようにどれも生活経験に基づくものであり,相手を想定した言葉でした。

・あいさつ

「こんにちは」「行ってきます」など

・友達を誘う言い方

「いっしょに~をしよう」など

・依頼する言い方

「取ってください」など

・質問する言い方

「どんな遊びが好きですか」など

・気持ちを表す言い方

「楽しい」「疲れた」「おもしろい」など

・紹介する言い方

 直島や日本のことを教える

・紹介する言い方

「それから」「でも」など

 子供たちは英語そのものを学ぶと言うより,英語を使って人とかかわりたいと思っていることが見てとれました。そうだとしたら,英語の練習をするだけではなく,人間関係を育成するという視点をもった言語活動を工夫しなければなりません。

 そんな思いに答えてくれた一つは,人権教育の研修会に参加してふと手にとった一冊の本,「Learning Together」というグローバル教育の本です。タイトルは英語ですが,英語の指導法ではなく,幼い頃から伸ばせる特に重要な力である「セルフ・エスティーム(自尊心)」,「コミュニケーション」,「協力」を育て,互いに働き掛け合いながら学ぶ学習方法を考えていく本です。 

 例えば,セルフ・エスティームを育てることを意識して,友達と好きなものを尋ねたり答えたりして「他の人とのつながり探し」をしたら,指導者は,さらに ”You all like ….” などと言って友達との共通点を意識させるように声をかけていこうと考えます。

 また,いろいろな色の形を使って何かを作る活動をしたら,作ったものを “This is ….” と紹介するだけで終わらず,聞いている友達が ”I like the color.”, “I like the idea.” などと,簡単な表現を使ってよい所を褒め,一人一人の思いを認め合う活動に高めていくようにします。

 同じ題材で,高学年では「コミュニケーションと協力」をめざして次のような言語活動を考えました。

【英語で勉強しよう -図工編-】

【英語で勉強しよう -図工編-】

 一人一人が作業した絵を友達のものと合わせると一つの大きな直島の風景になっていく過程は,まさに「コミュニケーションと協力」が必要であり,最後に一つの大きな絵になることで達成感や充実感も味わうことができました。小学校英語は,道徳教育や人権教育と大いに関連していて,言語活動の基本的な考え方を示唆してくれます。子供たちが英語の音声に慣れ親しみながら,よりよく人とかかわり合う視点をもって指導することで,英語を使った言語活動が豊かなものになりました。
 このような言語活動を具体的にイメージしていくには,児童の興味・関心を引くように単元計画を作っていくことが大切です。

 低学年や中学年の授業を考えていたときに単元構成について大いに参考になったのは,娘のオルガン教室での指導方法でした。歌やジェスチャー,音当て,片手弾きから伴奏,合奏や発表,五線上にマグネットを置く音階理解と,一つの曲に関連する5~10分の短い活動が,子供たちが飽きないようにテンポ良く切り替わっていきます。しかも,スモールステップで高まっていくように繰り返されます。グループレッスンの楽しさを味わいながら,いつの間にかその曲が歌って踊れて演奏できるようになっていき,その過程で音楽の初歩的な知識も身に付いていきます。このような学習方法は,まさに英語学習に置き換えられます。関連する短時間活動をスパイラルにテンポ良く繰り返しながらねらいに到達できるようにと単元構成を考えたものです。

 高学年になると,スパイラルに繰り返していくだけでなく,内容の深まりが必要となります。しかし,内容も英語も新しいとなると児童の学習負担が大きくなります。そこで,他教科での既習事項を生かして児童の興味・関心を高めながらタスク的な活動を組んでいく単元を考えてきました。
 例えば,高学年の家庭科では食品の栄養やバランスが良い食事について学んでいます。その学習内容を生かして,「オリジナルカレーを作ろう」という単元を設定しました。まず,家庭科で使っている食品カードを使って英語の語彙を増やしていきます。そして, “This is a carrot. It’s in the green group.” と,いろいろな食品をYellow group(Energy), Red group (Strong body), Green group(Healthy body)の3つの色画用紙(栄養群)の上に分けていきます。各班で,healthy curryやsweet curryなど,どのようなカレーを作るか相談し,そのようなカレーにするために自分が入れたい食品を選んで3ヒントクイズを作ります。グループ内で出題し,当ててもらえると食材として採用されます。このようにしてできあがったカレーをみんなの前で発表し,食べてみたいかどうか尋ねます。

 他の教科にもこのように英語の単元に関連付けられるものがたくさんあります。学習内容を系統的に縦につないでいくと同時に,他教科の学びと横につないでいくことも大切です。指導のヒントになることは,身の回りにたくさんありそうです。ぜひ,教科化までを「待ちの姿勢」ではなく,「能動的」に指導のアイデアを探ってみる,そんな準備期間にしてはどうでしょうか。

ページを閉じる

ページの先頭へ