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特別史跡平城宮跡は奈良時代の律令国家中枢の遺跡で,儀式や政務の空間(大極殿,朝堂院),天皇の住まい(内裏),官庁街(曹司),貴族たちの園遊空間(園池)などからなる。広さは約130ha。古都奈良の文化財としてユネスコの世界遺産にも登録されている。国の機関(現在は奈良文化財研究所)による半世紀に及ぶ発掘調査の歴史があり,これだけの規模の遺跡の国家予算による継続的な学術調査は,まさに世界に誇るべき大事業といえよう。平城宮跡は784年の長岡京への遷都後,基本的に水田として利用された。このため水田耕土以下30~50㎝程度の土を取り除くと,比較的容易に奈良時代の生活面が現れる。発掘調査は,建物や井戸,溝,ゴミ捨て穴など当時の地面に残るあらゆる生活痕跡(遺構)を,調査員が土の違い(質,色,堅さなどを総合的に判断)から見つけ出すことにより進められる。また,遺構から出土する大量の遺物はその年代を探る有力なてがかりとなる。
奈良文化財研究所平城宮跡発掘調査部史料調査室長 渡辺晃宏