[本文]「生きる力」をメインテーマに掲げた今回の学習指導要領の改訂で,数学科においては「数学的活動の楽しさ」に力点が置かれている。これは内容の厳選に伴う「ゆとり」を有効に使うことが前提になっているものと思われるが,おそらくその意図は,単なる生徒の生活や経験から出発した数学だけを指しているものではない。そのことは,生活単元期の「這いまわる数学」という自嘲気味の言葉を省みれば容易に想像がつく。つまり,生活経験を基にした「数学的活動の楽しさ」の過度な強調は,改訂の本筋とは異なっていよう。一方,いわゆる伝統的な問題解決学習や,パターン化された数学学習の改善策である課題学習も内実は個人的な数学学習が主であり,ややもすれば「数学的活動」の内容に重点が置かれ,その学習を「楽しかった」ということができるような学習形態や学習展開をあまり考慮に入れなかったようにも思われる。すなわち,改訂に現れた文言の具現化には「数学的活動」と「楽しさ」を健全に統合する何かが必要なのである。むろんそれはモノではなく,統合主体が生徒である以上,子どもの具体的活動-「~する」という動詞的側面-となる。
さて,このことをふまえて新学習指導要領を見直せば,学年の目標の中にその解決の糸口が見いだされるように思う。たとえば,第3学年の(2)図形に関する目標では,改訂前「図形について見通しを持って論理的に考察する能力を伸ばす」から,改訂後「図形について見通しを持って論理的に考察し表現する能力を伸ばす」へと変更になっている。
長崎市立江平中学校 山下徹