教えて! 道徳Q&A

教科化の背景

Q

なぜ「特別の教科 道徳」になったのでしょうか?

A

 「特別の教科 道徳」がはじめて提言されるに至った背景の一つとして,平成23年10月に,大津市立中学校でのいじめによる自殺事件の発生がありました。そして,その事件がいじめの問題として全国的に大きな社会問題となったことから,改めて道徳教育の充実が強く求められるようになったのです。
 教科になることで,年間35時間という道徳科としての授業時間が確実に担保されます。これまで,なかなか充分に道徳の時間を確保できないという声もあったので,そういう意味で「量的」に道徳教育を充実させることができます。更に,学習指導要領の中でも強く言われていることですが,「質的」な転換も同時に図ることを求められています。量的にも質的にも,道徳教育がよりいっそう充実することが,今回の教科化には期待されていると言えます。

Q

「特別の教科」と,いわゆる「教科」との違いは?

A

 道徳科は教科ではなく「特別の教科」とされています。これには理由があります。いわゆる「教科」は,明確に定義がされているわけではありません。しかし,一般的には次の3つの要件があるとされています。

(1)免許(中・高等学校においては,当該教科の免許)を有した専門の教師が,

(2)教科書を用いて指導し,

(3)数値等による評価を行う,ものと考えられている。

(平成20年1月中教審答申の脚注(抜粋))

この3つの要件に沿って考えてみましょう。

(1)道徳は,もともと教員免許を取得するための教職課程の中でその指導法が必修化されており,専門の免許がありません。前提として,道徳教育は学校教育全体を通じて行われるためです。

(2)平成30年度からは検定教科書が導入されます。この点は,他の教科と同じです。

(3)児童・生徒の成長を認め,励ます記述式の評価を行うことになりますが,数値による評価は行わないことになっています。

 つまり,検定教科書を導入することのほかは,上記の一般的な「教科」の要件を満たしていないことになります。そういった意味で,道徳は「特別の教科」として位置付けられることになったのです。

学習指導要領の理念との関連

Q

具体的に,何が変わるのでしょうか?

A

平成27年3月に告示された小・中学校学習指導要領一部改正の概要は,次の通りです。

(1)「道徳の時間」が「特別の教科 道徳」(道徳科)として,位置付けられる

(2)「道徳教育の目標」が明確で分かりやすいものに改められる

(3)「道徳の内容項目」が発達の段階を踏まえて体系的なものに改善される

(4)多様で効果的な指導方法が導入される

(5)評価の充実が明記される

(6)検定教科書が導入される

 具体的に変わる部分として注目したいのは(4)の「多様で効果的な指導方法が導入される」ことです。ここには,児童生徒がしっかりと課題に向き合い,対話や討論など言語活動を重視し,問題解決的な学習や道徳的行為に関する体験的な学習を重視した指導方法の工夫等を行うことが明記されました。これは,「考え,議論する道徳」をめざし,児童生徒が自立した人間としてよりよく生きようとする資質や能力を養っていくことを意図しています。 「道徳教育の質的転換」とされている「考え,議論する道徳」を目指すところが,今回の教科化で大きく変わるところだといえるでしょう。そしてそれは,「指導方法の工夫」に期待されているのです。

道徳教育

Q

道徳教育と道徳科の関係には変更があるのでしょうか?

A

 新しい学習指導要領の総則で「学校における道徳教育は,特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり・・」と明記されています。従来の道徳教育と道徳の時間との関係と同じです。
 各教科等の活動などでも学習を通してそれぞれの特質に応じて道徳教育が行われています。道徳科は,各活動における道徳教育の要として,道徳教育としては取り扱う機会が十分でない道徳的価値にかかわる指導を補ったり,子供の実態を踏まえてより一層深めたり,相互の関連を捉え直したり発展させたりする役割を果たします。
 新たな教育課程の考え方としてカリキュラム・マネジメントの重要性が指摘されています。扱う内容項目にかかわって道徳科と他の活動との関連を一層緊密に図り,子供の道徳性を育むことが求められていることに留意する必要があります。

道徳科の目標

Q

道徳科は,どんなことを学ぶのですか? 生徒(生活)指導との違いは?

