[本文より] 何の疑問ももたず,何の抵抗も感じずに,“音楽”を生活の中に生かしている見事な生き方をたくさん発見することができる。“歩く”ことはその一例である。
6ヶ月にもなると幼児は首もしっかりと定まり,寝返りも近づく。このころ,両手で抱いたままひざの上に立たせると,幼児は片方の小さな5本の指はひざをつかんで離さないが,他の一方の足はしきりにひざを踏んで上下に動かす。“歩み”の願いを思わせるしぐさである。“歩く”は両方の足が交互に運べるようになって初めて成立するものであり,拍の連続が運動として可能になるわけである。しかし,この段階では,思いのままにならない両の足と,移動したいと願う二つの抵抗に,全身を震わせて同じ動きを繰り返しているのである。
鳥取大学教授 清水和