道徳授業,こうすればできる!

比治山大学准教授 森川 敦子

こうすればうまくいく! 誰でもできる!役割演技のコツ

 役割演技は,今,道徳科の授業の中でも「道徳的行為に関する体験的な学習」の一つとして注目されている指導方法である。以前から授業に導入されていた手法であるが,「やってみたいけれどやり方が分からない」,「効果やよさが今一つ分からない」,「子どもが恥ずかしがってうまくできそうにない」,「盛り上がらなかったら…と思うと不安」など,案外,役割演技を苦手とする先生方も多い。

1 そもそも役割演技とは? どんな効果があるの?

 役割演技はロールプレイング(role-playing)とも呼ばれ,現実に似せた場面である役割を模擬的に演じるもの。以前から学習・カウンセリング・心理療法などに用いられている。
 役割演技には,即興的な表現により,登場人物の気持ちを実感し,自己の行為や感じ方,考え方を再認識したり,様々な問題場面に出会った時に望ましい行為を選択したり,相手の立場に立って行動する態度を育てたりすることができるという効果がある。

2 役割演技にはどんなやり方があるの?

 役割演技には,シナリオ風の教材文そのものを登場人物になったつもりで再現していく方法,主人公が深く葛藤する場面や中心発問の部分など話の山場で行う方法がある。特に,話の山場で行う場合には,主人公や登場人物の気持ちや葛藤を広い視点から深く考えさせることができる。児童と教師,児童同士など2人でやりとりさせる場合には,アドリブも交え3~4往復程度やり取りさせるとよい。予めワークシートなどに主人公の思いを記述させ,それをもとに演技をスタートさせると児童もやり易い。

①主人公の立場を演じる方法(主人公と他の登場人物)

 例えば,「ブラッドレーのせい求書」(文部科学省『わたしたちの道徳 小学三・四年』)のブラッドレー(主人公)と母親との役割演技では,児童がブラッドレー,教師が母親役となり,母親役がブラッドレーに質問したり揺さぶったりしながら,児童がブラッドレーや母親の思い,葛藤,決断などに気付くようにする。児童同士で役割演技をする際には,演技後に役割を交代し,両方の立場を演じて感じたことや気付きなどを交流するとよい。

例)ブラッドレー:お母さん,このお金は返します。そして,お母さんのために,ぼくにも何かさせてください。(教材文の内容)

  母:なぜお金を返そうと思うの?お金がほしいから請求書を書いたんでしょう?

  ブラッドレー:お小遣いはほしかったよ。でも,お母さんはぼく達家族のためにたくさん家の仕事をしているのに,ぼくだけお金をもらうのはよくないから。

  母:お手伝いしたのに,どうしてお金をもらうのはよくないの?(略)

②葛藤する主人公を2人で演じる方法(主人公の中の2つの心)

 葛藤する主人公を児童と教師,児童同士などの2人で演じる方法。主人公の悩みや葛藤がより明確になる。例えば「手品師」(東京書籍『明日をめざして道徳6』)の手品師が,男の子の所に行くか大劇場に行くか迷う場面で,2人の手品師を演じる場合などである。

例)男の子の所に行きたい手品師:男の子の所に行く方がいいよ。だって,男の子と約束したじゃないか。約束を破ると男の子にも自分にも嘘をつくことになるよ。

  大劇場に行きたい手品師:でも,大劇場で手品をすることは長年の夢だったじゃないか。やっと大チャンスが巡ってきたんだ。それに誘ってくれた友達にも悪いよ。

  男の子の所に行きたい手品師:そうかもしれないけれど,きみの手品を心待ちにしている男の子を裏切ることになるのではないか?そんな気持ちでステージに立って,本当によい手品ができるのか?それで本当によい手品師といえるのか?

  大劇場に行きたい手品師:(略)

 これらの他,主人公が2~3人いる場合などに,各々の立場を児童が演じる例などもある。

3 これが大事!! 役割演技を成功させる7つのポイント

 役割演技を行う際には,次のポイントに気をつけるとよい。①演技前には,心を静め状況をしっかりとイメージさせる。②教師が手本を見せたり,全体の前で行う前にはまず隣同士のペアで演技させたりする。③ワークシート等の記述にこだわらず,即興的な演技を大切にさせる。④役割を交代させたり,友達の演技をしっかりと観察させたりする。⑤児童生徒の発達段階や実態に応じて,適宜教師が相手役を行い,児童生徒の考えを引き出したりゆさぶったりする。⑥演技後には,演技や観察の感想を交流させる。⑦教師が演技自体の上手下手を評価したり,他の児童生徒が演技者をひやかしたりしないようにする。
 小学校高学年や中学校でも児童生徒が戸惑いなく役割演技ができるよう,小学校低学年からの積み上げを大切にして,日頃から授業に取り入れていくようにするとよい。

参考文献

鈴木由美子・宮里智恵・森川敦子編『子どもが変わる道徳授業』渓水社,2014年
広島市教育委員会『規範性をはぐくむための教材・活動プログラム』2010年

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