A

 道徳科は,一言で言えば「道徳性を養っていく」時間です。その道徳性とは,道徳的判断力,心情,実践意欲と態度とされています。これらについては,さまざまな考え方がありますが,「学習指導要領解説」によれば,以下のようになります。

道徳的判断力………………それぞれの場面において善悪を判断する能力

道徳的心情…………………道徳的価値の大切さを感じ取り,善を行うことを喜び,悪を憎む感情

道徳的態度と実践意欲……道徳的心情や道徳的判断力によって価値があるとされた行動をとろうとする傾向性

 この,道徳性を養うために,読み物教材などを使って,「礼儀」「生命の尊重」など,学習指導要領が定める内容について考え,話し合って深めていくのが,道徳の時間といえます。

 また,生徒(生活)指導とは大きく違います。生徒指導は,生活上の問題や規則等を正面から扱い直接指導することに特色があります。一方,道徳科は,内面的資質としての道徳性を養うことが目標です。

指導計画

Q

道徳が教科化されるに当たって,学校の道徳教育の諸計画について改訂することがあるのでしょうか?

A

 小学校は平成30年度から,中学校は平成31年度から「特別の教科 道徳」(以下,道徳科)が完全実施されます。道徳教育は道徳科を要として意図的・計画的に行われるものです。先ず,道徳教育の全体計画と道徳科の年間指導計画の改訂に着手する必要があります。
 全体計画や年間指導計画の作成に当たっては,児童生徒の課題などを考慮して重点目標を設定してきました。新たな学習指導要領では,小学校においては各学年を通して「自立心や自律性」「生命を尊重する心」「他者を思いやる心」が,さらに中学年では「善悪を判断し,正しいと判断したことを行うこと」,高学年では「相手の立場を理解して支え合うこと」「日本人としての自覚」などの重視が求められています。中学校においては「自立心や自律性」「自らの弱さを克服して気高く生きようとする心」「伝統と文化の尊重」などの重視が求められています。
 このことを踏まえ,自校の児童生徒の課題に加えて,社会的な要請も考慮して重点目標を見直し,諸計画に反映させることが重要です。

Q

年間指導計画を改定しますが,新しい教科書の教材を順次扱うことではいけないでしょうか?

A

 完全実施前年の8月に各地区教育委員会で教科書採択が行われ,使用する教科書が決定されます。教科書は主たる教材として使用されるものです。
 中央教育審議会答申(H26,10)は「教科書のみを使用するのではなく,各地域に根ざした郷土資料など,多様な教材を併せて活用することが重要と考えられる。」と述べています。
 これまで,関係者の努力によって作成されてきた郷土資料などの資源を無にしてはなりません。児童生徒にとって興味関心の高い資料などを年間指導計画に位置付けることは大切です。その際,教科書の教材との入替えが必要になることもあります。採択から実施まで実質7か月しかありません。全教員で組織的に取り組むことが求められます。

指導体制

Q

道徳教育推進教師にはどのような役割が与えられているのでしょうか?

A

 学習指導要領総則に,道徳教育を進める配慮事項として「校長の方針の下に,道徳教育の推進を主に担当する教師(以下「道徳教育推進教師」という。)を中心に,全教師が協力して道徳教育を展開すること。」と示されています。
 役割には解説書に以下の内容が挙げられています。①道徳教育の指導計画の作成に関すること。②全教育活動における道徳教育の推進,充実に関すること。③道徳科の充実と指導体制に関すること。④道徳用教材の整備,充実,活用に関すること。⑤道徳教育の情報提供や情報交換に関すること。⑥道徳の授業公開など家庭や地域社会との連携に関すること。⑦道徳教育の研修の充実に関すること。⑧道徳教育における評価に関すること。
 これらのことを一人で行うのではありません。道徳教育推進教師は道徳教育推進のコーディネーターです。教職員全体を組織化し,上記の内容を分担して行えるよう企画立案して進捗状況を管理することが重要です。そのためにはそれぞれの内容に対して適切な理解と自校の課題を熟知し,方向性を示す力量が求められます。

Q

他の教員等に道徳に対する関心を高めさせるために,道徳教育推進教師は具体的に何をすべきなのでしょうか?

A

 道徳教育推進教師が尽力するだけでは学校の道徳教育は充実・発展しません。全教職員が志を同じくし,一丸となって進むことが重要です。
 A4版1枚程度の「道徳通信」を校内向けに発行してみてはどうでしょう。印刷物をファイルしていくと,最後は道徳科の情報誌に近いものになるよう発行計画を立てます。教科化の背景から始めて,道徳教育の目標,道徳科の目標,指導計画,内容項目など,学習指導要領に記載されている事項を順次簡単に示します。職員会議で若干の説明を加える機会を設けると効果が上がります。
 また,授業研究を何度か実施したり,夏季休業日に研修会を設けたりすることも必要です。教員は「評価」に関心を寄せるかもしれませんが,何よりも道徳科の特質の理解と,それに応じた授業を行う「授業力」を高めることを重視すべきです。適切な授業がなされてこそ適切な評価が可能になるからです。

評価

Q

通知表に道徳科の評価欄を設けたいと思います。様式はどのようにしたらよいでしょうか?

