道徳授業,こうすればできる!

比治山大学准教授 森川 敦子

道徳の授業づくりで大切なこと~3つの出会いのある授業に~

 道徳科の目標は「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため,道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を多面的・多角的に考え,自己の生き方についての考えを深める学習を通して,道徳的判断力,心情,実践意欲と態度を育てることとされている(文部科学省『小学校学習指導要領(一部改訂)』2015)」。

 この目標を達成するために,どのような道徳の授業づくりを行なえばよいのだろうか。よく先生方から,「道徳の授業は難しい」,「どうすればよい授業が簡単につくれるのか」という質問を受ける。私自身の経験から言えるのはやはり「よい授業には手間がかかる」ということである。特に道徳授業では「道徳的諸価値」や「よりよい生き方」という抽象的なテーマを扱うため,教材選定や教材解釈が授業の成否を左右する。教師が願いを込め丁寧に準備をすれば,必ず子どもにも伝わるし,逆も然りである。しかし,日々多忙な学校現場,道徳科の教材研究や教具づくりだけに多くの時間を割けないこともある。限られた時間を有効に活用し,子どもが意欲的になる道徳授業をつくるにはどのようにすればよいのか。ここでは,私が先輩方から教わった授業づくりのコツ「3つの出会い」を紹介する。この3つを意識した授業づくりをすれば,よい道徳授業に迫ることができると考える。

授業で大切にしたい3つの出会い

1.教材との出会い
2.友達の考えとの出会い
3.自分自身の考えとの出会い

1 教材との出会い

 よい教材と子どもをどう出会わせるか。これは授業の成否を左右する大きな要素である。今後は教科書ができるため,精選されたよい教材が子どもたちに提供されることになる。問題はその教材をどのようなタイミングで,どのように出会わせるのかである。もちろん,各学校の年間指導計画に基づいて,計画的に道徳授業を行っていくのが原則である。しかし,「最近子ども同士のトラブルが増えてきている」,「来月,地域のゲストティーチャーを招くことになった」など,年度初めには予想できなかった状況も生まれてくる。したがって,教師は教材の内容と子どもたちや学校の実態等を考え合わせながら,タイムリーなタイミングで教材と子どもたちを出会わせることが大切である。また,登場人物や場面のイラストや写真を活用し,教材の内容を全ての子どもが理解できるような提示方法を工夫したり,導入や終末で学級や学校の実態を取り上げ,子どもが自我関与しやすい状況をつくるなどの工夫をしたりしながら,子どもと教材の感動的な出会いを演出してほしい。

 もし,教師に教材選択の余地がある場合には,是非,定番教材といわれる教材や研究会等でよいと感じた教材を選び,まずは先人の授業づくりを真似てみることをお勧めする。

2 友達の考えとの出会い

 これは,子どもが授業に意欲的になる重要なポイントである。特に,他者の考えが気になり始める小学校中学年以降では大変効果的な方法となる。授業では,多様な考えや対立する考えが出るような中心(主)発問を設定するとともに,ペアやグループ,全体交流など友達の考えを聞き合える活動を設定することが大切である。「○○君とは普段あまり話したことがないけれど,とても深い考えをもっているな」,「○○さんは普段よく話をするけれど,そんなことを考えていたのか」など,子どもたちは授業を通して,友達の考えと出会う大切さや喜びを知る。授業の終わりに「ハッとさせられた意見」,「なるほどと思った意見」などを交流すれば,友達に認められる喜びも深まり学習意欲も向上する。友達の考えとの出会いは,学習の深まりや意欲の向上に大きくつながっていくのである。

3 自分自身の考えとの出会い

 道徳授業は「自己の生き方についての考えを深める」ためのものである。つまり,自分自身や自分の考えと出会わせることが,「道徳」の授業たるために最も大切なことなのである。したがって,展開後段や終末では,自分自身をしっかりと振り返る時間を設定する必要がある(最低10分間は保障したい)。授業を通して気付いたことや自分自身を見つめ考えたことを書かせるとよい。子どもが一生懸命に振り返ったことは,しっかりと認め,褒めよう。子どもの学習意欲を高めるには子どもの頑張りを褒める姿勢も大切である。

 最後に,「道徳」授業は人の生き方について考え続ける営みである。教師も人間である以上,上から目線で一方的に「正解なるもの」を伝えようとするのではなく,「わかっているけれどなかなかできない自分」,「それでもよりよく生きたいと願う自分」を認め合い,子どもと共に生き方を考え続けるスタンスで授業に臨んでほしい。

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