[本文より]
それはもう20年も前のこと,生活科という教科が出来るらしいという話題で持ちきりになった頃の出来事である。昨夜からの雪は,今も降り続いている。すべりやすくなった道を学校へと向かう。瀬戸内海に面したこの街に雪が降り積もるのは,数年ぶりのことだという。今日は,大規模な公開研究会が開かれる。全国から千人近い教師や研究者が集るはずだ。僕は少し遅れて2年生の教室に入った。指導案によると,おみこしをつくるというのが,今日の活動である。ところが,教室に子どもの姿はない。その時,誰かが叫んだ。「2年生が運動場で雪合戦をしてる。」こともあろうに公開研の大事な日に,授業をすっぽかしての雪合戦である。「担任は何をしてるんだ。」雪の降りしきる運動場に急ぐと,おどろいたことに担任も一緒になって雪合戦をしている。いや,担任が一番はしゃいでさえいる。わけがわからなくなって,僕は他の学年の授業を見に行った。
上智大学総合人間科学部教授 奈須正裕