A

 通知表は「学校が備えるべき表簿」として義務付けられているものではありません。発行の有無,様式や内容は学校に任せられています。
 平成28年7月22日,道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議が「『特別の教科 道徳』の指導方法・評価等について」の報告を提出しました。指導要録の参考様式が示されています。そこでは「特別の教科 道徳」との表記がなされ「学習状況及び道徳性に係る成長の様子」という事項が併記されています。
 指導要録の参考ですからこれを通知表にそのまま使用する必要はありません。表記は「特別の教科である道徳」「特別の教科 道徳」「道徳科」これらの中から学校が決めることになるでしょう。また,記入欄の大きさも校内で協議して適切に設定します。なお,指導要録の様式は各教育委員会が決定します。

Q

通知表での道徳科の評価記述と,総合所見の記述をどのように区分して書いたらよいのでしょうか。

A

 道徳科では,当該授業における子供たちの学習状況や道徳性に係る成長の様子などについて顕著な事項を文章で表します。道徳科に向かう学習態度,道徳科での学んだ内容,心の成長に対する自己評価などを素材にして記述する場合が考えられます。実施した授業に限定して好ましい事柄を示すという限定があります。なお,授業の成果として表れる具体的な行動の様子を書くことはありません。
 総合所見は,学習全体への姿勢,交友関係,役割や責任の自覚と行為など,学校生活の多岐にわたって素材を選び,行動として表れる側面を主として記述することになります。
 この区分は,指導要録の道徳科と行動の記録での記述にも当てはまります。

Q

道徳科の評価に当たってはどのような方法があるのでしょうか。

A

 児童に対しては,道徳性そのものではなく学習状況などを踏まえた成長の様子を記述します。そのためには情報を得る必要があります。方法としては,①授業観察(挙手,発言,頷きなど)②パフォーマンス(役割演技などでの言葉)③ポートフォリオ(ワークシート,感想などの記述)④自己評価(1回もしくは数回の授業を経ての思いや考えの記述)⑤アンケート(学習態度の項目に対する回答)などが考えられます。学校ではこれらの理解を図り,全面実施の前に授業を通して具体的に研修を積み重ねることが必要です。

Q

道徳科の評価に関して,児童の情報をどのように記録すればいいのでしょうか。

A

 道徳科でも補助簿が必要です。授業中に行う場合には,メモ記入用紙を手にして,発言や態度を適時記録します。座席表を用いたカルテを活用する方法もあります。授業後に行う場合には,個人カルテを用意し,一人一人の気付いた事柄を記入します。ほかには,評価したい項目や観点を一覧にした授業カルテを用意します。そこに,1回の授業ごとに気付いた児童の様子を記載します。評価したい項目や観点別に個別カードを作成し,印象に残った児童の様子をメモしておく方法もあります。
 一番やりやすい手段を見付けましょう。記録には児童に偏りが生じる可能性があります。適時振り返り,目立たない児童生徒に着目するように心掛けましょう。

Q

評価の原則として示されている「内容項目ごとでなく大くくりなまとまり」という意味を教えてください。

A

 2学期制,3学期制のいずれにせよ道徳科の授業は学期に数回行われます。通知表や指導要録の記述欄に,実施された授業ごとに学習状況を記述することは物理的にもできません。これが「内容項目ごとでなく」の意味です。実施された授業の中で児童ごとに特に教師が見取りたい授業をピックアップしていく方法が「大くくりなまとまり」という意味です。要は全体を見通してから記述することを求めているのです。

Q

評価の原則として示されている「個人内評価」という意味を教えてください。

A

 道徳科の授業を重ねるにつれて児童にどのような成長が見られるかは,一人一人異なります。Aさんの場合は,「これまで他の人の考えを聞こうとしなかったが,だんだん聞くようになり考えを広げられるようになった」,Bさんの場合は,「命に対する考え方が一層深まりを見せている」など,個人の「伸びしろ」に当たる部分が「個人内評価」の対象です。

Q

「個人内評価」ではどんな観点をもって見取ればいいのでしょうか。

A

 ①道徳的価値を理解し,自分なりの考えをもっているか。②多面的・多角的な見方へと発展させているか。③理解した道徳的価値を自分との関わりで捉え,深めているか。④自己の生き方(人間としての生き方)を考え,深めているか。⑤学習に対して真剣に取り組んでいるか。これらの観点を教師がもち,一人一人の様子を多様な方法で実態把握に努める必要があります。

