[本文より] 子どもの頃,私はハーモニカが大好きだった。
どうやら息を吹いたときはトニック(といった言葉はまだ知らなかったが)が鳴り,吸った時はそれ以外の音がすると理解していた。
残念なことに半音の出ない楽器だから,トニック感で始まる「荒城の月」などは演奏できないと思っていた。ソ,ソ,ド,レ,ミb,レ,ドー,ラb,ラb,ソ,ファ,ソーとなるはずだからである。ところが,同じ楽器を使って「荒城の月」を正しく吹いて聴かせてくれた人がいて,これにはびっくりした。つまりその人はミ,ミ,ラ,シ,ド,シ,ラーと吹いていたからだけなのだが,この工夫が私の第一の音楽におけるカルチャーショックと開眼だった。小学2年生の頃だったと思う。
作曲家 若松正司