[本文より]数年前に私の叔母が日本に会いに来てくれました。日本に興味を持っているため,ひらがなとカタカナを少し勉強してきました。旅行ガイドに載っていた文も一生懸命暗記しました。その一つに「何か飲みたいのですが」(“ I'd like something to drink”)がありました。
このように覚えた表現を実際に現地で使ってみることは,海外旅行の一つの楽しみですね。しかし,暗記した文を話せたからといって,その国の言語ができるようになった,分かるようになった,とは言えません。叔母の場合,「何か」「飲みたい」の意味を理解しないで「何か飲みたいのですが」という文を暗記しただけでしたので,「コーヒーを飲みたいのですが」や「何か食べたいのですが」といった応用がききませんでした。「何か飲まない?」というちょっと違った形の文で聞かれても,きっと意味は分からなかったでしょう。それに,日本語の文の構造を理解していないので,たとえ「コーヒー」や「食べる」という単語を辞書で引いて意味が分かっても,覚えた文の中で生かすことはできなかったでしょう。「何か」や「飲む」という単語も,文を暗記することで使い方まで分かるようになったとは言えません。文の構造を理解していない場合,文をまるまる暗記しても,ただそのまま使うしかありません。
立教女学院高等学校 北野マグダ