Q

通知表での所見の具体的な記述例を教えてください。

A

(例1)道徳の授業では毎回積極的に挙手をしています。友達の意見にも真剣に耳を傾けて生き方を考えています。○年生として立派な態度です。
(例2)今学期,特に「手品師」の授業では,主人公の葛藤に共感しながらも,自分の仕事に誇りをもち,たった一人の少年であっても誠実に接し行動した主人公の姿に心を打たれたようです。誠実の意味を深く考えている様子がこれからのAさんの成長を予感させてくれます。
(例3)「〇〇」の授業を通して,「自分の心を大切にして,自分らしく生きようとする人間であっただろうか。」と述べています。自分のこれまでの在り方を謙虚に見つめる態度に担任も胸を打たれました。
 これらは一例です。事実を知らせることに留めず,教師が児童の様子の意味を価値付けることが所見と言えます。

Q

道徳科の評価に向けて教師に求められる態度は何でしょう。

A

 教師と児童との間に信頼関係があって初めて適切な評価ができます。このことを踏まえると以下の態度が重要です。
①児童はよりよく生きようとする力を持っているという信念を持つ。②心から児童の成長を信じ,願う姿勢を持つ。③児童の人格を尊重し,惜しみない愛情を注ぐ。④教師も人間としての未熟さを自覚し,児童と共によりよく生きようとすることを忘れない。

Q

道徳科の評価は児童に対するものとして捉えてよいのでしようか。

A

 「指導と評価の一体化」という言葉があるように,評価の意義には授業改善の役割もあります。以下の観点か挙げられます。
①学習指導過程は,道徳科の特質を生かしたものとなっていたか。また,指導の手立てはねらいに即した適切なものとなっていたか。
②発問は,児童が多面的・多角的に考えることができる問い,道徳的価値を自分のこととして捉えることができる問いになっていたか。
③児童の発言を傾聴して受け止め,児童の反応を指導に生かしていたか。
④教材や教具は,児童が自分自身との関わりで物事を多面的・多角的に考えさせるために活用されているか。
⑤ねらいとする道徳的価値についての理解を深めるための指導方法は,児童の実態や発達段階にふさわしいものであったか。
⑥配慮を要する児童に適切に対応していたか。

家庭,地域社会との連携

Q

道徳科の実施について,保護者や地域の人々に理解していただくにはどのような方法があるのでしょうか?

A

 子供の心の成長は,保護者や地域の人々の共通した願いです。教育というとその目は学力に向けられがちですが,根本的には「よりよい人間になってほしい」と誰もが願っています。道徳科の実施はそれに応える絶好の機会です。
 先ず,新年度や学期初めに,道徳科に関する学習指導要領改正の内容,学校の道徳教育の目標や考え方を説明します。参加しない保護者等もいるので,学校だよりや学年だよりなどで「特別の教科 道徳」の趣旨とねらいを知らせる必要があります。一回の記事では無理があります。シリーズ化して目標,内容,教科書,評価などの事柄を分かりやすい言葉で説明しましょう。「道徳だより」を発行することもよいでしよう。
 また,普段の道徳授業の様子を写真や子供のコメントなどを交えて情報提供することも大切です。学年だよりの学習予定欄に「道徳」を書き込むことは当然です。全校一斉に同一日に道徳授業を公開し,授業後に参観者と意見交換する機会をもつ地区もあります。道徳授業にゲストティーチャーとして招き,理解を図ることも有効です。

多様な指導方法

Q

道徳科に関わって「問題解決的な学習」という言葉がよく聞かれます。留意することは何でしょうか。

A

 問題解決的な学習の授業実践に取り組むことは大切ですが,問題解決的な学習は目的ではなく,あくまでも手段です。学習指導要領解にも「道徳科においては,道徳的諸価値についての理解を基に,物事を多面的・多角的に考え,自己の生き方についての考えを深める学習を行う。こうした道徳科の特質を生かすことに効果があると判断した場合には,多様な方法を活用した授業を構想することが大切である。」とあります。初めに問題解決的な学習があるのではありません。「道徳的行為に関する体験的な学習」も同様の位置付けです。

Q

道徳科での「問題解決的な学習」と各教科での「問題解決学習」とは異なるのでしょうか。

A

 基本的な考え方が違います。教科における問題解決学習の一般的な特性は,①問題を全員で共有・確認する。②問題に対して個人思考,集団思考,集団議論を行う。③全員が納得する解や結果を統一し,共有化する。という過程を経ます。
 道徳科で扱う問題は個人の生き方に関わる問題です。それは個別的であり,一人一人にとって切実なものでなければなりません。「なぜ,〇〇は大切か。……では,その理由が分かったらみんなでしっかり守りましょう」などの「合意形成を図る」ことが目的ではありません。「個に始まり個に終わる」過程になっているかが問われます。「問題解決的」とされる所以もここにあります。

ページを閉じる

ページの先頭へ