[巻頭言]「ツキ(月)」を歌う
眞理ヨシコ(声楽家)
「教室の窓」小学校音楽Vol.2(2004年9月発行)
東京書籍2004年9月発行
[本文より]「でたでた月が。まるいまるい まんまるい 盆のような月が。」 夜空の月は,田舎でも都会でも,路地裏でもビルの谷間からでも,今も昔も変わらず眺められます。観るもの聴くものが多すぎる日中から解放され,心が自由になるとき,月はどこまでも親しげについてきて笑いかける友だちです。月をじっと眺めていると吸い込まれそうになりますが,それは,いい私も,いけない自分も,どちらも私であることを,月は見通していながら黙って見守っていることを感じるからでしょう。心のありようが今問われています。優しい,まっすぐな,他人の気持ちを自分の気持ちとして思いやることのできる心を,変わることなくもちたいと願いつつ,それにこだわりすぎれば,かえって自分を見失うことに,いつか気がつくようになりました。そしてそのような心のありようは,子どもの頃,一人でまたは父や母に手を引かれ,弟の手を引いて月を見上げながら歩いたときに,心に植えつけられたものに違いないと。
声楽家 眞理ヨシコ