「出るとこ出てもいいんやで,兄ちゃん」という台詞がある。紛争を裁判という手段で解決しようという積極的な意味では使われない。むしろ「裁判沙汰にしてやる」という脅しの意味で使われる。真っ当に暮らす庶民にとって関わりたくないものが裁判だからこその脅しである。司法に対する敷居は高く,憲法ともなればさらなる奥座敷にある。ところが2009年に刑事事件について裁判員制度が導入されることになり,司法は人ごとですませられなくなった。近い将来,今の中学生が裁判員として法廷にいることになる。制度を知識として教えればいいのか。法律家を招いて模擬裁判をし,条文の読み方や手続き,判決主文の論争点を教われば公民の学習になるのか。戸惑いと不安は隠せない。
東京都新宿区立落合第二中学校教諭 永野薫