「文科省指定の小学校英語の研究校?」「私が研究主任?」
人生にあるはずもなかった大事件が起こったのは,平成21年の3月,年度末であった。
「英語なんて話せないけど・・・。」「研究主任なんてしたこともないけど・・・。」
いろいろな不安がよぎる。
「でも英語の授業って,真面目に教材研究をしたら楽しそうだな!」という,ちょっとした明るい希望も・・・。
早速,児童用「英語ノート」を開いてみる。
「・・・・・・・・。」
次に指導書を開く。
「?????」
「まずい。授業のイメージが全く湧かない・・・・・・。」
このような状況でスタートした外国語活動への挑戦。
あれから,6年経った。
私は今,「県の英語授業マイスター教師」に認定されている。
不思議なものだ。
人間,興味を持って夢中でやればできるものだ。
とはいっても,未だに英語のスキルは,かなり低いのだが・・・。
さて,本エッセイでは,英語がとても苦手な小学校の教員が,不器用にも外国語活動の授業実践を積んでいったドラマをお伝えする。それとともに,小学校現場の状況についても。
そして,読者の皆さんと,小学校にふさわしい,日本ならではの小学校英語教育について考えていきたいと思う。
そう,来るべき数年後の教科化に向けて。
さあ,はじめに,読者の皆様に,ぜひとも小学校教員(私)の一日を紹介したい。
5学年担任時のある日のスケジュール *ちなみに( )は,私の心情である。
朝の会 (明るい笑顔とさわやかな挨拶で一日をスタートさせよう!)
朝の学習 (この時間で,四則計算を繰り返して完璧にしよう!)
1校時 算数(小学校で最も難しい「割合」の単元!2数直線図で理解を深めよう!)
2校時 国語(説明文の授業,筆者の主張に対する各々の考えを持たせよう!)
3校時 体育(跳び箱で全員に抱え込み跳びや台上前転ができるようにしなくては!)
4校時 外国語活動(ALTと協力して,なんとか45分間をこなさなくては!)
給 食 (アレルギーの児童への配慮,児童の好き嫌いをなくすべく給食指導!)
清 掃 (教室,英語ルーム,外トイレの掃除を担任一人で行ったり来たり・・・。)
昼休み (学級通信作りや印刷,休む時間なんてほとんどない・・・。)
5校時 図工(安全第一に版画指導,木版画の指導はきめ細やかさが求められる!)
6校時 図工(安全第一に版画指導,片付けまで気が抜けない!)
会 議 (職員会議で,きちんと提案できますように!)
残 業 (ここからが本番?教材研究!!!)
小学校教員は,基本的に全教科を受け持つ。
音楽では,鍵盤やリコーダーもきめ細かに指導することが求められる。
家庭科では,栄養素から調理実習,さらに手縫いやミシンの指導まで。
体育では,跳び箱,マットの器械運動から,水泳学習,ダンスと多様。
その一つひとつの指導のために,膨大な教材研究の時間と教材研究費がかかる。
ちなみに,追求癖のある私は,6学年国語の「やまなし―宮沢賢治―」の授業研究に7年間費やし,教材研究費はいつの間にか6桁になっていた。
もちろん身銭を切って学んでいる。
・・・と,やってもやっても,教材研究に終わりはない。
もちろん,学級経営が最も大切!
ADHD児や愛着障害児への配慮や,家庭環境に応じた手立てなど,きめ細やかに。
その他にも,まだまだある。
「食育をしなさい。」「キャリア教育をしなさい。」「ESD教育をしなさい。」
時代のニーズが押し迫ってくる。
それとともに校務分掌も。
なんという激務!
追い打ちをかけるように,今度は,英語教育ですか!!!
小学校の教員が,外国語活動を素直に受け入れられるはずがないのである。
一体,小学校の教員にどこまでやらせる気なのか?
教員といえども,一人の人間が,これだけのことをこなせるのか?
――― しかし,そんなことは言ってられない。
私は,文科省指定の研究校の研究主任なのである。
いやいや,そんな立場の問題ではない!
時代に柔軟に対応できる教員で在り続けるために,外国語活動を充実させなくては!!!
ふと周りを見渡すと,30代の私はまだいいのかもしれないと思った。
英語への苦手意識,いや英語を話すことに恐怖さえ感じている50代の先生方には,外国語活動の授業をして頂くのは,「酷」としか言いようがない方もいらっしゃるのであった。
・・・と,当時の様子はこのような感じであった。
小学校教員に何ができるのであろうか。
小学校教員だからできる英語教育があるのか?
そんなことを想い,ただただ愚直に,楽しみながら取り組んできた結果,小学校の教員こそできる英語教育が見えてきた。
それは,かなり本質的なことかもしれない。
子供たちへの想い。
英語を用いた活動を通して,相手の想いを聞いたり,自分の想いを伝える際には,言葉だけでなく,ささいな表情・態度・行動も大切なことを実感してほしい。
英語を通して,学級の友だちと仲良くなることができたという体験をしてほしい。
英語は世界中の人たちと仲良くなるための道具なのだということを体験的に理解してほしい。
このようなコミュニケーションの本質に迫る活動の結果として,英語運用能力の向上を図ることができたのではないかと感じている。
学習指導要領にある「コミュニケーション能力の素地」とは,
「日本や諸外国の人・言語・文化を尊重しながら,それらと積極的に関わっていくことのできる力」のことではないか。
そんなことを,子供の姿から感じた。
将来,子供たちは,世界中の人々と英語を用いてコミュニケーションを図り,互いに理解を深めていくことになる。
その未来に向けて,今,英語が苦手な私にもできること,
それは,
支持的風土のある学級で,
児童一人一人が安心して英語で言葉を交わしながら,
英語によるコミュニケーションを図る楽しさを実感すると共に,
日本や諸外国の言語や文化への興味・関心を高めていくこと───。
以後の連載で,授業実践の詳細をお伝えいたします。