道徳授業,こうすればできる!

比治山大学准教授 森川 敦子

導入はなぜ大切?

 通常,授業の指導過程としては,「導入」―「展開」―「まとめ」(道徳では“終末”とされることが多い)が用いられる。導入は,授業の入り口であり,よい意味で授業への構えをつくるものである。効果的な導入は,子供の意欲を引き出し,授業のねらいに深く迫る手立てとなる。逆に,悪い導入は授業を台無しにしてしまいかねない。ここでは,授業の重要な入口となる「導入」の在り方について考えてみよう。

1 導入の役割とは?

 導入には,次のような役割がある。

〇 授業や教材への興味関心を高め,子供が「面白そう! 読んでみたい」,「なぜ?考えてみたい」など,授業に主体的,積極的に取り組むことができるようにする。

〇 ねらいに深く迫るため,学習内容への理解を図ったり,自我関与の意識をもたせたりし,学習の大まかな方向付けや共通に考えるための土台づくりを行う。

2 導入にはどんな種類があるの?

雰囲気づくりの導入:自分の考えや本音を発言しやすいように,簡単なゲームやクイズなどで子供たちの心をほぐし,リラックスして授業に臨めるようにする。
例)友達ゲームをします。ある人の好きな物を聞いて誰のことか考えてみましょう。

教材への導入:授業で扱う教材の理解を深めるために,教材の内容に関する発問をしたり,子供の経験などを想起させたりする。

例)(ヒキガエルの写真を提示)これは何? ヒキガエルがそばに来たらどうする?
(国旗を提示)どこの国旗だと思いますか?
この国について知っていることはありますか?

テーマや価値への導入:ねらいに深く迫らせるために,本時のテーマや取り上げる価値に関する発問をしたり,子供の経験などを想起させたりする。

例)「命」と聞いてイメージすることは? 「命」を感じたのはどんな時ですか?
「親友」という言葉を知っている? 「よい友達」とはどんな人だと思いますか?

*テーマや価値への導入の場合,押しつけにならないように留意する必要がある。

3 導入の“裏技”あれこれ!

〇 導入は3分程度に収まるようにしよう。長すぎる導入,盛り上がりすぎる導入は,得てして失敗のもと。中心発問での議論や自分を見つめる時間を十分に確保できるよう,短時間で計画することが大切である。

〇 教師は子供の考えや発言に対して,できるだけ受容的な態度で接し,子供が発言したくなるような,リラックスした柔らかい雰囲気づくりに努める。

〇 実物や写真の提示,アンケート調査の紹介など,学習への興味関心を喚起できるような工夫をする。視覚,聴覚,嗅覚,触覚などの五感に訴える導入も効果的である。

〇 子供が身近に感じられる事柄を取り上げ,自分と関わりがありそうだと感じさせるいわゆる自我関与の意識を持たせるとよい。

〇 本時の道徳授業と体験活動や他教科の学習とを関連させて行う場合には,導入時に体験活動など他の学習の写真やVTRなどを提示し,既習学習の場面を想起させるようにすると効果的である。

〇 子供の経験を想起させる場合には,反省や懺悔の発表にならないよう配慮する。

〇 テーマや価値への導入の場合,授業を通して,子供が持っている既知の観念や建前的な考えを打ち崩し,新たな考えを引き出すような導入は効果的である。その際,「よい友達とはどのような人か?」「思いやりのある人とは?」など導入での問いと同じ問いを展開後段や終末で行い,違いや深まりに気付かせるなどの工夫があるとよい。

〇 同様にテーマや価値への導入でも,「きまりを守ることが大切だと思ったのはどんな時?」「公共のマナーを守らない人がいるがどう思う?」などと,望ましい価値や行為が透けて見える問い方では,「きまりは大切」「公共のマナーを守れない人はダメ」のような教師の期待する回答を先読みし,葛藤や深まりのない授業になる危険性がある。

4 導入は、絶対になければならないものですか?

 極端に言えば,悪い導入ならばしない方がよい。よい導入は子供の意欲を高め授業を成功に導く。しかし,失敗するとそのダメージは大きい。かつて私が参観した授業でも,導入で授業を台無しにしてしまった例は結構ある。逆に,すぐに教材から入る授業でもすばらしいものも多々あった。前述したポイントを踏まえ,ぜひ短時間で効果的な導入を実践してほしい。「ない方がよかった。」と言われる導入にだけはならないようにしよう。

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