[本文より]
日頃の子ども理解は,教育に関わる者にとって欠かすことのできない活動だが,学校の中でそれに気付く時間が給食の時間である。給食の時間には,授業中とはまったく違った無垢の子どもたちに出会うことがある。声のトーンも笑顔も話し方もまるで 別人のように感じることもある。先日,1年生と給食を食べている時に,ロールパンを食べようとした男の子が「あっ,青虫」と叫んだ。「えっ,青虫。どこどこっ」とまわりの子どもがさわいだ。青虫はどこにもいなかったが,その男の子は,「『はらぺこあおむし』のあおむしがつくった穴だ。」と言って,ロールパンの裏にあいていた丸い空洞を見せた。そして,そこに指を入れて穴を貫通させた。エリック・カールの絵本『はらぺこあおむし』には,あおむしに食べられて穴があいたいろいろな食べものが描かれている。そうか,さっきの図画工作の時間にこの子が紙に貼り付けていた丸い団子をいくつも並べたようなものは,「はらぺこあおむし」だったんだと,その時やっと気付いた。今,この子の頭の中は,「はらぺこあおむし」だらけに違いない。エリック・カールがここにいたらさぞ喜んだことだろう。
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山梨大学教授 栗田真司